目指したのは “アウトドアと日常の中間” で活躍するもの。
上質かつ 「もの」 として長く愛せる大人のためのバックパックを、 猿山修さんにデザインして頂きました。
制作の経緯や、 デザインする時に大切にしたこと。
CLASKAと猿山さんのコラボレーション第2弾 「Backpack angle 135」 は、 こんな風にして完成しました。
写真/野口祐一 編集・文/落合真林子(OIL MAGAZINE/CLASKA)
Profile
猿山修 Osamu Saruyama
デザイナー。 「ギュメレイアウトスタジオ」 主宰。 1996年より元麻布で古陶磁やテーブルウェアを扱う 「さる山」 を営み、 2019年に閉店。 現在はグラフィック、 空間、 プロダクトまで幅広いジャンルのデザインを手掛けると同時に、 演劇音楽の作曲や演奏にも携わっている。
https://guillemets.net/
>>OIL MAGAZINE 連載 「つくる人」 vol.16 猿山修がデザインするもの
https://oil-magazine.claska.com/creator/72659/
前回の 「Sacoche angle 135」 に続き、 今回も素敵なデザインをありがとうございました。 大人っぽく贅沢なバックパックが完成して、 とても嬉しいです。
- 猿山修さん(※以下、敬称略):
- こちらこそありがとうございました。
スポーティーで機能性を重視したものではなく、 性別年齢問わず 「もの」 として長く愛せる上質な革製のバックパックがつくりたい。 今回私たちは、 そんなイメージをもってデザインを依頼させて頂きました。 猿山さんは普段自転車に乗る機会が多いそうですが、 やはりサコッシュ同様バックパックも馴染みのあるアイテムでしょうか?
- 猿山:
- そうですね。 自転車に乗る時は大体両手の空くバックパックやメッセンジャーバッグを使っていて、 3~4種類持っています。
それはどんなデザインのものですか?
- 猿山:
- ほとんどがアウトドアブランドのもので、 機能的でタフなもの。 気兼ねなく使えていいんですけど、 TPO的にちょっとカジュアル過ぎると感じることもあって。 アウトドアと日常の中間というか、 その境界を感じさせないような印象のバックパックがあったらいいなぁと思っていたので、 今回の話を頂いた時にわりとすぐに具体的なイメージが固まりました。 軽量で薄くて、 ある程度の量の荷物も入って、 上質で長持ちするもの。 そういうものをつくってみたいなと。
求めすぎずシンプルに
完成した 「Backpack angle 135」 を実際に持ってみて、 まずはその軽さに驚きました。 そして、 とにかく触り心地がいいですよね。 革好きの方にはたまらない一品だと思います。
- 猿山:
- “革なのに軽い” というのは、 今回とても大切にした部分です。 最初にサンプルをつくっていただく時も 「上質で薄手で、軽い革で」 というお願いをしました。
デザインのシンプルさも大きな特徴ですね。 裏地はついていないし、 バックパックの定番ともいえる外ポケットもついていません。 ここまでシンプルなつくりにした理由は?
- 猿山:
- 今回のお話を頂いた時、 これまで自分が使ってきたリュックの中で本当に使い勝手のいいものはどんなものだったのか、 改めて考えてみました。 例えば登山用のものは機能性重視のつくりでポケットが外にも中にも複数ついているものが多いけれど、 意外とそれを使いこなせていないことに気がついたんです。
なるほど。
- 猿山:
- アウトドアシーンで使うものですらそうなのだから、 タウン仕様であれば、 見た目重視のとことんシンプルなデザインに振り切ってもいいのではないかと思いました。
ある特定の機能を持ったバッグを欲しがっている人が本当にそれに即した使い方をしたいのかというと、 必ずしもそうではないかもしれない、 ということですね。
- 猿山:
- はい。 どんなジャンルのものであれ、 デザインをする時に 「それって本当に必要?」 という問いかけは意識することが多いですね。 僕は基本的に 「足すよりも引いた方が見た目が綺麗になる」 という考えですし。
バックパックのみならず、 バッグ全般に対して私たちはあれこれ求めがちというか、 「機能的である」 ということを重要視しがちなのかもしれませんね。
- 猿山:
- 「Backpack angle 135」 を使ってくださる方が、 もしもすぐに取り出せる小さなポケットが欲しいと思うのであれば、 「Sacoche angle 135」 とダブル使いしていただくといいかもしれない(笑)。 そんな風にあれこれ工夫して楽しみながら使ってもらえたらいいなと思います。
本来あるべき姿のまま、 綺麗に使えるもの
軽量であることと同時に 「質感」 も重要なポイントですね。
- 猿山:
- そうですね。 「革そのもの」 という印象を持たせたかったのと、 とろみのある革の質感を残したかったので、 裏地をつけないことにしました。
裏地がついていない、 というのは結構意外でした。 一般的に、 裏地があったほうが耐久性が高くなる、 あるいは汚れにも強いというイメージがありますよね。
- 猿山:
- 例えば革のコートだったら、 裏地がついていた方が圧倒的に着心地が良いし裏地をつける必然性があると思うんですけど、 バッグには必ずしも裏地は必要ないんじゃないかと思うんですよね。
なるほど。
- 猿山:
- 僕は結構物持ちがいいほうで 20~30年選手のバッグを幾つか持っているんですけど、 そういう古いものを見ると、 裏地がついたものほど駄目になっちゃうんですよね。 バッグそのものがというよりも裏地が。 それで試しにその裏地を剥いてみると、 裏地が無い状態のほうがものの佇まいとして綺麗だったりするんですよ。 「Backpack angle 135」は、そういうことも踏まえて 「“もの” の本来あるべき姿」 みたいなものを、 意識したところもありますね。
「Sacoche angle 135」 もそうでしたが、 美しく持つために工夫をしたくなるバッグだなと思いました。 もちろんものを収納して持ち運ぶための道具ではあるんですけど、 洋服を選ぶように 「今日はこれを持って出かけたいな」 と思わせてくれるような。
- 猿山:
- そのあたりはサコッシュと共通しますね。 日常的に気兼ねなく使えつつ、 仕事や少し改まった場に着ていく装いの時にも違和感なく持つことができると思います。
135度のデザイン
ちなみに今回、 一番頭を悩ませたのはどの部分ですか?
- 猿山:
- どこにどれだけ135度の要素を入れるか、 というところですね。 「Sacoche angle 135」 の流れで、 上手く取り入れたいなと思いました。
サコッシュの際にもデザインの大きなポイントになった、 角度135度の斜めカットですね。
- 猿山:
- 外側の四隅の他にも、 内ポケットの角やショルダー部分など様々な箇所に取り入れました。 最初に絵で描いてみた時に縫製の複雑さを考えると実現が難しいかなと思ったのと、 バックパックに合うアプローチなのかな? と少し不安もあったのですが、 結果的に結構いい感じに仕上がったんじゃないかなと思います。
猿山さんがデザインするものはどれも至極シンプルでありながらも “猿山さんらしさ” が強烈に感じられるものが多いように思います。 今回の 「Backpack angle 135」 も同様なのですが、 「こうすれば自分らしさが出る」 といったセオリーだったり秘訣のようなものはあったりするのでしょうか?
- 猿山:
- あまり強く意識はしませんが、 きっとあるんだと思いますね。 僕は 「もの」 が好きなので、 うつわとか道具類に限らず、 衣類でも建築物でも普段から無意識のうちに 「このかたちいいなぁ」 とか 「どうしてこのかたちになったんだろう?」 と考える癖があるんです。 同時に、 「普通はこうなのかもしれないけど、 こうしたらもっと良くなるのに」 と思うことも多くて。 そういった感覚を起点にしたつくり手の方とのやり取りは、 今回のバックパックをつくる過程でもありました。
具体的にどういう部分ですか?
- 猿山:
- 例えばショルダーの部分。 僕は継ぎ目の部分をアシンメトリーにしたいと思って図面を描いていたのですが、 最初に上がってきたサンプルはシンメトリーで、 パーツとパーツの継ぎ目がセンターにくるという提案だったんですね。
それは強度の関係で?
- 猿山:
- 強度ではなく、 縫製の順序・効率性を考えてとのことでした。 でも、 ここはどうしてもアシンメトリーにしたいなと思ったので、 改めてつくり手の方に技術的な話を伺いながら会話をしていく中で 「なるほど、 それではアシンメトリーでやってみましょうか」 ということになって。 もちろん、 「どうしても技術的に不可能」 ということであれば別の方法を考えますけど、 そうでないのならば結構粘るほうかもしれません。
ものの印象ってディティールの積み重ねで出来上がるものでしょうから、 ぱっと見の 「わかりやすいかたち」 というよりは、 一見すると目立たない部分へのこだわりの集積が猿山さんらしいと思わせるデザインをつくり出しているのかもしれませんね。
- 猿山:
- 普段から職人さんと 「どうしてこの選択をしたのか」 ということを話すことが多いのですが、 会話をしていく中で 「なるほど、 自分たちはかなり長い間こうしてきたけど、 そういう方が使いやすいかもしれないね」 と、 新たな方法に挑戦してくださることがある。 こちらがぶつけた純粋な疑問に対して 「このやり方が普通ですから」 と決めつけるのではなく、 それぞれがプロとして前向きなディスカッションできると、 手ごたえがあるというか……嬉しいですよね。
「Backpack angle 135」 も、 そういったやり取りを経て出来上がったものなんですね。 一見するととてもシンプルだけど、 長く飽きずに使えるものにするための知恵と工夫がぎゅっと詰まっている。
- 猿山:
- 長く愛用してくだされば、 新品の状態では表に出ていない僕の “意図” のようなものが徐々に顔を出していくんじゃないかと思ってます。 10年、 20年後に 「なるほどね。 やっぱりいいね」 と思ってもらえたら嬉しいですね。