写真・聞き書き:久家靖秀 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)
Profile
ミヤケマイ Mai Miyake
日本の伝統的な美術や工芸の繊細さや奥深さに独自の視点を加え、 過去・現在・未来をシームレスにつなげながら、 物事の本質や表現の普遍性を問う作品を制作。 媒体を問わない表現方法を用いて骨董・工芸・現代美術・デザイン、 文芸など、 既存の狭苦しい区分を飛び越え、 伝統と革新の間を天衣無縫に往還。 水戸芸術館、 21世紀美術館、 ポーラ美術館、 千葉市美術館、 など展示および個展多数。 『蝙蝠』 (2017年) に続き今年5冊目の作品集 『反射』 が近々刊行される。
http://www.maimiyake.com
些細なことが仕事
東京から京都に移り住んで長いことアトリエを探していたのですが、
なかなか “これは” という物件に巡りあえずに悩んでいた際、 友人が 「滋賀県はどう?」 と紹介してくれました。
滋賀は最初は馴染みなく候補では無かったのですが、 こんな時代なので都心から離れた大きな淡水がある場所は良いかもと下見に来てみたら、 琵琶湖が良くてほぼ一目惚れしました。
昨年引っ越して来たのですが、 今年の夏休みには初の 「湖水浴」 というものを体感したり。
住めば住むほど、 ここの環境というか滋賀の存在感と自分の波長とが、 どこか似てるなという感覚がありました。
アトリエ兼住居は、 配水管整備の会社だった小さな建物をリノベしたのですが、
風の通りが良くて窓を開けっぱなしでも気持ちがよくて、 外気と室内とがシンクロしている感じです。
私も引っ越すまで不便を覚悟していたのですが、 どうも私は都会より田舎に対応型で、 パリにいたときも思ったのですが、 都市には適正サイズというものがあると感じます。
八百屋さんが沢山あって、 美味しいパン屋さん、 淡水魚屋や和菓子屋そして鍼灸も、 必要なものは徒歩で 5 分圏内にすべて揃ってとても快適です。 ただ、 関東圏東京までの日帰りが続くとちょっと体力的にも経済的にも大変です。
アトリエ内には、 自分の作品もですが、 学生の作品をはじめ、 様々な作家のものを含めた沢山のものが保管されています。
よくこれだけ沢山のものを管理できますね、 と驚かれる事がありますが、
ここにある工芸品や作品を “所有している” という感覚が自分の作品も含めてあまりないんです。
私はどちらかというとコレクター気質と言われますが、 正直お預かりしたものを “お守りしている” という感覚でして。
所有や管理という感覚はなく、 自分に与えられた時間の間だけお預りしている、 だからこそ丁寧に、 でも手放す時は喜んで次にお渡ししたいなと思います。
究極的には、 自分の身体も時間も今だけ預かっているだけじゃないか、 と。
家とアトリエが同じ場所になると、 生活の場は住みやすく整備する一方で作業場は散らかっているほうがしっくりきます。
卓球台を2つ広げてその上に試作中の作品を放置しっぱなしなのですが、
アトリエではしばし失敗が成功の母になるので、 ものが一杯になって積み重なりあっても、 それが何かに発酵してくるまで放置しておく方がいい感じになることが多いです。
作業を止めてでもアイデアの発酵を待つという過程を大切にそして丁寧に扱うのは何故かというと、 私の作品には “つくる素材や方法が簡単に決まらない” という性格があって、 何を、 何処で、 何時表現するかという軸に一番あった、 毎回違う多種多様な方法を見つけていく事自体も仕事だからです。
まるで酵母の様に昔からそこに存在しているのに、 言語化と可視化を未だにされていないギフト、 つまり贈り物に気がつくことができるのか? 一見すると何もないと思うところに、 道を見つけられるのか。
ここは身近にいるはずの 「自分の神様」 を見つける為の、 丁寧に時間と向き合う為の場所です。
2022年 滋賀県大津市
久家靖秀 Yasuhide Kuge
写真家。主な作品に、写真集『アトリエ』(FOIL)、『Mnemosyne』(HeHe)、『ニッポンの老舗デザイン』(マガジンハウス)、『デザインの原形』(日本デザインコミッティー)など。美術、工芸、デザイン、舞台芸術まで創造の現場を撮影し続けている。
https://kugeyasuhide.com/