写真:ホンマタカシ 文:加藤孝司 ヘアメイク:石川奈緒記 スタイリスト:藤井牧子 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)
Sounds of Tokyo 29. (Shibuya Scramble Crossing)
出身は横浜市の金沢区です。
横浜駅から電車で 30 分くらい、 「八景島シーパラダイス」 がある街で育ちました。
7 歳からこの仕事をしているのですが、当時は兄も同じ仕事をしていたこともあって、中学に上がるまでは仕事とオーディションのたびに母と兄と 3 人で横浜駅から東横線に乗り継いで、一時間半かけて東京に出てきていました。
仕事で東京に行くというよりは“遊びに行く”という感覚の方が強くて、まだ幼かった自分にとっては今も大切な記憶として心に残る、家族との大切な時間でした。
他にも色々な街に行ったと思うのですが、渋谷に行く機会が特に多かったんです。
オーディションや仕事が終わったあと、母と一緒に渋谷で寄り道するのが楽しみでした。
お肉が大好きなので、お気に入りのお店でハンバーガーを食べてから 「SHIBUYA 109」 に行くというのが定番コース。
109 は本当に大好きで、すべてのフロアをくまなく回って、洋服や靴、かわいい雑貨などを見てワクワクしていました。
渋谷の風景としてまず思い浮かぶのは、駅前のスクランブル交差点です。
大人になった今はごく普通の景色として眺められるようになりましたが、子どもの頃、渋谷の駅を出た瞬間に目の前にドーンと現れた大きな交差点を見た時、とにかく驚きました。
たくさんの人たちが速足で同時に行き交う様子を見ながら、 「ここでお母さんの手を離したら一生家に帰れないんじゃないか?」 と、ドキドキしながら渡っていたことを覚えています(笑)。
その印象が強いからか、渋谷は楽しい場所であると同時に 「一人で行ってはいけない大人の世界」 というイメージも持っていましたね。
大人になってからも、渋谷とは何かと縁があります。
友だちと遊ぶ場所も渋谷が多いし、最近だと NHK 連続テレビ小説 「おかえりモネ」 に出演させて頂いた昨年は、ほぼ1年間毎日渋谷に通っていました。
その時は、センター街にあるお店で大好きな韓国チキンをテイクアウトして共演者やスタッフの皆さんと一緒に食べたり、仕事帰りにお気に入りのレコード屋さんに寄って買い物をするというのがルーティンでした。
当時、センター街に 「おかえりモネ」 の主題歌がいつも流れていて、それもすごく嬉しかった記憶があります。
渋谷といっても広いですけど、私にとっての渋谷は駅前から NHK に至るまでのエリア。子どもの頃からの思い出が残る、大切な場所です。
“役づくり” というわけではありませんが、渋谷にはいろんな人がいるから、俳優をしている自分にとっては歩いているだけで刺激的。
今でも時々高校生を演じさせていただくことがあるのですが、街を歩きながら 「最近の JK ってどんな感じなのかな?」 と、じーっと観察しちゃいます(笑)。
東京って、街を歩いている人たちが皆それぞれ自分の好きなものに集中しているというか、あまり他人や周りのことは気にしていない感じがしませんか? 渋谷は特にそういう印象が強くて。
群衆の中に紛れてしまえば誰も私のことを気にしないし、素の自分でいられる。その感じが心地いいし、東京っぽいなあと思っています。
東京、好きですね。
たまに仕事で長期間東京を離れることがあるのですが、しばらくすると 「東京に帰りたいなぁ」 と思います。親しい人たちがいることもそうですが、東京という街の少し冷めた感じが落ち着くんです。
この夏に二十歳になります。
年齢を重ねるにつれて出来る役の幅が少しずつ広がっている実感があって、今、仕事がとても楽しいです。
これからも、その時々の自分にしかできない役を一つずつ丁寧に演じていけたら、と。
これまで何かしら 「過去」 を抱えている役柄が多かったのですが、今挑戦してみたいと思っているのは “ひたすら明るい” キャラクター。
抱えているものがあればそこを軸にイメージを広げて役づくりができるのですが、ただただ明るい役って、実は一番難しいんじゃないかと思っています。
俳優の仕事の他にも、いろいろなことに興味があります。
以前から趣味でギターをやっているのですが、今ドラムに興味があるんです。私の母も、昔ドラムをやっていたらしくて。この間、ドラムの無料体験にも行ってみました。
最近、 「Saucy Dog(サウシードッグ)」 というアーティストのライブを観に行ったのですが、女性ドラマーがすごくカッコよかった !
いつか、音楽活動にも挑戦してみたいなと思っています。
蒔田彩珠 Aju Makita
俳優。2002年、神奈川県生まれ。2012年のTVドラマ「ゴーイング マイ ホーム」に出演し、以降、是枝裕和監督作品に多数出演。映画『朝が来る』(20)では、第45回報知映画賞助演女優賞、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞ほか数々の映画賞を受賞。代表作に、映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)、『星の子』(20)、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(20)、TBS「妻、小学生になる。」(22)など。今秋公開のアニメーション映画『君が愛したひとりの僕へ』ではヒロインを務める。ドラマ「舞妓さんちのまかないさん」、映画『クレイジークルーズ』がNetflixにて配信予定。
Instagram:
@makita_aju
東京と私