雷は、 豪雨とともに雷鳴が轟く日に伊勢神宮の外宮の近くで保護された、 現在7ヶ月の保護猫。
今は旅立ってしまった愛猫との繋がりを感じる、 ちょっと不思議な奇跡のストーリーです。
文・写真:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)
猫:雷(ライ・7ヶ月) メス。 好きな場所は正樹さんの柔術の道着の中。
男:武井正樹さん 趣味はブラジリアン柔術
僕は武井さんが雷ちゃんをお迎えしてひと月後くらいのタイミングで一度会わせていただいていますが、 改めて、 雷ちゃんとの出会いを教えてください。
- 2020年6月に先代猫のデビくんが亡くなってから、 先の見えないペットロスという現実に向き合ってきました。 たくさんの友人に支えられ、 その時にいただいたお花や似顔絵などは今も私たち夫婦の大切な宝物です。 ですがその傷はなかなか癒えることもなく、 これからどうやって生きていこうか思案に暮れる日々でした。 それで、 デビくんの生前には果たせなかった一つの約束を、 実行することにしたんです。
それはどのようなことですか?
- 家族3人でお伊勢参りをする、 ということでした。 なぜデビくんとお伊勢参りをしたいと思ったかというと、 加齢とともに日々弱っていくデビくんを前にして、 パワースポットの恩恵にあずかり、 小さな命が一分一秒でも延びてほしいという思いがあったからです。
そうでしたか……。
- 生前その思いを果たせなかったことがずっと心残りとしてありました。 それで、 デビくんの二周忌にあたる2022年6月に、 遺影とともに伊勢神宮にお参りに行きました。 その時の様子を妻がインスタグラムに投稿したところ、 三重県で 「Vinyl Cycle Records」 というレコード店を運営されている西村義照さんという方から 「ウチの近所です」 とコメントをいただきました。 インスタグラムの相互フォローというだけで面識はなかったそうですが、 共通の友人から 「ご自身も3匹の愛猫と暮らしていて、 保護猫活動にも注力されているものすごい猫好きな人だよ」 と教えてもらいました。 それで、 2022年7月28日の早朝のことですが、 西村さんのインスタグラムの投稿を見た妻に叩き起こされたんです。
えっ(笑)。
- 寝惚け眼で妻が差し出すその投稿を見ると、 こう書いてありました。 「昨夜の雷が怖かったのか車のボンネットに避難してきた仔猫を預かりました。 生後一ヶ月半、 人懐っこくて可愛い子です。 雷ちゃん(仮名)と名付けました。 興味のある方いらっしゃいましたらご連絡をください」 と。
おお~。
- その愛くるしい仔猫の姿を前に、 妻から 「この子を迎えに行きたいんだけど、 どう思う?」 と聞かれました。
正樹さんたちは、 いつか再びご縁があったらお迎えをしようとは考えていたんですか?
- これまでも、 たくさんの友人知人からお話をいただいていました。 ですが、 その都度断ってきたんです。 でもこの時はなぜか 「お迎えに行こう」 と間髪入れずに答えたことを覚えています。
運命だったんですね。
- この日の朝のことを上手く言葉にはできないのですが、 「この子を家族に迎え入れたい」 とすぐに決意をしました。 デビくんが私たちのもとを旅立ってから、 その残像を追いかけるように、 日々デビくんによく似た子の動画を見る毎日でした。 だから、 ラグドールの元地域猫のデビくんとは見た目が全く似ていないキジトラの雷ちゃんに反応したことに正直、 自分たちでも驚きました。
はい。
- それで……。 雷ちゃんをお迎えすることを決めてからふと、 デビくんがいなくなったあと、 猫に関するものを全て処分していたことを思い出しました。
当時はなぜ、 ゆかりの品を処分しようと思ったのですか?
- いただいた似顔絵などは大切にしていたのですが、 愛用していた玩具や猫ちぐら、 使っていたトイレやキャリーケースなどは、 それを見るたびにかつてそこにいたデビくんに思いを馳せ、 自分たちの動きが止まってしまうことがしばしばでした。
自分たちも前に進まなければいけない、 という思いもあり、 保護猫の活動をしている方に寄贈したんです。
雷ちゃんをお迎えするにあたり、 仔猫用のトイレや食事、 キャリーケースなどを新たに手配しなければいけないということで、 ショッピングセンターに行き、 大きなカートいっぱいに猫をお迎えするための買い物をしました。 それは、 私たち夫婦にとって本当に久しぶりの、 身も心も躍るような楽しいひとときだったんです。 お迎えする準備も整い、 その週末に三重県の多気町に電車とレンタカーを使ってお迎えに行きました。
その時の雷ちゃんの印象は?
- 人懐っこく、 クリンクリンの瞳で私たちを見て、 すぐに挨拶をしてくれました。 はじめて会った雷ちゃんは、 保護してくださった西村さんの手のひらにおさまるほど小さくて、 体重はわずか500グラムほどでした。
雷ちゃんという名前はそのまま引き継いたんですよね。
- はい。 雷の夜に保護されたという由来と言葉の響きもそうですが、 保護してくださった西村さんの人柄にも惹かれて、 最初に名付けてくださった名前をいただくことにしました。 デビくんも地域猫の時にご近所の人に呼ばれていた名前を引き継ぎました。 西村さんはまわりの方から、 西村猫ちゃん保育園の園長さんと呼ばれていたり、 とにかく全身から動物への愛が溢れている、 徳の高さを体現しているような方でした。
西村さんとは 「雷家族」 というLINEグループをつくり、 我が家に来てからの雷ちゃんの様子を頻繁に報告しています。 お迎えした当時は詳しくは知らなかったのですが、 西村さんとやりとりをさせていただくうちに、 雷ちゃんが西村さんの元にやってきた経緯が次々と分かってきたんです。
どんなことですか?
- ひとつは、 雷ちゃんが生まれたのが、 私たちがデビくんの遺影を持って伊勢神宮を参拝したのとほぼ同時期であると推測されること。 それと、 雷ちゃんが保護された伊勢市に大雨が降った7月26日は奇しくも私の誕生日でした。
雷鳴が轟き大雨が降る中、 伊勢神宮の外宮の近くの布団屋さんの駐車場に停めてあった車のエンジンルームの中で、 一晩中鳴いていたのが雷ちゃんでした。 それを翌朝、 布団屋のご主人の平松さんが救出してくださった。 それで平松さんは、 同じ伊勢市にある 「日の出旅館」 の若女将で、 猫好きの麻沙さんという方に相談をして雷ちゃんを託したところ、 かねてから繋がりのある西村さんの猫ちゃん保育園に入園したんだそうです。
うわー、 それは雷ちゃんは本当に奇跡の子ですね。 縁を感じますし、 優しい人たちにその小さな命を繋いでいただいたんですね……。
- そうだと思います。 雷ちゃんがこれほどまでに人懐っこいのは、 これまで出会った方々に愛情たっぷり注いでいただいて、 命を継いでこられたからだと思います。 雷ちゃんとのご縁はその三人の方がいらっしゃったからだと思いますし、 これは自分の勝手な解釈であり、 どこか願望なのですが……すべてはデビくんが繋いでくれた縁なのかな……と。
デビくんは優しい子でしたから、 絶対にそうですよ。 そういえば以前、 正樹さんたちとお伊勢参りをご一緒したこともありましたね。
- はい、 その時加藤さん(筆者)が 「お伊勢参りは御呼ばれされないとすることはできない」 と仰っていて、 その言葉がずっと記憶に残っていました。 その言葉も含めて、 ご縁に感謝だなあとしみじみと思っています。
いくつもの選択肢のようなものを経てたどり着いた出会いというものは、 よりいっそう強いご縁を感じちゃいますよね。
- はい。 出会いは必然と言いますが、 見えない力に導かれたんじゃないかと思うほどです。 だからこそ 「縁やゆかり」 を意識して感謝し、 その繋がりを大切にしたい。 デビくんと雷ちゃんのことでいえば、 雷ちゃん用のうつわがあるのに、 デビくんのお供えのうつわからしか水をほぼ飲まないんですよ。 それもなんか不思議で。
デビくんが今も見守ってくれているんですかね。 お迎えして半年経ちましたが、 雷ちゃんはいかがですか?
- 私たちとしても仔猫を迎えたのははじめてだったので、 仔猫はこんなに元気なのか、 と毎日驚いています。 デビくんは17歳で亡くなったのですが、 お迎えしたのが推定3歳の頃で、 活発とはいえだいぶ落ち着いている子でしたから。 「可愛い」 は毎日更新されますし、 成長の早さに驚きます。 外出先から帰ってくると、 気配を察するのか玄関で待っていてくれるのも嬉しくて。 何より雷ちゃんが我が家に来てくれて、 日常が充足感に包まれ、 人生が好転したと思っています。
前回雷ちゃんに会った3ヶ月前に比べて、 だいぶお姉さん猫になったなあという印象を持ちましたが、 変わらず遊び好きだし、 お転婆ですね! お二人の生活に変化はありましたか?
- 自宅とは別に事務所を構えていたり、 時々デビくんと一緒に出社することもありましたが、 家には不在がちでした。 コロナ禍もあり、 デビくんが亡くなった2020年あたりから日常を見直すようになり、 生活を整えるという方にシフトしていきました。 妻と、 これから二人でどう生きていくかも真剣に議論しました。 それもあって、 夫婦でともに家にいる時間を大切にするようになっていた時に、 このようなご縁がありました。 今思えばですが、 あの時に整えていて良かったと思っています。 あと、 家で着る服に関しては、 ニットよりはスウェット、 ボロボロにされてもいい服ばかり着るようになり、 ほぼ 「制服化」 しました。 自分も着ていて楽ですし、 躊躇なく全身で雷ちゃんに向かっていく毎日です。
そう考えることができたのはすごいなあと思います。 雷ちゃんを家族に迎えるというような一大事って、 本当に突然訪れるものなのですね。
- 本当にそう思います。 はじめて雷ちゃんに会った日に 「やっと会えたね」 と抱きしめてしまいましたから。