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ホンマタカシ 東京と私 TOKYO AND ME (intimate)

Vol.18 クリス智子(ラジオパーソナリティ・ナビゲーター)
PLACE/表参道(渋谷区)

写真:ホンマタカシ 文:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

クリス智子さん
クリス智子さん
表参道の風景
表参道の風景
パンとサラダ
クリス智子さん
表参道の風景

Sounds of Tokyo 18.(Omotesando Street)


東京は、大人になってから住んだ街。まだ学生だった父と母が出会ったハワイで生まれて、8歳くらいまでのあいだにたくさんの街で暮らしました。
父が茶道の裏千家に入門したこともあって京都でも暮らしましたし、最終的に横浜に落ち着くまでは、宮崎やフィラデルフィアでも暮らしました。私の幼少時代は、家族の「過渡期」と共にあった感じです。

多い時は、2年で6~8回くらい転校をしたこともありました。当時色々な景色を見たことが、今の自分の精神性をつくったのかなあとは思っています。はじめてお会いする方とお話することに躊躇いはないし、環境が変わってもそれなりに影響は受けて馴染もうと思うとか。

子どもにとっては自分が住んでいる場所が「すべて」だと思うのですが、そのすべてがすぐに変わってしまう生活をしていたのですから……。子どもながらに「自分の居場所をどうつくるか」ということを大切に考えていた気がします。
その居場所は、例えば階段の下の小さなスペースでもいいし、拾った石ころでもいい。どんなものでも大切な拠り所になり得るんだ、と思っていました。
環境によって人格が形成される部分ってあると思うのですが、私の場合は環境が度々変わるから、どのような環境であっても「こう過ごせば自分が心地良いと思える」という術を自然と身につけてきた感じでした。

とはいえ子どもですから、そういう暮らしに、そこそこのエネルギーは使っていたんだと思います。でも幸いなことに楽しいことを見つけられたり、助けてくれる大人を身近に見つけることができたり、恵まれた環境にいたのかもしれません。その時の経験が、一事が万事今につながっています。

ラジオの仕事にもつながりますが、新しい環境を新鮮なものとして受け入れることや、はじめて出会う人とどういう風にお話をしたら楽しんでいただけるのかとか……。それって子どもの頃に考えていたことだったりするんですよね。

数年前に鎌倉に引っ越しましたが、ラジオパーソナリティの仕事をはじめてから都内でも引越しを繰り返す中、一番長く住み着いたのは中目黒あたりでした。それから15年ほど同じエリアで何度か引っ越しをするくらい好きな街でしたね。
他にもいくつか好きな街はありますが、横浜に住んでいた中学生の頃にダンスのレッスンで通っていた表参道は、特に思い出深い街です。
雰囲気が落ちついていて、大人になった今も好きな場所。都心なのに低層の建物が多くて空が広くて。並木道もあって歩幅が街に急かされない感じがあって落ち着きます。

横浜からJRを乗り継いで原宿駅へ。表参道を歩きながら「私、一人で東京の街を歩いているんだ」というワクワク感を感じていました。
当時通っていたダンス教室は表参道から少し裏に入ったあたりにあったので、メインストリートというよりは、一本奥に入ったエリアに思い出があります。
「河合楽器」の近くにあった「シュウ ウエムラ」のお店は記憶に残っていますね。実は、人生ではじめての化粧品を買った店なんです。当日はまだ同潤会アパートも健在でした。
横浜に住んでいた学生時代、愛読していた雑誌『オリーブ』で見ていいなあと思うお店はだいたい表参道周辺にあって、今もある「バンブー」という店にもよく食事をしに行っていました。今はイタリアンレストランですが、当時はサンドウィッチをメインでいただける店でしたね。ヨーロッパの空気を纏った建物が素敵で、いつかあそこに住みたいと思っていたくらいです。
最初は「レッスンに通う道」でしたが、自分が成長するにつれてだんだん表参道という街との距離が近づいていきました。

今でもあの辺りを歩くと、「あの時の自分がいるな」と感じます。
自分の通ってきた“時間”があちこちに存在して、好きだったお店や場所がなくなった今でも「やっぱり私が知っている場所だ」と、温かい気持ちになります。

昨年の春、最初の緊急事態宣言下の時に誰もいない六本木の街の景色を見た時にも感じましたが、東京って実体があるようでないというか……。建物にしてもお店にしても、この間まであったものが突然ふっと消えてしまうことが多いじゃないですか。
それでも、東京で仕事をしていると常に新しいもの・ことに触れる機会があって刺激的で。この情報量の多さは、東京という街ならではだと思います。

同時に思うのは、日々目に飛び込んでくるものや情報に対して「これでいいんだ」と安易に肯定するだけじゃなくて、常に問いかけたり疑う機会を東京という街からもらえているんだな、ということ。それってすごく貴重なことだなと思います。


クリス智子 Chris Tomoko

ハワイ生まれ。大学卒業時に、東京のFMラジオ局 J-WAVE でナビゲーターデビュー。以来、10年半務めた平日朝のワイド番組「BOOMTOWN」をはじめ、現在は同局の「GOOD NEIGHBORS」(月〜木 13:00〜16:00)を担当。現在は、ラジオのパーソナリティのほか、MC、ナレーション、トークイベント出演、また、エッセイ執筆、朗読、音楽、作詞なども行う。
HP:christomoko.com
Instagram:@chris_tomoko

表参道の風景

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2021/08/14

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