文・写真:堀井和子
フランス南西部 Sarlat の Marché Eglise Sainte-Marie の扉。
Sarlat の市街地の中心にある古い教会の建物を、建築家のジャン・ヌーヴェルが2001年にリノベートした屋内市場は、中の什器なども、このグレーを基調にしていてモダンに感じられました。
ドアの形と、何とも言えない濃いグレーの色、向う側の青空と風景を切り取る円形の窓のデザインにハッとしたのを覚えています。
元の教会の正面門が、巨大なスチールの1枚板に置き換えられたのだそうですが、日々の食料品の買物でここに通えるなんて素敵ですね。
2010年のドライブ旅行で立ち寄った Sarlat で名産の殻付クルミを購入。他にクルミ油、クルミのリキュール、ショコラ・オ・ノワなど、クルミを使った製品はパッケージやラベルも美しく、どれも買って帰りたくなって困りました。
昼食は市場近くのレストランで Salade Paysanne を。
マロンレタス、ゆで卵、ベーコン、カンタルチーズ、トマト、丸くスライスしたじゃがいもをクルミ油で揚げ焼きにしたもの、パセリを和えたサラダは、とても家庭的でおいしかったです。
表参道から細い道を入った所の工事現場。資材置場でしょうか。グレーの扉の向うに鉄骨が積み上げられていました。
鉄骨の底の面は、角が丸みを帯びた正方形、穴がいくつもあいていて、幾分錆びた様々な茶色の鉄の表情が魅力的。
グレーの扉がフレームのようで、切り取られた形と色が面白くて、何だか心が持ち上がりました。メタル系の経年変化に、ついつい反応してしまいます。
松林誠さんの絵は、2006年出版の「家をめぐる冒険」(幻冬舎)の時に描いていただいた作品です。
以前17年間住んだマンションは4階建で、傾斜のついた屋根部分が特徴的でした。
本の表紙カバーや帯は、これよりさらに濃いグレーが使われていて、文字はニュアンスのある水色。井上庸子さんのブックデザインは、松林さんの筆圧までこのグレーで掬い取って、颯爽として力強い。
マルシェの扉のグレーは、表紙カバーのグレーに似ているかなぁ・・・と。
梶なな子さんの磁器(直径はだいたい19cm)。
ベースはグレーで、表面の内側は明るめのシルバー。引っ搔いたような線と、このマットなシルバーの質感は、20年以上経過した今も変わりません。
銀彩の器は、年月を経ると黒っぽく色が沈んでしまうのですが、この器は不思議なくらい涼やかなシルバーで、飄々としています。買った頃より、堂々として風格が増したように思います。
(CLASKA ONLINE SHOP 「いいもの、みつけました!」第48回で、梶さんの金色の植木鉢を紹介しています)
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
1954年東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載 > 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」