大きな窓からの眺めも美しい都心のマンションにくらすスコティッシュフォールドのミツバ。春がもうすぐそこという3月初旬の昼下がり。ふたりの間には、穏やかで親密な空気が流れていました。
写真・文:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)
猫:ミツバ (15歳) スコティッシュフォールドの女の子
男:鈴木則彦 CMディレクター。趣味は写真と音楽鑑賞
ミツバちゃんはいま何歳ですか?
- 今年の2月で、15歳になりました。
僕は、うちの猫(ジャスパー)に構いすぎると"シャー"といわれるのですが、ミツバちゃんは気高い雰囲気ですね。普段は、どんな風に過ごしていますか?
- 寒い時期ですと、僕が不在のときは、温かい場所を探してウロウロしてソファの上にいたり、ベッドの上でまるまっているようです。帰宅して床暖房をつけると、その上で寝たり、暖房の熱風がくるあたりに移動して、佇んでいたりしていますね。
床暖房、好きですよね。
- そうですね。それと、天気がいい日は窓辺ですかね。
ミツバちゃんとの出会いを教えてください。
- もともと、どちらかというと犬派だったのですが、ある時から「猫を飼いたいなぁ」と思うようになって。当時は今のように保護猫や里親募集というのが盛んになるちょっと前のことで、猫に会いたいと思って出かけたお台場のペットショップで、ミツバに出会いました。
ミツバちゃんには、ひと目ぼれだったんですか?
- 当時のペットショップは、今よりも犬が主役だったようで、猫はあまりいませんでした。猫のコーナーを眺めていたら、ケースの奥の方に座っていたミツバを見つけたんです。ケースをのぞき込んだら「どっこいしょ」という感じで起き上がって僕の方へ歩いてきて、目の前に座ってこちらを見てくれました。そのシチュエーションが、まさに「出会い」っぽくて、キュンとしてしまいました。でも生き物だし、衝動買いはいけないと思って、一週間くらい自分自身をクールダウンしようと思ったんです。もし売れちゃったら「縁がなかったんだ」と思うようにしようと。でも、次の週に行ったらまだいたので、連れて帰ることにしました。
そうだったんですね。その時ミツバちゃんは何ヶ月くらいだったんですか?
- 3ヶ月でした。本当にちっちゃかったです。
ミツバちゃんはスコティッシュフォールドですよね。最初から猫種は決めていたんですか?
- はい。猫の本をいろいろ調べて、スコティッシュフォールドや、全身グレーのロシアンブルーも可愛いと思っていました。一人暮らしでしたので、人懐っこくておとなしい猫がいいなと思っていました。でも、ミツバは活発な子でしたね。
現在のミツバちゃんは穏やかな猫さんですが、昔は活発だったんですね。
- スコティッシュフォールドにはアメリカンショートヘアの血も入っているので、そちらの血も少し多く入っていたのかもしれませんね。若い頃は、頻繁に高いところに登ったりして活発でしたね。
ミツバちゃんを迎えた当時も、いまと同じ家だったんですか?
- はい。前に住んでいた家はペットが飼えなくて、この家に引っ越して一年くらい経った時でした。
猫を飼うのははじめてでしたか?
- いえ、大学時代に友人から譲ってもらった猫を飼っていたことがありました。その時の猫も人懐っこくて可愛い子でしたね。子どもの時には実家で犬を飼っていました。
ミツバという名前の由来を教えてください。
- ミツバが家に来てから一週間くらい考えていたのですが、当時部屋にあった観葉植物に不思議な現象が起こったんです。ミツバが来る前にはなんともなかったのに、来たあとに根本からヒョロヒョロした細いものが20本くらい生えてきてました。なんだろうと思っていたら数日したら葉が開いて、それが三つ葉だったんです。なんだか不思議な現象がおきているなぁと思いましたが、それが綺麗だったので、名前をミツバにしました。
ちょっと神秘的な出来事ですね。
- 猫って、植物にちょっかい出すじゃないですか? 植物って身を守るために活動を弱めるというか、身をひそめるようなことがあるらしいんです。だからひょっとしたらですが、何かの拍子に、それまで土の中で眠っていた種がぐんぐん勢いをもって生えはじめたのかもしれませんね。
ミツバちゃんはどんな性格ですか?
- 小さなころは活発で、どちらかというと気性も荒いほうでした。いわゆる和猫みたいなのんびりし感じはなかったのですが、だんだんと人懐っこくてのんびりした甘えん坊になって、一緒に寝るようになってきました。
それは可愛いですね。
- 歳をとってから急に布団の中に入って寝るようになったり、顔のそばで丸まって寝るようになりました。不思議ですけどね。
体重も変わらずですか?
- だいたい3.5から4キロの間です。
小さいですよね。スコティッシュフォールドってこのくらいなんですか?
- どうでしょうか。この猫種にしては小柄な方だと思います。
ところで、部屋にはいくつか猫の絵がありますが、ミツバちゃんを描いたものですか?
- はい。えつこミュウゼさん、布川愛子さんに描いていただきました。
どれも特徴をとらえていて可愛いですね。僕も自分の似顔絵を描いて欲しいとはあまり思わないのですが、愛猫の似顔絵は描いて欲しいと思うことがあります。この感情はなんなのでしょうね。
- 描いていただくことで好きな作家さんとの交流が生まれたり、他にも猫が広げてくれた人との繋がりってあると思います。
確かにそうですね。猫が繋いでくれたご縁って、僕もあります。
- 猫と暮らすだけで豊かになっているのに、それ以上のものを与えてくれているところってありますよね。
ミツバちゃんと鈴木さんの関係は、言葉でたとえるとどのような感じですか?
- ミツバは、僕のことを親と思っているみたいです。
どんなときにそれを感じますか?
- 寝ているとお腹の上に乗ってきたり、枕元で寝ているときもあります。顔の近くで寝るというのは、飼い主のことを親と思っているのだと、本で読んだことがあります。最近の甘え方を見ると、親に甘える小さな子どものように感じます。ミツバの仕草を見ていると、人間と動物というよりも、親と子みたいに「いま甘えたいんだな」とか、「ご飯が欲しいんだな」とか……。言葉を交わすわけではないけれど、気持ちがわかるというか。それと、最近はよく鳴くというか、話しかけるような感じになってきましたね。
関係性が変化してきたような感じがあるんでしょうか。
- はい。より親密になった感じです。若い時のほうが、家の中を自由に移動して、僕にかまってくれることが少なかったです。
鈴木さんにとって、ミツバちゃんはどんな存在ですか?
- パートナーのような存在ですね。子どものようでもありますし。
ミツバちゃんはどんな食べ物が好きですか?
- カリカリが主食で、おやつとして魚のスティックを細かく切ってあげています。あと、海苔が好きですね。
海苔ですか?
- はい。おにぎりを食べていると必ず端っこを欲しがります。海苔を使った料理が食卓に並ぶと、目の色を変えて寄ってきて、少しだけあげると喜んで食べますね。魚や鳥よりも海苔の方が好きな、ヘルシー志向な猫かもしれません(笑)。
面白いですね。猫との関係って、僕もそうですが飼い主にしかわからないことってあるじゃないですか。ウチのジャスパーの場合だと、猫だけど絶対人間の言葉を理解していると思っています。ミツバちゃんの場合は何かありますか?
- ミツバも話しかけると、あたかもその言葉の意味がわかっているかのようにふるまうことがありますね。
何かとっておきのエピソードはありますか?
- 僕が寝て起きたときに、動物らしからぬ距離感で上からのぞき込んでいたときがあって、そのときはキュンとして、一緒に暮らしているんだなぁとあらためて思いました。
最近はどんなふうに過ごしていますか?
- 寝ていることが多くなってきて、やっぱり歳をとってきたなあと思うことがあります。
猫も犬も、歳をとったならではの可愛さがあると聞きますが、ミツバちゃんに対してもそのように感じることはありますか?
- ありますね。猫の15歳は人間でいうと80歳だとかってよく聞くじゃないですか? でも一緒に暮らしていると、15歳は15歳で、「15年目」という感じがします。だから決して人間の80歳とか100歳とか、そういう感じではないですね。
なるほど、深いですね。猫も犬もいくつになっても子猫や子犬のような愛らしさをもっていますし、特に動物は人間とは違って見た目が極端に変わったりしませんものね。
- そうですね。昔実家で飼っていた犬も15歳くらいまで長生きしました。私見ですが、どちらかというと犬の方が年齢なりの成長というか、年代のようなものがわかりやすい感じがします。猫の場合は成猫になったらそのまま進む感じで、極端な老いは感じないんですよね。
15年一緒に暮らして、これからこんな風に過ごしてくれたらなあという希望のようなものはありますか?
- 毎日、「お腹いっぱいだなあ」とか、「ポカポカして気持ちがいい日だなあ」、「ノリ(鈴木さん)が帰ってきたからご飯つくってもらうか」とか、その繰り返しで過ごしてもらえたらと思っています。細かなことは気にせず、日々単純なことの繰り返しでいいから、穏やかにずっと生きていて欲しいなあと思っています。