写真・聞き書き:久家靖秀 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)
Profile
冨井大裕 Motohiro Tomii
武蔵野美術大学大学院造形研究科彫刻コース修了。2015年文化庁新進芸術家海外研修制度研修員としてニューヨークに滞在。既製品に最小限の手を加えることで、それらを固定された意味から解放し、色や形をそなえた造形要素として、「彫刻」のあらたな可能性を模索する。2008年よりアーカススタジオにて、作品が朽ちるまで続く実験的な個展「企画展=収蔵展」を開催。SNSにて日々発表される「今日の彫刻」などと併せ、既存の展示空間や制度を批評的に考察する活動も行う。現在、武蔵野美術大学教授。
THINK
アトリエの引っ越しは14回目です。
今回は知人の建築家が僕の生活寸法や研究室の間取りを基に考えてくれました。
コンセプトは「倉庫に住む」です。
アーティストがアトリエを設える場合、
例えば画家であれば、作品の収納は大抵、立ててしまってあって、
見直す際は、それを引っ張り出せば済むと思うんです。
対して彫刻というのは、軽すぎたり重すぎたり、
かたちも様々で時には倒れちゃったりして。
制作だけでなく、収納や設置計画すらうまくいかない事が多い。
要するに、こちらの思い通りにならないんです。
結果的に、彫刻家は制作の準備や環境、
つまりアトリエの様な“場づくり”のスキルが鍛えられるんですね。
それが高じて、作品のあり方を変えたくなった際にも「まずは環境からだな」と、
広い所から敢えて四畳半の狭い所に引っ越してみた事もありました。
実はその狭いアトリエでの制作が、作品の指示書をつくるきっかけになりました。
最初は制作の覚え書きのつもりだったのですが、いつの間にか指示書になって、これがなかなかいい仕事をしてくれます。
ご覧になります?
指示書に従えば、誰が作っても僕の作品になります。
素材は画鋲で、あとは指示書だけという作品もあります。
引っ越してきたばかりなので、現在はこれまでの作品を検品している最中です。
今回の引っ越しは、過去の作品に向き合う良い機会になりました。
今までしまい込んであった作品を見直していると、自分の中に新しい価値づけが現れます。
それを楽しんでいます。
書籍が本棚にあるだけで持ち主に経験を与えてくれる様に、
自分の作品を確認する際にもデータや写真だけじゃなくて、
こうやって収納している箱が目の前にある方が良いんですよ。
現物を箱から出さなくても、自分で描いた箱書きを見ると作品のスケール感や制作当時の感覚が蘇るんです。
冷蔵庫の中のあり合わせでつくるチャーハンが、妙に美味しかったりすることってあるじゃないですか?
思いがけずくっついてしまう関係や、もの同士の意外な関係性を探る事で、
作品が完成した時には自分こそが驚きたいと思っていますし、それが僕にとって大切なこと。
想定を越えた驚きがあった時にはじめて作品として仕上がるんです。
デスクの上に置いてある「THINK」というプレートは、父の書斎から頂いてきました。
学生時代からずっと狙っていたものです。
環境を変えても、自分のデスク周りのレイアウトだけはあまり変わらないんですよね。
2022年 埼玉県飯能市
久家靖秀 Yasuhide Kuge
写真家。主な作品に、写真集『アトリエ』(FOIL)、『Mnemosyne』(HeHe)、『ニッポンの老舗デザイン』(マガジンハウス)、『デザインの原形』(日本デザインコミッティー)など。美術、工芸、デザイン、舞台芸術まで創造の現場を撮影し続けている。
https://kugeyasuhide.com/