文・写真:堀井和子
代官山ヒルサイドテラスにレンガ屋のティールームがありました。
おっとりとした白いティーカップとミルク入れ、フラットなケーキ皿が上品な雰囲気で、リンゴのタルトやシュウクリームが美味しかったので、仕事の合間のお茶の時間に立ち寄っていました。
レンガ屋のクッキーの缶はこのティールームで買って、クッキーを食べた後もずっと大事にとっておいたもの。
細かい傷がつかないようにと、缶の扱いにおいては特別待遇だったもしれません。
佐野繁次郎さんの手描きのアルファベットが、踊るように楽し気で、印象に強く残ります。
缶とは少し違う、朱赤っぽい赤の地に白い文字のショップカードや、お酒の瓶とグラスの絵の周囲に RESTAURANT RENGAYA と文字を配したコースター、商品のパッケージに貼る黒字に白い文字のシールも、収ってあります。
佐野繁次郎さんの本の装丁の仕事を知って、古い本を購入するようになったのは、その後20年たってからでした。
踊るようなワクワクする文字に強く魅かれて、大事に今まで持っていて、つくづくよかったなぁと思います。
今見ても、このレンガ屋のクッキーの缶は、きりっと正方形の形、角の潔よさ、地のほんの少しだけ濃いピンクがかった何ともいえない赤、文字のレイアウトがすごく美しい。
パッケージとして量産された缶だけれど、アート作品のように見入って、レンガ屋のティールームの記憶に浸っています。
レンガ屋のクッキーの缶を見ていたら、この魅力的な赤のニュアンスのポストカードを思い出しました。
左は Sophie DUTERTREの “BOMBILLA EN 1997” 。
雨や陽ざし、風に向うレインコートや水着、帽子などの着せ替えがテーマのイラストが面白く、赤と青だけで表現している様々なディテールが素敵です。
(Sophie の絵本 “LES EXPLOITS DE BOMBILLA” が「いいもの、みつけました!」の第46回
にちょっと写っています)
右は FRITZ BULTMAN の Collage “Quiet!” (1962年)。
アメリカに住んでいた頃、1986年10月7日-11月1日 マンハッタンのマディソン街69丁目の GALLERY SCHLESINGER - BOISANTE で開かれた回顧展のカードです。
マディソン街を歩いていてふと立ち寄ったギャラリーで手にしたカードで、 FRITZ BULTMAN についてはよく知りませんでした。
インターネットが普及して、他の作品を見ることができるようになった今、BULTMANの配色や構成にハッと心を動かされ、もっと作品を見たくなったりします。
素直な気持ちで出合って、いいなぁと感じて、20年、30年後にその作家やデザイナーについて知り、そこから興味をつないでいくのは、私に合っている付き合いかたかもしれません。
Jean Dubost のパン切りナイフ(フランス製)
ずいぶん前に、柄の部分が赤と濃紺のナイフ2本を購入しました。
我家のパンは皮目をしっかり焼いてあって、弾力があるので、普段パンを切る時はオリーブの木の柄で、刃が、がっしりしたナイフを使うことが多いです。
この樹脂部分の赤や濃紺の発色が、とてもエレガントで 美しかったので、フランスのデザイナーはキッチン道具のこういう材質でも、たいそう色にこだわるんだなぁと感心したのを覚えています。。
木の柄のパン切りナイフも好きだけれど、たまに粋な赤い柄のナイフでフワッとしたブリオッシュ系のパンやケーキを切り分けると、気分がいつもと違う持ち上がりかたをして楽しくなります。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載 > 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」