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猫と男 東京で生きる男と、共に暮らす猫。ふたりの距離感から垣間見える、唯一無二の物語。

「仔猫」

写真・文:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

友だちの家に仔猫がきた。
瞳をキラキラさせて目の前のおもちゃに熱中し、 小さな手脚で休む間もなく部屋中を駆け回る。 隙間を見つけては身をよじらせもぐりこみ、 わずかな隙間から鼻先を出し、こちらの様子を伺い、 隙あらば飛びかかってくる。 大きなうつわに盛られたご飯をものすごい勢いでかき込み、 満足したらひげと耳を起用にこそげる。 かと思えば、 突然うとうとと眠りに落ちる。 どれだけの時間を共に過ごしていても一時たりとも飽きることがない。 最近、 友だちのインスタを見たら、 少し成長しているようだった。

人と人との出会いやめぐり合わせは、 考えると不思議な縁を感じる。 人と猫との出会いにも当事者にとっては偶然を越えた運命を感じてしまうものだ。

仔猫
仔猫

仔猫は無条件にかわいい。

仔猫時代には仔猫らしいいささかアンバランスな、 顔と体の大きさの比率に由来する愛くるしさがあるし、 人間の赤ちゃんのようなどこかたどたどしい歩き方やそこはかとない鈍臭さにユーモアを感じる。 一度そのかわいさの虜になってしまったら、 どんないたずらをしても許せてしまう。

仔猫

我が家の愛猫、 ジャスパーと出会ったのは約9年前。 生まれたばかりの仔猫にはまだ名前がなく、 3匹の兄弟猫の中の1匹だった。
運命的な出会いと、 数多くの猫と人間の中で選ばれた者同士の偶然の出会い。 相思相愛(?) の関係の中、 我が家にやってきた仔猫は、 ジャスパーという名前を与えられた。
おおよそあまり猫らしくないその名前は、 飼い主が敬愛するデザイナーの一人であるジャスパー ・ モリソン氏に由来するものだ。

仔猫

家猫でありながら、 “飼いならされる” ということのない猫だからこそ、 すべてこちらの思い通りというわけにはいかない。
一日のはじまりは日が昇るよりも早く、 建具を使い巧妙にたてる物音で夢の中からたたき起こされ、 ご飯、 散歩、 水飲みのルーティーンに付き合わされる。
ひと眠りすると本格的な朝ごはんの時間。 そのあとは洗濯物干しとともにベランダに出て毛づくろい、 午後の時間まで昼寝、 毛づくろい、 夕方のおやつ、 晩ごはん、 寝る前のおやつと少しも変わらない毎日を過ごす。

仔猫
仔猫
仔猫

思い返せば仔猫時代は日々、 ルーティーンが変わる。 昨日のお気に入りが今日のお気に入りとは限らずに、 おねだりの時間もトイレもおおよそ予測がつかない。 一緒に寝てくれたと思ったら、 次の瞬間はそっぽを向かれる。 人間対人間なら、 もういいよと愛想をつかしかねないことが、 愛猫ならどんなことでも受け入れ、 許せてしまう。 そもそも怒りという感情が愛猫に対してはいささかも湧くことがない。
誰に対しても、 どんなものごとに対してもこうありたい。 目の前で丸くなって寝ている愛猫を見ていると、 自分ごとながら自戒を込めてそう思ってしまう……。

仔猫
子猫

だが、 猫は仔猫でも成猫でも老猫でもみんなかわいいというのが真理だ。 成長した猫には先ほど書いた仔猫ならではの愛らしさは少しも変わらず残っているし、 ご飯をねだる時のかすれた声なき声さえも愛おしい。
家族である愛猫ならなおさら、 一緒に過ごした時間を重ね、 関係性が深まった分、 愛おしさは日々、 より一層深まるばかりだ。
毎日、 毎日、 ああ、 かわいい、 と思わない瞬間はない。 そしてその一瞬一瞬を大切にしたいと思う。
猫と暮らしている者ならば、 誰もがみんなそう思っていることだろう。

仔猫

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2022/09/29

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