写真:ホンマタカシ 文:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)
Sounds of Tokyo 01. (Sayaka Yamaguchi at Kitanomaru Park)
はじめて訪れたのは5年ほど前。銀座で大好物のお菓子を買った帰りにドライブをしていて、なんとなく北の丸公園の駐車場に車を停めました。午後の気持ちのよい時間帯で、季節はお堀の桜が咲く少し前でした。
北の丸公園は都心にありながら静寂を感じる場所。自然が好きで色々な公園に行きますが、ここは少し特殊というか、特別で、澄んだ空気を感じます。神社や聖地と呼ばれる場所にも通じるような静謐を湛えていて、風がなんとも心地よくて……日が暮れるまで過ごしたことを覚えています。
北の丸公園周辺には好きなものが集まっているのも、よく来る理由のひとつです。
銀座や日本橋、美術館も近く、下町めぐりも好きで、特に神田や淡路町にはお気に入りのお店がたくさんあります。
都内にはほかにもたくさんの公園がありますが、北の丸公園には吸い寄せられるように、ふらりと行っちゃう。他の公園にはない魅力があるからでしょうね。
少し高台にあって、緑が多くて森の中にいるみたい。守られているような安心感があるからか、解放された気持ちになって、気の向くまま何も考えずに散策します。歩いて、歩いて、足の裏からエネルギーをいただいて、五感を取り戻していく感じです。江戸時代の面影が色濃く残る清水門のお堀越しからちょこっと覗く武道館の屋根が、帽子みたいで可愛いいんですよね。
神田須田町にある「竹むら」の粟ぜんざいをテイクアウトして、北の丸公園のベンチで食べることもあります。時に見知らぬ人とベンチで背中合わせに座ったりもするのですが、それもこの公園だったら自然というか。みなさんがそれぞれに過ごしながら、静かな時間を大切に共有している、そんな穏やかな空気があるんです。「この公園に住みたい」と思うくらい、好きな場所。
はじめての東京は11歳、家族旅行でした。人の数に圧倒されて体調を崩したり、原宿の竹下通りに大はしゃぎしたり。14歳になってドラマの撮影で福岡から飛行機通勤するなんて、想像もしていませんでした。当時の私は大好きな原宿、きらめく東京に遊びにいくような感覚でワクワクしかなかったのですが……引っ越しの日は、空港で号泣する母につられて、少しだけ泣きました。
あれから長い時間が経って、ゆっくり東京に馴染んできたんでしょうね。「東京の人はドライだ」と言われることがあると思うのですが、本当はそうではないこともわかってきました。
さらりと厳しく、しれっと優しい。程よい距離感で、いつも温かく見守ってくれている人たちが周りにたくさんいることに感謝する毎日です。
東京は、受け皿が広い。懐の深さを感じています。世界中の国々のいろんなもの、変わるものも変わらないものも、過去も未来も全部一緒にミックスして、“東京風味”にしてしまう。その感じが面白いなと思うようになりました。
私自身も、この25年でいろんなものを受け入れられるようになったのかな。
「今」をあっという間に更新していく東京という街が、私をそうしてくれた気がします。年を重ねたせいもあると思いますが、いい意味でこだわりがなくなってきたというか。私自身や私以外の何かが変化していくことを、恐れずに面白がることができるようになったかなと。
14歳の私にとって東京は「憧れ」でしたが、今の私にとって東京は「宝島」のような場所。
当然、自分から動かなければ何もはじまらないけど、探しに行けば、何かが見つかる。点と点、人と人が繋がって、たまに奇跡が起きる。人が集まる東京という街には、山ほどの「ご褒美」が用意されている。
思えば、私は常にこの東京で宝探しをしているような状態ですね。
山口紗弥加 Sayaka Yamaguchi
1980年、福岡県生まれ。ドラマ「若者のすべて」(フジ系)でデビュー。確かな演技力で、昨年、ドラマ「ブラックスキャンダル」(日テレ系)で連ドラ初主演、「絶対正義」(フジ系)で2クール連続の主演を務めた他、「ラジエーションハウス」(フジ系)、映画「コンフィデンスマンJP ロマンス編」ほか話題作に多数出演。現在、「モトカレマニア」(フジ系)、ドラマ「歪んだ波紋」(NHKBSプレミアム)が放送中の他、映画「糸」(2020年4月24日公開)など出演が続く。
東京と私
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