文・写真:堀井和子
2016年9月、千駄ヶ谷の Honda Design -TOKYO SATELLITE- 、ショールームに展示してあった SPORTS 360。
日本初の軽四輪スポーツ車として登場しながら、市販化されなかった幻の車だそうです。
Honda Collection Hall では、歴代の製品を走行可能な状態に保つ「動態保存」を行なっているようで、その走行ビデオの日付が2016年3月とあるので、その後、千駄ヶ谷で展示の機会を作ったのではないでしょうか。
私は、たまたま通りがかって、珍しく車が展示されているので見てみると、シルバーでものすごく美しいデザインに感じられ、ガラス越しに写真を撮りました。実はこの SPORTS 360が、ショールーム前の道路を走っているところも見ることができて、ラッキーでした。
ここ2・3年、車のデザインに興味が増し、“昭和のクルマ”や中古車についての TV 番組もチェックするようになり、自分が魅かれる車種が少しずつわかってきたところです。
走行スピードとか希少価値とかは関係なく、フォルムやディテール、色、道路を走っている時のカッコよさなどで反応しているだけですが。
1990年代に見かけたチャコールグレーっぽい黒のシトロエン(BXかなぁ…)や、初代の、ちょっと四角っぽいジェッタもまた見たい車ですが、NO.1は SPORTS 360かもしれません。
こちらはコルビュジエのソファ LC3に添えられていた Identity Card。黒い革とシルバーのフレームのゆったりとしたソファは、1992年に買いました。
光沢のある黒の表紙カバーは、縦長が面白いプロポーション、文字やロゴは生成り色です。
粋なグラフィックデザインの Identity Card だなぁと思って、アート本の本棚に収納し、時々手に取って見入っています。
30年経過して、革がやわらかで馴染んだ表情になったソファと、きりっとしていながら冷たくない Identity Card が、今も、とても似合っているのが嬉しいです。
今年の国展の会場で、印象に残った佃 眞吾さんの波形盤。
アアルトのガラス花器や曲木椅子のアームをふと思い出すような、大らかな波形。
とは言っても曲木とは全く違う、日本の樹木を使って、その木目をしっかり魅力的に伝える丁寧な仕事が素敵です。フラットな面から縁へのカーヴ、縁の厚みが一定ではなく、波のようなリズムを持ったところに、しばらく見入って、使い心地も想像してしまいました。
5月に東神田のギャラリー elävä Ⅰ で開かれていた小林夏美さんの版画展で版画を購入しました。
自然の風景や植物を写真に撮ってデザインを起こし、アルミホイルで版を作り、ふたつの版を繋いで1枚の作品に仕上げているそうです。
57cm×76cmの大きな作品ですが、我家にあったアクリルの一番大きいフレームにぴったり納まりました。
この作品のモチーフは草と石と伺いましたが、草の間を初夏の風が抜けていくような爽やかさと、静かな瑞々しさに心が動きます。
我家の壁面に絵が増えて、ダイニングやリビングの雰囲気がぐっと変化しました。何だか家が自由なアトリエ空間に近付いたような…。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載 > 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」