文・写真:堀井和子
南仏のマーグ美術館の庭に、モザイクを敷き詰めた池があります。
ジョルジュ・ブラックによる魚のモチーフのモザイク画を、水を通して見ることができるなんて特別ですね。
タイルの形は不揃いで、淡い水色からグレイッシュな水色、濃紺と様々なブルーの色合いで構成されています。こんなふうに、控えめでシックな色使いのモザイクのデザインが、新鮮に感じられました。
おっとりとしてシンプルな魚の描写ですが、それぞれが生き生きと泳いでいるようで、ずっと見ていたくなりました。
マーグ美術館では、南仏の太陽の光を浴びた力強い緑の芝生や松の林、建築家セルトが設計した建物が調和していて、庭に配した彫刻やメタルのオブジェが、自然に記憶に刻まれたと思います。
VENCE の街のブーランジェリーで、直径20cmくらいの特大のブリオッシュみたいなパン“vençois"を買ってみました。
何軒かのブーランジェリーのショーウィンドーに、いくつも並んでいましたし、名前からして VENCE の名物のパンじゃないかと思ったのです。
クロッカンという、アーモンド粉やメレンゲ、ナッツで作った生地で、ブリオッシュの生地をおおって焼き上げてあります。
ホテルに戻って、大胆にひきちぎって口へ運んでみると、外側はサクッと軽く香ばしく、マカロンみたいなタイプで、ブリオッシュは中身がふんわり湿度と弾力を持っていて、やわらかな口あたり。クロッカンとブリオッシュのバランスが絶妙で、すごく美味しかったです。
2007年以来、味わう機会がなく、記憶の中で美味しさがどんどんふくらんでいるような……。また、ぜひ味わってみたいパンのひとつかもしれません。
BUONAPESCA はイタリア語で大漁を意味するそうで、東日本大震災の後、また三陸の地に大漁の魚が訪れますように、という思いが込められたトートバッグ。
イラストはアオイフーバーさん、バッグデザインは DRILL DESIGN 、縫製は南三陸ミシン工房による石巻工房の商品。私は国立新美術館1Fのミュージアムショップで購入しました。
いろいろな種類の魚が銀色でプリントされていて、どの魚のデザインもカッコよくて面白い。楽し気な表情を見ていると、元気が湧いてきます。
アオイフーバーさんの絵本や、仕事をまとめた”Aoi Huber Kono”の本で、ライオンや鳥、魚などのモチーフを知っていましたが、BUONAPESCA のデザインからは、寄り添う気持ちがひたひたと伝わってくる気がしました。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載 > 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」