文・写真:堀井和子
小型飛行機の音に気づくと、一生懸命、空を探すクセがつきました。
ヘリコプターの音と聞き分けられるようになって、小型飛行機の音にちゃんと反応して心が持ち上がっています。
飛行機を撮影するのはなかなかむずかしく、真青な空を飛んでいると機体が濃いグレーに写ってしまいます。
この日は白い雲が薄く広がった中を飛んでいたので、機体が少しだけ銀色に光って撮れ、嬉しくなりました。
飛行機(旅客機)に乗っての移動は苦手で、長時間の列車移動を選びがちな私ですが、長閑に空を旋回している銀色の機体を目で追うのは大好きです。
「香月泰男 スケッチ集 1956年 パリ篇 I 」(スケッチブック 2)
求龍堂から1972年発行。 CLASKA の大熊健郎さんが、以前贈ってくださった一冊。
古書店で香月さんのスケッチ集4冊を見ていて、この2月22日、ラスパイユ通りの雪のシーンがしっかり目に焼き付いていたので、「パリ篇 I 」を選んでくださったこと、飛び跳ねたいくらい嬉しかったです。
冬のパリ、11枚のスケッチは、茶褐色やグレー、黒の暗いトーンで描かれていますが、この1枚だけ、一面雪に覆われた白い路面で、ページを開いた瞬間、冷たく澄んだ空気を吸った気持ちになるのです。
左の女性のグレーの帽子と朱赤のマフラー、黒いコートも、右の女性のターコイズっぽい青のコートと茶系のブーツも、とても素敵に描かれています。
雪の日のスケッチを見て、ふと、雪が降ったら巻いて外へ出たくなる緑のマフラーをお見せしたくなりました。
「1/10000 department store」 2003 年(筑摩書房)の本で製作したマフラーのうちの1枚です。
姪や甥の絵や手描き文字を、Zakka の吉村眸さんに刺しゅうしてもらいました。
私は布と糸の仕事が上手にできないので(紙の仕事は得意なのですが)、吉村さんに「誰か刺しゅうが得意な方を知りませんか」と尋ねたところ、「4枚なら私が」と引き受けてくださったのです。
こげ茶色のマフラーに穏やかなオレンジ色で文字だけを刺しゅうした1枚と、この緑のマフラーは、特別な巻き心地で、20年近く愛用しています。
こげ茶色の方は黒やグレーのコートに合わせると、オレンジ色の文字のおかげで楽し気に。緑の方はパシッと勇気を出したい日に。
前の方のページに、グレーの建物と、葉をすっかり落とした深い茶色の樹々が画面を占めるスケッチがあります。
右側の歩道の奥、見切れるくらい端の濃いピンクがかった赤や茶色、黒のコートの人の描きかたも粋で、右端にぐっと魅きつけられました。
企画展の時、途中で追加納品したガラスの objet “Carré”。
ショーケースの棚板が、経年変化でたいそう美しい木目を見せていて、その上に正方形の氷か、透明の砂糖や寒天を使った和菓子が並んでいるようでした。
ひとつひとつ違う揺らいだ側面、ガラスの質感に照明が当てられて、展示されたその空間が作品みたいで、私たちもドキドキしていました。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載 > 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」