窓から優しい日が差し込む広々とした家でおだやかに暮らす、ハチワレ柄がかわいい“うたさん”。優しい笑顔が素敵な写真家・本多康司さんとの日常を、少しだけのぞかせてもらいました。
写真・文:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)
猫:うた(14歳/オス)。好物は鰹節。
男:本多康司(写真家)。古い家が好きで、現在の家には今年の春に越してきたばかり。妻と猫のうたと3人暮らし。
HP:http://honda-koji.com/
Instagram:@honda_uta
本多さんのInstagramアカウント名は「honda-uta」で、うたくんの名前が入っていますね。
- あ、そうですね。Instagramにはそれ程うたの写真を上げていませんし、そんなに深い意味はないのですが。
二人でひとつ、みたいな意味があるわけじゃないんですね。
- はい、そうです(笑)。意味はないけど、もちろん好きですよ。うたは、妻が結婚する前から飼っていた猫なんです。妻とは、アシスタント時代に住んでいたシェアハウスで知り合いました。
そうだったんですね。
- ペットが飼えるシェアハウスで、捨て猫だったうたを引き取ったそうです。妻とは3年後にお付き合いするようになりました。だから僕にとってうたは“先輩”のような存在で、最初はどちらかというと僕のほうが“お邪魔します”みたいな関係性でした。
「うた」という名前は、本多さんの奥さんがつけたんですね。素敵な名前です。
- 漢字で「海詩」と書くのですが、妻の旧姓とポエムという意味の“詩”を組み合わせたそうです。響きもいいし、いい名前ですよね。
うたくんは、本多さんには最初から懐いたんですか?
- いえ、そうではなかったですね。実は、僕は子どものときから動物アレルギー持ちで、妻と一緒に暮らしはじめた時にも「うたがいる部屋は、僕がいる部屋と分けてほしい」と条件を出したくらいでした。僕もうたのことを警戒していますし、それもあってか、うたも僕のことが嫌いで。だから最初はあまりいい関係ではなかったですね。
あらら。
- でも、もともと動物が嫌いなわけではなかったので、一緒にいると、だんだんうたのことが好きになってくるんですね。うたにもそれが伝わったのか、僕に対して警戒心がなくなっていって。それと不思議なことに免疫がついたのかアレルギーの症状が軽くなっていったんです。今ではうたのことを触れますし、気にすることも全然なくなりました。
徐々に今のような関係になったんですね。
- そうですね。
本多さんはうたくんのことをなんと呼んでいるのですか?
- 男の子なのですが、基本「うたさん」と呼んでいます。やっぱり、うたのことを密かに先輩と思っているんでしょうね。
今でもそうなんですね。
- なぜでしょうね……。やっぱり妻とうたがいたところに僕があとから入った、という意識もありますし、基本は妻の方に懐いているからでしょうか。
逆にうたくんは、本多さんのことをどう思っているんですかね?
- どうでしょう。妻がいない時は、僕のところにもゴロンとしに来ますよ(笑)。
ご飯は何が好きですか?
- カリカリの上に猫用の鰹節をかけてあげています。人間のご飯には反応しないですね。ただ、鰹節には反応します。人間用の鰹節は猫には塩分が濃いと聞いたのであげていませんが。にぼしも好きですけど、苦いからか頭だけ残すんですよね。
うたくんは普段はどんな感じに過ごしていますか?
- 寝てるけど実は起きてる、みたいなイメージがあります。夜中でもそばで寝ているうたを見ると目を開けてくれるし、もう結構な歳なので一日中殆どどこかに寝っ転がっています。
家の中で特にお気に入りの場所はあるんですか?
- 季節ごとに自分が心地がよい場所を選んで寝ている感じですね。夏だと2階の廊下にいることが多いかな。
本多さんは写真家ですが、「写真家と猫」ってどのような関係だと思われますか?
- 写真家と猫ですか……あまり考えたことはないですね。みなさんそれぞれでしょうけれども、僕はものすごく撮るほうではないですね。“かわいいなあ”と思った時にたまに撮るくらいで。僕らの中では当たり前の存在というか、「家族」と一緒なんですよね。ふとした時に“いいなあ”と思う存在。だから、そんな日常をあらためて写真に撮っておきたいという気持ちはあまりないですね。
うたくんと10年くらいお付き合いしてきて、年齢的な変化は感じますか?
- 前と比べるとヨタヨタ階段を上り下りしていたり、あまり走らなくなったりと、歳とったなあと感じる時はあります。でも猫は見た目がそんなに変わらないですから、むしろ自分の方が圧倒的に変わったと思います。
どのようなことが変わったと思いますか?
- うたのことが日々好きになっていくというか……。“一緒にいてくれてありがとう”という感じですね。ふと見た時に、相変わらずかわいいなあとか、上から見た時に“餅みたいに丸くて大きくてかわいいなあ”とか思ったり。それと……20歳まで生きたとして、あと6年ですよね。うたと過ごす残りの時間については、僕も妻も若干意識していますかね。
猫は子猫でいる時間も短くて、すぐに成猫になりますよね。それと猫の命って不思議なところがありますよね。僕の生まれは東京の下町で、路地のどこからか時々迷い猫がやってきてはしばらく居着いて、気づくといなくなっていたりすることがありました。それでまた数年すると違う色の子猫がやってきて、またいなくなる。だから猫の命って、違う顔や色をしながら、ひとつの命としてつながっているのかなあと想像することがあります。
- 面白いですね。僕らは古い家が好きでよく引っ越しをするんです。前に住んでいたのは築75年の家で、今の家は比較的新しくて築45年です。ペット可の物件じゃなきゃいけないので住む家が限定されるのですが、もしうたがいなくなったら住む場所も変わるのかなあと二人で話すことがあります。妻はうたのあとに猫を飼うかどうかといえば、飼わないと決めているみたいです。
本多さんもそう思っていますか?
- そうですね……そうかもしれませんね。自分にとっての猫は、うただけでいいかなとか。そう考えると、3人で暮らす時間をより大切にしたいと思うようになりますね。