前回に引き続き、北欧・デンマークからお届けする特別編。
ホイスコーレ(全寮制の教育機関)に通う若者たちの声をお届けしよう。
さまざまな目的を持つ、年齢や国籍が異なった人々と共同生活を送りながら、
自分自身を見つめ、学ぶ。
その先には、どんな未来が見えているのだろうか。
写真・文:Maya Matsuura 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)
共に暮らし、共に学ぶ。
─フォルケホイスコーレとは?
学習科目の多様性、国や外部のシステムに捉われない独立した教育内容などを特徴とし、教師も含めた全員が共に生活する、全寮制の教育機関。哲学者であり教育者でもあるデンマーク人・グルントヴィが提唱した「すべての人に教育を」というコンセプトがもとになり、1844年に最初のフォルケホイスコーレが開校。当時は、主に学校に通えない農家に育った人などが対象だった。生徒たちは国籍に関係なく国からの助成金を受けることができる。発祥の地であるデンマークには現在約70のホイスコーレがあり、大学に進む前に本当に興味のあることが何なのかを探したい人や、新しいこと・職業へのチャレンジを考えている人など、幅広い世代の人たちが学んでいる。学べる分野は、アート、スポーツ、哲学、福祉など実にさまざま。
前回(連載第5回)の記事はこちら
◇Freja Nørholm Jakobsen/フレア(19)の場合
出身地:Frederiksborg, Denmark
ホイスコーレで何を学んでいますか?
- ジュエリーです。
入学を志したきっかけは?
- 小さい頃から絵を描いたり、工作をしたりクリエイティブなことが好きでした。ただ、一体どこまで私はものをつくることが好きなのか、自分自身と向き合う時間が必要だと思ったんです。
なぜジュエリーを学ぼうと思ったのですか?
- 絵と同じように、趣味ではじめたのがきっかけなんです。自分で身につけたいと思うものが自分でつくれるって素敵でしょ?
入学してみて、どうですか?
- 絵を描いたり、ジュエリーをつくったり、自分の手を動かして何かをつくることは好きだったけど、「ただの趣味かも?」とも思っていた。でも、24時間こうして向き合っても自分が楽しめることがわかってとっても嬉しかったんです。「これを仕事にしたいかも」って思えるようになった。寮生活をするのもはじめてだったけど、いろんなバックグラウンドの人たちとコミュニケーションを取りながら暮らすのも楽しい。今まで知らなかった世界を一度に見た気がする。
最近嬉しかったことを教えてください。
- スタジオで一人残って作業していたら、自分にぴったりな技法を見つけたこと。水のなかで金属のかたちを変えていく方法なんだけど、自分の力以外のコントロールできないものでかたちが変わっていくのがとても面白い。
インスピレーションの源は?
- 学校の周りの森と湖。友達と過ごす時間。
10年後どうありたいですか?
- 正直まだわからない。でも、ものはつくり続けていたいと思う。
◇Tali Lehr-Sacks/タリ(19)の場合
出身地:Johannesburg, South Africa
ホイスコーレで何を学んでいますか?
- VJ。
南アフリカ出身とのことですが、ホイスコーレへの入学を志したきっかけは?
- デンマーク王立美術院を卒業した母に勧められたのがきっかけ。アートにはずっと興味がありました。
VJに興味を持ったきっかけは?
- 音楽は小さい頃から好きでした。せっかくならギャップイヤー(高等学校卒業から大学への入学、あるいは大学卒業から大学院への進学までの期間のこと)で、音楽を学んでみてもいいかもと思ったんです。それに、今いる小さな世界から出たいという気持ちも強かった。「外国で外国人でいることって、どういうことなんだろう」ということにも興味があったんです。最近は、ミュージックマネジメントが気になっています。
入学してみて、どうですか?
- コミュニケーションの大切さを実感しています。母国の第一言語は英語で、これまで基本的にどこの国に行っても不自由に思うことはありませんでした。でも、ここでは生徒の8割がデンマーク人。授業もデンマーク語で行われます。みんなで話し合う時は英語だったりするけど、いつもじゃない。私は本当におしゃべりなので、話したいのになんの話をしているのかもわからないという状況は、最初は本当に辛かった。
最近嬉しかったことを教えてください。
- 怪我をした時のことです。というと……なんか妙に聞こえますよね(笑)。学校の階段で滑って怪我をした時に、周りのみんなが心から心配してくれて、病院までついてきてくれる人もいれば、一晩一緒に過ごしてくれる人もいました。寮生活というのもあり、最初は仲良くするというより、仲良くしないといけないという空気を感じていました。でもこの怪我をきっかけに、本当の友情なんだって思えたんです。。
あなたのインスピレーションの源は?
- 学校の周りは、とにかく自然が豊かです。私の故郷の南アフリカとは生えてる木も全然違う。そんな小さな自然のなかでの気づきが、私のインスピレーションの源ですね。
10年後どうありたいですか?
- 才能ある若者たちが、暮らしている環境に関係なくクリエイティブなことをできる場所をつくりたい。私の故郷では、才能はあるのに経済的理由で学校に行けない人たちもたくさんいます。私はこうしてここで学べているけど、学べる場や、自分を表現する場は平等にあるべき。私はそんな場所をつくっていきたいです。
◇Josefine Hoseassen/ヨセフィーン(18)の場合
出身地:Fyn, Denmark
何を学んでいますか?
- ペインティングです。
入学を志したきっかけは?
- ギムナジウム(ヨーロッパの中等教育機関)で2年間勉強してたけど、ずっと何かが欠けている感じがしてました。なんというかもっと、クリエイティブなことがしたいってずっと思ってた。この学校のことを知って、1年残して学校を休学することに決めたんです。自分がクリエイティブなことに対して本当にフルタイムで向き合えるのかどうかを確かめてみたい、というのが大きな理由でした。
ペインティングに興味を持ったきっかけは?
- 8年生のとき、はじめてペイティングの授業で面白いって思いはじめたのがきっかけ。先生も素敵な人だった。それから暇さえあればずっと描いてた。
インスピレーションの源は?
- 自分の気持ちかな。何かモヤモヤしたことがあったり、気持ちの変化があった時にそれを表現する手段が私にとってはペインティング。だから、言ってしまえば日々の暮らし、周りの人、食べてるもの、周りの自然すべてが私にとってインスピレーションの源。とにかく自分と向き合う中で、新しいアイディアが浮かびます。
入学してみて、どうですか?
- こうやって寮生活するのもはじめてだったの。24時間ずっとクリエイティブな人たちと一緒に学んで、ご飯を食べて、湖で泳いで……。そうやって過ごしていく中で、皆の“自分との向き合い方”や“ものづくりの姿勢”から、学ぶことがたくさんあった。さっきインスピレーションの源は自分自身っていったけど、それもここで気づいたことかもしれない。
最近嬉しかったことを教えてください。
- この環境にいられることかな。クリエイティブな人たちに囲まれながら、こんなに美しいところで学べることが本当に幸せ。
10年後どうありたいですか?
- 10年後は28歳……。学校でペインティングを勉強しているかもしれないし、それを仕事にしつつあるかもしれない。もしかしたら、ペインティングからは離れているかもしれない。でも何かクリエイティブなことをしていたいと思うわ。