文・写真:堀井和子
“Ma Chance’s French Caribbean Creole Cooking”は、1985年に出版された JEANNE LOUISE DUZANT CHANCE 著の料理の本。
カリブ海にある西インド諸島のフランス領の島マルティニークで、1週間休暇を過ごしたことがあります。青唐辛子やチャイブ、ライムなど、香辛料やハーブをきかせた刺激的で洗練された料理に、とても魅きつけられました。
マルティニークでフランス語の、N.Y.でこの英語の料理の本を買いました。
今回は料理ではなく、それぞれの項目の始まるページに描かれているイラストについて書きます。
イラストは、ノースカロライナ州で生まれたアフリカ系アメリカ人のアーティスト、ROMARE BEARDEN によるもので、ページから飛び出してくるような躍動感にハッとします。
地元の女性の衣服のデザイン、野菜を入れたカゴを頭にのせたり、パンケーキを重ねた皿やラム酒を使った飲みものをのせたトレーを抱えたりの様子が、生き生きと描かれているのです。
マルティニークの太陽の光や極上の風、給仕をしてくれた女性の赤やオレンジ、黄のマドラスチェックのスカート、お揃いの頭に巻いたスカーフなどの記憶が、一瞬のうちに呼び覚まされる気がしました。
ベージュのザラッとした紙質、イラストを刷った濃いめのグレーの色と手描き文字の黒 —— ページをめくるたび、美術館で絵の前に立ったように心が弾みます。
カラーの料理写真は表紙カバーの1枚だけで、それぞれの料理は写真もイラストもなしの構成ですが、私の大切な一冊です。
我家の朝食のトーストは、デュアリットのトースターで焼きます。
高温で短時間に焼けるので、外側はカリッと香ばしく、中はもちもちっと湿度を逃がさず、弾力がある焼き上がり。いつも、とびきりのトーストを味わえる、威力のあるトースターなのです。
おっとりとしたカーヴが美しい、サンビーム社のトースター(「いいもの」のファイル第3回参照)もダイニングルームに置いていて、さらにもう1台、キッチンの棚に収納しているのが、このナショナルの電気トースター NT-T4C。 18.5cm × 11.5cm × 17.5cm とコンパクトなサイズ、カチッとしたクールなフォルムが面白くて、正直な話、コレクション買いしました。トーストを焼くのはデュアリットと決めた後に。
トーストの焼け具合はデュアリット、デザインはサンビーム社と自分でも認識していますが、この NT-T4C はメカニカルなアイテムへの、憧れと興味なのかなぁと思うのです。最近、散歩中に道路を走る車を1台1台何気なく目で追い、好きなフォルムやディテール、色の車種をチェックしています。20年ほど前、自転車にはまった時も、人気があるとか機能が優れているとかのデータは入れずに、自分の目だけで、自分が好きなデザインを夢中で見つけようとしていました。
走っている様子がカッコいい車や自転車は、画像だけではなかなか見つけられません。
つまり、 NT-T4C は私にとって、車や自転車と近いジャンルの「いいもの」なのかもしれないです。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載 > 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」