文・写真:堀井和子
昨年12月に竹橋の東京国立近代美術館で見た Sol Lewitt のウォール・ドローイング #769。
「角や辺から発する円弧、直線、非直線から二種類を体系的に使った組み合わせ全部」という説明を読むと、あぁなるほどと頷きたくなるけれど、説明よりも前に、近代美術館の階段を降りる途中でこの作品の一部を垣間見た時に、ものすごく心が動いていました。
クールで面白くて新鮮で —— こんな角度から見ることができるなんて素敵だなぁと思いました。
展示空間の床は濃いこげ茶色のモザイク柄のようなデザインで、床から天井までの黒い壁のドローイングの迫力は感じましたが、私は階段の途中から覗いて見るフレーミングが気に入りました。
近代美術館7~8室で開かれていた“プレイバック「抽象と幻想」(1953-1954)”も好きな作品がいくつかあって、印象に残っています。
奈良原一高さんの「Tokyo, the‘50s」 「42 Marunouchi」の写真は、道路に白で歩道とペイントされていて、線と線の間を歩く人々をほぼ俯瞰のアングルで捕えていて、カッコいい。
北代省三さんの「モビール・オブジェ(回転する面による構成)」は、アルミニウム・ジュラルミン、鉄の作品。銀色の反射がモダンで爽やかなせいか、Calder の黒くペイントしたモビールとは違う雰囲気が伝わってきます。
ミッドセンチュリーの銀色のメタルの椅子に通じるような軽快さにも、
GALLERY CLASKA で開かれていた“ゆく熊くる熊 2022-2023”では、今回も魅力的な熊たちに出会え、安藤さんの説明も伺うことができました。
オレンジ色の背景で撮影された紹介記事の熊は、ギャラリーに入ってすぐの位置に展示されていて、一番長い間見入っていました。
頭部が大きめでプロポーションがユニークですし、縦に持った銀色の鮭や寄り添う子熊の描写も、見ているうちにどんどん引き込まれていくようでした。
この熊は掲載されていないのですが、東京903会の「熊彫図鑑」を購入しました。
この図鑑の中では“スキー熊のペン軸台”の躍動感溢れるフォルムにハッとしましたし、こちらの“バット熊”のバットの構えかたにクスッとしました。
2022年、実は野球をよく観た年でした。私は走塁、特に帰塁のシーンに心を動かされるので、駿足の外野の選手を応援しています。
ヒットを打った後、バットをすっと投げ出す様子も選手によって違うのが面白いなぁと。
熊で思い出したのが、2007年出版の「頭のうちどころが悪かった熊の話」安東みきえ著(理論社)。
表紙カバーや挿絵は下和田サチヨさん、装丁は中村光宏さん。
15年くらい前になるでしょうか。当時、青山ブックセンターへ行っては、読む目的ではなく小説コーナーの前で、ジャケット買いをしたくなる本を探していたことがあります。
表紙カバーの下和田さんの熊もたいそうインパクトが強かったけれど、この本全体を通しての装丁、扉や手描き文字の目次、カラーとモノクロの挿絵の配置がとっても素敵で、迷わず選んだ一冊です。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載 > 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」