文・写真:堀井和子
SEPT SEPTIÈME 春夏のアイテムを撮影することになり、どんな背景がよいか思い巡らせていた時、通りがかった建物の壁面に目がとまりました。
コンクリート面を白くペイントしてあるのでしょうか。規則的に並んだ穴がリズミカルで、冷たい印象を軽減して清々しい。光の廻り具合もちょうどよく、この壁の前で撮ると、雰囲気があって綺麗に写りそうでした。
何かを屋外で撮影する時、背景の色やデザイン、光の具合が気になって、(例えば陽があたり過ぎてもコントラストが強くて)、実際に撮るのを諦めることもあるのです。
結局、実際の記事は、GALLERY CLASKA の空間で撮影しました。
こちらは、素材のブロックの穴がわかるグレーの壁面。
建物の、道をはさんだ反対側の桜の木が、枝を伸ばしています。昨年3月19日、桜が開花する数日前、蕾の先にピンクが見えてワクワクしました。
同じ3月中旬の千駄ヶ谷小学校の垂れ柳。下左は辛夷の白い花。
昨年この柳の大きな木は伐採されてしまったので、今年はこの芽吹きを見ることができません。
青い空に、黄緑色の花と新芽が、フワフワとやわらかく風にそよいでいて、とても美しかったです。
日経新聞の切り抜きです。
左下は2023年1月15日の記事、ゴードン・マッタ=クラーク「日の終わり(52番埠頭)(流氷と外観)」(1975年)。
マンハッタンの西側、ハドソン川沿いの閉鎖されていた52番桟橋の倉庫に侵入して半月形の穴を開けたアート活動は、映像や写真の記録に残っているだけだそうです。
検索したインターネットの画像より、新聞紙に印刷された、真冬のこの写真に、私は強く
1984〜87年 N.J.州に住んでいたことがあり、ハドソン川沿いのパークウェイのドライブや、厳寒のマンハッタンの空気感を知っていたので、何だか懐かしく、新聞の紙質と写真の相性がぴったりに思えました。
2018年の国立近代美術館での展覧会、見たかったです。
中央下は“装丁の美 十選”の(6)。
美術ジャーナリストの小林真理さんによる十選のうち、杉浦非水による「生さぬなか」(柳川春葉著)中巻の表紙。
白鷺と雨と波紋に、この緑の色が印象的で、一番深く記憶に残っています。
たった11.5cm×9cmの日経新聞の写真を目にした時、この一冊の本の存在感に圧倒されました。
私は、もしかしたら、新聞の紙質に載った写真が好きなのかもしれないと気づいた次第です。
中央は「時の子供たち」(上・下)(エイドリアン・チャイコフスキー著)(竹書房文庫)。
この表紙カバーの緑と線のデザインにハッとしました。
まだこの本を買ってはいないのですが。
右上は”空想の絵画 十選の(7)。
ジャン・デュビュッフェ「美しい尾の牝牛」。
右下は山本鼎「尋常茶飯録」のうち「(五)片恋」 葉書に描いた淡彩の作品。
枝や葉、鳥の様子が何だかいいなぁと切り抜いたら、山本鼎作と知って嬉しくなりました。
国立近代美術館で見た「ブルトンヌ」や「ブルターニュの小湾」など、ブルターニュ地方の版画がとても素敵で、その後神保町の古書店で本を買いました。
「ブルトンヌ」の背景の静かでグレイッシュな海のブルー、版画ならではのニュアンスに目を奪われたのを覚えています。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載 > 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」