文・写真:堀井和子
12月に、板橋区立美術館で開かれていた「つくる・つながる・ポール・コックス展」を見に行って、懐かしい絵に再会しました。
ポール・コックスは絵画制作の他、絵本、舞台美術、ポスターや広告など、幅広い分野で活躍しているフランス人アーティストです。
1989年に玉川高島屋S・Cで開かれた「フレンチ・ポップ・グラフィックス」のフライヤーに使われていたポール・コックスの作品に一目惚れしたのがきっかけで、その後ポスターや広告の展覧会をいくつか見ていました。
写真のポスターは、全ての角が90度ではない、とても自由な四角形で(フライヤーも同じ形)ハッとしてしまいます。
こちらは、ステンシルとリノリウム版画で印刷した紙をベニヤ板に貼り付け、ニスで塗装した手作りのしかけ玩具。紐を引っ張るとパーツが動く構造で、カルダーの「サーカス」もそうですが、私は遊び心に溢れたオブジェや玩具に不思議なくらい魅かれます。
リノカットによる作品が並んでいるテーブルがありました。
ポール・コックスのブルー、赤、緑の色がずっと印象に残っていたのですが、今回、黄色の色合いやニュアンス、使いかたにも刺激を受けました。
DES FORMES SOUS LE SOLEIL(太陽の下のそれぞれの形)という文字を読むと、太陽の光がふり注ぐ乾いた地で、建物の輪郭がくっきり目に焼き付くような景色を感じます。一瞬で旅行をした記憶が残ったような・・・。
作品集の中で、1980年代から1990年代にかけて、新聞、雑誌に向けて制作したと紹介されていたのが、この、鳥がカマンベールチーズの絵を描いている作品。
1989年のフライヤーも2枚、大事にとって置いたのですが、今回板橋区立美術館で実際の絵を目の前にして、あの時のドキドキが温かくフワッと変化したように感じました。
「PAUL COX DESIGN & ART」の本と絵本を購入しましたが、ポール・コックスが制作した様々なジャンル、手法の作品の中でも、初期の大胆で大らかなリノカットのものに、心が特別動くことがわかりました。
比較的最近の作品では、「MUJI Forum des Halles店 開店記念ポスター」が気になりました。2色刷りのリトグラフで、グリーンと赤を重ねて茶色を表現していますが、輪郭部分にほんのちょっとグリーンが見えるところにぐっときます。
絵本も、版を重ねることで生まれる版ズレを効果的に使っていて、色の構成にさらに美しいニュアンスが加わるように思いました。版ズレに注目して、いろいろな版画を見てみたくなりました。ぴったり重ねるのもいいけれど、ずらしてラインを見せるのも素敵ですね。
板橋区立美術館は遠かったけれど、カマンベールチーズの絵を描いている鳥に30年ぶりに再会できて幸せでした。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
1954年東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載 > 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」