文・写真:堀井和子
手前は「ベッドでのむ牛乳入り珈琲」、奥は「わが家のメニュウ」。
瀧澤敬一さんのエッセイの本で、暮しの手帖社から1952年、1955年に出版されていて、装本は花森安治さん。
古書店で買った本の中でも、ページが茶色に近いベージュになって、かなりコンディションが危うくなっています。
特に「ベッドでのむ・・・」の方は、前半のページがはずれそうで、読む時、ドキドキします。
表紙の Café au lait au lit の手描きの文字や、「ベッドでのむ牛乳入り珈琲」という日本語のタイトルに、ぐっと魅き寄せられる装丁です。
キッチンでサラダのパニエをふりまわしたり、コーヒー挽きをくるくる廻す様子、アイスクリームやシュー・ア・ラ・クレーム、マカロンの描写も、当時を想像しながら読むと、映画を見ているような気分に。
デンマークの木のスプーンは、長さが25cm。
昔、DANSK で購入しましたが、穴開きは案外使う機会があって便利です。
例えば、洋梨の赤ワイン煮を1個ずつガラス皿にすくい上げる時、ベーグルをゆでて、ひっくり返した後、取り出す時など。
繊細なカーヴに仕上げてあって、使い勝手が特別によくて、大事な1本です。
「石井好子のヨーロッパ家庭料理」 文化出版局 1976年
石井好子さんが雑誌「ミセス」に、1972年1月号から74年12月号まで連載していた「ヨーロッパ家庭料理」をまとめた一冊。
当時大学生だった私は、母が購読していた「ミセス」のこの連載が楽しみで、母が読み終えた後、スクラップさせてもらっていました。
石井好子さんが知人宅を訪ね、料理を作るところから立ち合って、その時のエピソードも含めて綴った文章がとても素敵です。
フランスのボーヌ、ジャニオ家での“ぶどう酒料理”で紹介されている、梨のブルギニヨン アイスクリーム添え、パリの働く女性の “スピードクッキング” 西洋梨とバナナのタルト、西ベルリンの田中さんのカルトフェル・プファー(じゃがいものパンケーキ)は、くり返し作ってみました。
それぞれの家庭でサーヴされるメニューの組み合わせの粋なこと。
こんなふうに肩の力を抜いて、温かく味わえる家庭料理、今、ページを開いて見ても心が踊ってしまいます。
「イベット ジローの家庭料理」 主婦の友社 1970年
フランスのシャンソン歌手のイベット・ジローさんが来日して、料理全てを彼女自身が作って撮影したという家庭料理の本。
彼女には、料理がとても上手なペリゴール生まれの祖母と、ブルターニュ生まれの祖母がいて、フランスの地方の家庭料理を伝えられたそうです。
例えば肉料理。プロヴァンス風牛肉料理、ロレーヌ風豚料理、バスク風鶏料理、オーベルニュ風オックステールなど、コトコト煮込んだ気取らない料理が、鍋に入ったまま撮影されていて、レストランでサーヴされる一皿の料理とは全く違う印象を受けます。
30〜50代の頃、フランスの地方を車で廻る旅をくり返したのは、プロヴァンスやロレーヌ、バスク、オーベルニュなどの地方料理を、地元の人が集まるレストランや民宿で味わう機会を得たかったからです。
開いたページ左は、白いんげん豆、玉ネギ、キャベツ、じゃがいもを煮込んだブルターニュ風スープ。右はベシャメルソースにおろしたチーズをたっぷり入れたサボア風コロッケ。
「DESSERTORAMA」 ÉDITIONS CEDAL 1966年
果物別にレシピが紹介されている、フランスのデザートの本。
シンプルだけれど、ひとつひとつの果物のデザートの魅力、威力が素晴らしく、今、こんなメニューを出すお店があったら、絶対通ってしまうと思います。
QUATARAIN AUX POMMES のケーキ生地の完璧な焼き色とリンゴで出来た穴、 ルーアン風リンゴのタルトやブルターニュ風バナナの自然な仕上げかた、実際作ってみてどれも美味しくて、リピートしたデザートがいくつも。
キッチンで開くことができるコイル式で、ページは濡れても大丈夫なコーティングが施されていて、買った時と同じ綺麗なコンディションなのも嬉しい。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載 > 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」