文・写真:堀井和子
1990年頃のパリ、マレー地区に素敵なインテリア・雑貨のお店がありました。
"Miller et Bertaux (2)" のお店のカード、買ったテーブルクロスに添えてあった説明書、お土産のためにラッピングしてくれたロゴ入りの白いリボンは大切にしていますが、今見ても、使っている紙質や字体、レイアウト、黒の刷り色が、ものすごく洗練されて美しい。
Miller と Bertaux がデザインしてアフリカの職人が手織りで製作したエジプト綿のテーブルクロス(CLASKA ONLINE SHOP 連載「いいもの、みつけました!」第38回でジャム瓶の下に敷いてあるもの)など3枚は、丈夫でアイロン掛け要らずで、30年たった今も我家で活躍中です。
この銀色のケース&黒い表紙のノートも、このお店で見つけました。
銀色のケースはブリキみたいな材質で、表面は最初から細かい掠りキズや曇ったようなニュアンスが加わっていて、ヤシの木と文字が彫られた渋い金色の亜鉛みたいな板が、切手のように貼り付けてあります。中のノートの紙質もグレイッシュでざらっとしていて、何だか乾いた砂漠の空気を感じるような・・・。ふとサン・テグジュペリの小説を想い浮かべました。彼が乗る小型飛行機の機体の銀色のイメージで、ただの文房具ではないなぁという存在感に圧倒され続けています。
TVで見た安西水丸さんの本の装丁・挿画をじかに見てみたくなり、久しぶりに芦花公園の世田谷文学館を訪ねました。
装丁・挿画の他、絵本・漫画・雑誌・エッセイ・広告・立体物など、様々なジャンルの仕事が紹介されていて、作品の数も多く、とても見ごたえのある展示です。
「ホトトギス雑詠選集」(朝日新聞社 1987年)の表紙の版画4点は、抑えた色調の美しさに目を見張りましたし、「口笛のきこえる」(1985年)の原画の色と文字は、特別に深く記憶に刻まれたと思います。
切り抜いた後のマットなパントーンペーパーが何枚も広げられた展示にもワクワクして、安西さんが取り合わせる色に、迷いのない明るさを感じました。
ポストカードのコーナーも充実していて、帰りがけに選ぶ時間の楽しかったことといったら・・・。
安西水丸展は、会期が9月20日まで延長されたそうです。「ねじまき鳥クロニクル」は読んでいなかったのですが、表紙の猫のイラストはしっかりインプットされていて、原画の前で妙に懐かしく思えたのも不思議でした。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
1954年東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載 > 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」