写真・文:久家靖秀 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)
Profile
橋本麻里 Mari Hashimoto
神奈川県生まれ。日本美術を主な領域とするライター、エディター。公益財団法人永青文庫副館長。『美術でたどる日本の歴史』全3冊(汐文社)、『京都で日本美術をみる 京都国立博物館』(集英社クリエイティブ)、近著『かざる日本』(岩波書店)など日本美術に関する著書を数多く執筆している。
森の図書館
ここに落ち着くまでの経緯については、2020年6月から昨年5月まで『芸術新潮』に連載していました。
その後も本は増え続けています。
今はパートナーの蔵書を運び込んでいるところで「書塔」だらけですが、書籍はできれば開架で本棚に収まっているべきだと思っています。
専門知識のレファレンスをするだけではなく、知の世界を俯瞰するためにも、本棚は持ち主によって常に編集され、新陳代謝を続けるインタラクティブな状態になっていてほしい。
なので一部電子化もしていますが、大量の書籍を運用するにはやはり、物理的なタグ付けの方が有効なようです。
装丁の色や手触りといった物理情報と、「家の中のこのエリアにある、棚のあの辺りに」という空間情報の組み合わせで覚えているから、これだけ大量の本があっても、探すのは意外と難しくありません。
「閲覧室」と呼んでいる一番大きな部屋の周りはドアがなく、ぐるっと回遊できるようになっています。
室内を移動しながら“そういえばこんな本があった”と、色々な本を、毎日見るともなく目に入れている……。
常に情報が酸素のようにまわっているからか、思いもよらぬ知識と知識が結びつき、新しい着想が生まれているような気がします。
PCのデスクトップが広いと思考も広がる、と言われることがあります。
私にとっては閲覧室にある大きなテーブルがまさに「デスクトップ」。この平面があることで、そこに並べた本と共に思考が広がっていくのです。
“読んで書いて考える”を繰り返す。
この場所は住まいであり仕事場でもあるのですが、同時に「それらすべてが有機的に関係しあっている場」とでも言ったらいいのかな。いわゆる「LDK」である必要はないんです。
本棚には、辞典的な書籍も並んでいます。
たとえば数学の参考書にと、以前分厚い『オックスフォード数学史』を買ったのですが、パートナーも同じ本を持っていました。「まあこれは買っちゃうよね」と笑うしかないという。うーん。
2022年 神奈川県逗子市
久家靖秀 Yasuhide Kuge
写真家。主な作品に、写真集『アトリエ』(FOIL)、『Mnemosyne』(HeHe)、『ニッポンの老舗デザイン』(マガジンハウス)、『デザインの原形』(日本デザインコミッティー)など。美術、工芸、デザイン、舞台芸術まで創造の現場を撮影し続けている。
https://kugeyasuhide.com/