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若者のすべて なんだか、未来が楽しみになる。今を生きる20代の若者たちと、他愛のないおしゃべりを。

第5回:デンマークで暮らす若者たちは/前編

今回は、北欧・デンマークからお届けする特別編。
フォルケホイスコーレ(全寮制の教育機関)に通う若者たちの声を、
前後編の2回にわけてお届けしよう。
17歳半以上の人であれば、国籍問わず入学が可能だというフォルケホイスコーレ。
自分自身のこれからを見つめる場所として、
ここに通う若者たちはどう活用し、どのような未来を描いているのだろうか。

写真・文:Maya Matsuura 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

社会へ出る前に、自分自身を見つめる。

フォルケホイスコーレ

─フォルケホイスコーレとは?

学習科目の多様性、国や外部のシステムに捉われない独立した教育内容などを特徴とし、教師も含めた全員が共に生活する、全寮制の教育機関。哲学者であり教育者でもあるデンマーク人・グルントヴィが提唱した「すべての人に教育を」というコンセプトがもとになり、1844年に最初のフォルケホイスコーレが開校。当時は、主に学校に通えない農家に育った人などが対象だった。生徒たちは国籍に関係なく国からの助成金を受けることができる。発祥の地であるデンマークには現在約70のホイスコーレがあり、大学に進む前に本当に興味のあることが何なのかを探したい人や、新しいこと・職業へのチャレンジを考えている人など、幅広い世代の人たちが学んでいる。学べる分野は、アート、スポーツ、哲学、福祉など実にさまざま。


Engelsholm Højskole(エンゲルスホルム・ホイスコーレ)

 今回訪れたのは、アート専門のフォルケホイスコーレである「Engelsholm Højskole(エンゲルスホルム・ホイスコーレ)」。 コペンハーゲンから電車で2時間ほどの街「Vejle(ヴァイレ)」に位置し、1593年に建てられた古いお城で、約80人の生徒たちが寮生活をしながら学んでいる。
 生徒の80%はデンマーク出身。ディスカッションなどは英語で行われるが、授業は基本的にすべてデンマーク語。朝礼やイベントなどでは生徒が同時通訳を行い、インターナショナルの生徒はヘッドフォンをつける姿も。陶芸やガラス、ジュエリーや音楽など、校内のスタジオは24時間利用可能になっている。今回は、同校に通う6人の生徒たちに話を聞いた。

https://www.engelsholm.dk/en/about-engelsholm


Sayuri Murooka

◇Sayuri Murooka/サユリ(21)の場合
出身地:Kanagawa, Japan

ホイスコーレへの入学を志したきっかけは?

デンマークでの集団生活を体験してみたかったのが一番大きな動機です。もうひとつは、自然に囲まれて暮らしてみたかった。いわゆるニュータウンと呼ばれるところで育ったせいか、昔から田舎に憧れがあったのかもしれません。他にもホイスコーレはいくつもありますが、この学校は森の中の古いお城で寮生活と聞いて、真っ先にここに決めました。

何を学んでいますか?

Audio Visual。パソコンを使って、音から生まれる視覚をつくっています。
馬

いま学んでいることを志したきっかけは?

空間をつくることに興味がありました。専門は写真ですが、スタジオでのファッションシューティングなど、自分の頭に描いている世界を空間に落とし込む方法をもっと学びたいと思ったのがきっかけです。VJはそのひとつの方法として面白いな、と。

入学してみての感想は?

一番驚いたことは、皆が競争をしないということ。私は、競争社会の中で育ったせいかとても負けず嫌いで、いつも一番でいたいと思っていたんです。でもここではBest(一番)はない。最初は何を求められているのかわからず、とても戸惑いました。今まで人に負けたくないという思いでいろんなことに取り組んできたけど、ここで学んだのは自分と向き合うことの大切さ。自分はなぜこれが好きなのか、自分はなぜ写真を撮るのか? って。

もうひとつ気づいたことは、教師と生徒の関係がとってもフェアであるということ。学校のルールで気に入らないことがあれば生徒はそれを提案し、先生はトライさせてくれる。それがもしいいアイデアであれば、ルールはどんどん変わっていくんです。ある先生は、「I want to make them believe in themselves. (生徒たちには、自分を信じさせてあげたい)」と言っていました。生徒を信じる、そして信じさせてあげる。日本の先生たちも、もう少し生徒を信じてもいいのに。
Engelsholm Højskole(エンゲルスホルム・ホイスコーレ)

インスピレーションの源は?

自然、人、食。日常のものすべて。毎日が自分にとって新鮮です。

最近嬉しかったことを教えてください。

日本に一時帰国して、ここに帰ってきた時。みんなが「おかえり」って声をかけてくれて、本当の家みたいな感覚でした。

10年後どうありたいですか?

どんなかたちでもいいので、人のお世話をしたい。自分もたくさんお世話になったから。

Eva Cone

◇Eva Cone/エヴァ(21)の場合
出身地:Copenhagen, Denmark

ホイスコーレで何を学んでいますか?

セラミック(陶芸)です。

入学を志したきっかけは?

私の彼が、数年前にこのホイスコーレでエレクトロ音楽を勉強していたのがこの学校を知ったきっかけ。その話を聞いた時は“少し気になった”くらいだったんですが、今度はたまたまコペンハーゲンのバーで隣に座った人がこの学校のセラミックのクラスの話をしていて……。前からセラミックには興味があったので、これは行かなきゃ! と思い、登録しました。
ホイスコーレ

入学してみて、どうですか?

都会出身だから、こういう場所、小さな学校で暮らすことは大きな挑戦だった。でも、こうやって美しい自然に囲まれて暮らしていると、小さな変化に目を向けられるようになりました。それと同時に、自分と向き合う時間もできた気がする。

陶芸を選択したきっかけは?

今年でギャップイヤー(高等学校卒業から大学への入学、あるいは大学卒業から大学院への進学までの期間のこと)も2年目なんですが、1年目の時に働きながら陶芸のクラスにいっていたのがきっかけです。もう少しじっくり学びたいなと思いました。

最近嬉しかったことを教えてください。

学校生活の中で、真の友情を感じた時。寮生活をしていると、最初は「友達」というより、「友達でいなきゃいけない」という感覚の方が大きかった。でも一緒に暮らしていく中で、本当の心のうちを語り合う瞬間があったりして、「あ、これは本当の友情だ」って思う時が最近あったの。それが最近一番嬉しかったこと。

10年後どうありたいですか?

学びたいことがたくさんあるから、10年後までに学び切れるかわからない。でも、いい家に住んで、いい暮らしをしたいのはリアルなところ。

あなたにとって、インスピレーションの源は?

昔のものと、新しいものすべて。今のデンマークデザインって、シンプルでわかりやすくて、皆に好かれるものだと思う。それでもいいけど、たまにそぎ落とされすぎて冷たく感じたり、つまらないと思うことがあります。私は、日常に“小さな違和感”みたいなのを残すものをつくりたい。そのバランスが何なのかを、ずっと探しています。
ホイスコーレ

後編へ続く

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2020/03/30

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