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Ambulantcolors

File7.
原陽子(銅版画家)

写真・聞き書き:久家靖秀 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

Profile
原陽子 Yoko Hara

版画家。武蔵野美術大学大学院修了後、「柳沢画廊(さいたま市)」、「シロタ画廊(銀座)」等国内外で個展、グループ展を多数行う。第64回日本版画協会 版画展 山口源新人賞受賞。2006年から2007年まで文化庁海外留学研修制度にてアイルランドに滞在し活動。2008年「Revelation」(アイルランドナショナルギャラリー)出品。多摩美術大学、東京造形大学で非常勤講師も務める。

Instagram: @harayoko_


原陽子
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原陽子

削って彫って、盛り上がる

ブルーグリーンの銅板葺屋根って、見た事あります?
あれは“緑青”といって、外気に晒された結果酸化したもので、
それを銅版画の場合は薬品を使って人為的に変化させる。そこが面白いんですよ。

若い頃から錆や金属の質感が好きなんです。
自分の手作業だけじゃなくて、化学反応が関係してくるところが好き。
銅板を削って彫って腐食させて錆になる。
素材の生まれ変わりを化学的に強制する感じ、盛り上がりますよね。
そして版が出来たら、次に刷るという作業があるんですけど、
この“もうあと一手間”あるのも良いなって。

長い間福生の米軍ハウスを借りて制作をしていたのですが、吉祥寺から通っていたので遠くて大変でした。
そこを借りていた13年の間に大家さんも変わって、いよいよその場所を売りたいということに。

ちょうど、自分の家を建てるタイミングだったんです。これまでのように自宅と仕事場を分けるのは合理的じゃないから、一階にアトリエをつくりました。
あの頃はパートナーも夜勤ばっかりで、毎日が慌しかったなあ。

設計をしてくれた建築家の石川淳さんと相談して、プレス機の設置場所を中心にアトリエの間取りを決めました。
一度設置したらもう動かせないし、でっかいトラックで搬入しての現場組み立てなんですよ。
鉄の塊みたいなプレス機、その時は職人さん3人がかりでお祭りみたいでした。

その重量を支える為に、床も「縁の下」のないフラット構造にすることに。
所謂“ベタ基礎”の方が湿気が溜まりにくいので、作品用紙にも良いということを知りました。
ほら、これが石川さんからのプレゼンスケッチなんですけど、このまま出来上がった感じでしょ?

私にとってアトリエは、静かで最も緊張感のある場所です。
自宅の一角にあるけどリラックス感もゆるやかに流れる時間もない。
展覧会は、平均して年に2回はやっているので、
日々展覧会の締め切りを目指して、どんどんやってます。
締め切りとは関係ない“落書き”も、毎日。

よく「そのバイタリティのもとは何なの?」って聞かれるんですけど、焦燥感かなぁ。
銅版画の世界には80代の現役作家もいるので、自分ではまだまだ感があります。
色々なことが曖昧なこの世界では、
仕事の流れを自分の行動で把握しないと何も成立しない、っていう意識が強いんです。
それなのに、自己プロデュースみたいなものが駄目で。
その分、人としてちゃんとしないと……。
ちゃんとしないとって、なんだかなぁって思いますけど。
どう? (と、パートナーの末房さんに話を振ると)

「自分の置かれた状況を肯定的に捉えて、どんどんやるよねー。大体は自分でつくった締め切りに向かってひたすら動いている印象だけど、締め切りが無ければ無いでモレスキンのノートにうんざりするくらい描いてるよね」

うん。そういう感じですね。

原陽子

2022年 東京都中野区


久家靖秀 Yasuhide Kuge

写真家。主な作品に、写真集『アトリエ』(FOIL)、『Mnemosyne』(HeHe)、『ニッポンの老舗デザイン』(マガジンハウス)、『デザインの原形』(日本デザインコミッティー)など。美術、工芸、デザイン、舞台芸術まで創造の現場を撮影し続けている。
https://kugeyasuhide.com/


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2022/06/13

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