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ホンマタカシ 東京と私 TOKYO AND ME (intimate)

Vol.33 朴葵姫パクキュヒ(ギタリスト)
PLACE/浅草(台東区)

写真:ホンマタカシ 文:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

浅草
朴葵姫
朴葵姫
浅草
朴葵姫
朴葵姫
浅草
浅草

Sounds of Tokyo 33. (Mood songs flowing in the streets of Asakusa)


日本と韓国の二拠点で生活をしています。
以前は日本にいる割合が多かったのですが、 コロナ禍以降はビザの関係もあり韓国で過ごすことが多くなりました。

出身は韓国の仁川インチョン
生まれてすぐに日本に引っ越して、 1歳から5歳まで横浜市の上大岡に住んでいました。
幼かったこともあり、 当時の記憶はほとんどありません。 ただ、 何年か前に上大岡駅に直結するホールでコンサートをした際、 駅前のアーケード街を見た瞬間にふと 「この風景、 見たことがある!」 と、 当時の記憶が蘇ってきました。 不思議なものですね。

ギターをはじめたのは3歳の時。 きっかけは上大岡に住んでいた時に母が通っていたギター教室です。 駅前にあったチェーン展開をしているクラシックギター教室で、 はじめてギターに触れました。
5歳で韓国に移ってからもギターを続けて、 並行してピアノとヴァイオリンも習いましたが、 やっぱりギターが一番好きでしたね。
小学生の時には 「将来はギタリストになる」 と、 心に決めていた記憶があります。

韓国にいたのは義務教育を終える15歳まで。 その後、 中3の途中で千葉の柏に引っ越しました。
学生だったこともあり、 当時生活の中心はもっぱら柏。 ギターのレッスンで定期的に池袋に通ってはいましたが、 はじめて 「東京」 を肌で感じたのは池袋ではなく、 高校2年の時に遠足で訪れた浅草でした。

雷門からはじまって 「浅草寺」 に繋がる仲見世通り、 その裏の小道に広がっている日本らしい佇まいをもった居酒屋や味わいのある喫茶店。
はじめて “日本らしい風景” を見たように感じて、 ものすごく感激したんです。

昔ながらの日本の風景が細い路地に広がっている街並みが好きですね。
東京の中心部なのに、 まるでどこか遠くに旅をしているような特別な気分で過ごすことができるって、 すごいことだと思います。
韓国から友だちが遊びにきた時には、 必ず浅草を案内するんですよ。

演奏家として、 聴いてくださる皆さんにより良い演奏をお届けるために “いつどこにいても練習をしなければならない” という意識が常にあります。
だから私にとって、 オンとオフを切り替えるのはとても難しいことなんですね。
「旅」 はスイッチを切り替えることができる絶好の機会なのですが……。 ギターを持たずに遠くへ旅に出ることは、 私にはできません。

でも、 家からそう遠くない浅草だったら、 ギターを持たずに出かけて旅気分を味わうことができます。 心置きなくリラックスしながら古い街並みを歩いて、 大好きな甘味を食べて。 仕事から解放される気持ちを味わうことができる、 私にとって貴重な場所ですね。

韓国の首都ソウルも東京と同じ大都会ですが、 場所によっては浅草のような古い街並みが残っています。
ソウルの中心部には 「漢江ハンガン」 という大きな川が流れていて、 川の南側は高層ビルが建ち並ぶ都会の景色、 川を挟んで北側は昔ながらの古い街並みが多く残っているエリア。 同じソウルでも北と南でキャラクターが異なります。
私が暮らしていたのは南側なのですが、 やっぱり北の古い町並みのほうが落ち着きますね。 浅草の風景や街並みに癒しや親しみを感じるのと同じ感覚かもしれません。

私は “古いもの” に惹かれる人間なんです。

子どもの頃から古いものに親しみを感じていて、 大人になった今もアナログなものが大好き。 メールよりも便箋に手書きで手紙を書くほうが好きだし、 音楽やエンターテインメントを楽しむ時は YouTube よりもラジオに近い Podcast のほうがしっくりきます。

写真を撮るのが趣味なのですが、 スマホやデジタルカメラではなく1920年代につくられた 「ローライフレックス」 という二眼レフカメラを愛用しています。
写真を撮ることとギターを演奏することには、 実はちょっとした共通点があると思っていて。 ほんの些細な事や小さな気配りで、 仕上がりが大きく変わるんですよね。 細かい部分をひたすら詰めていく感じが、 なんだか似ているなと感じます。
“古いもの” といえば、 私が仕事にしているギターも、 昔から姿かたちが変わっていない極めてアナログな楽器ですね。

話は変わりますが、 二十歳から8年ちょっと、 ヨーロッパのウィーンとスペインにギター留学をしたことがありました。

日本や韓国と文化も生活習慣も異なる環境で暮らしてギターを学んだ日々はその後の私の音楽活動に大きな影響を与えてくれましたし、 生活者の視点では 「東京と比べてヨーロッパはアナログなところがあるんだな」 という気づきもありました。

ヨーロッパ暮らしを経て数年ぶりに触れた東京は、 やはりハイセンスで、 洗練された街で。 街中のカフェやバーで人々が昼間からお酒を楽しそうに飲んでいる風景が日常で、 ゆったりとした時間が流れていたスペインと比べると時間の流れがとても早く、 “心に余裕がなくて忙しそうだな” と感じたりもしました。

考えてみたら、 浅草はどこかスペインに似たのんびりした空気感がありますね。
地元のおじさんたちが平日の昼間から居酒屋の軒先で楽しそうにホッピーを飲んでいたり。 そういえば私も、 韓国から遊びにきた友だちと 「ホッピー通り」 でお酒を飲んだことがあるのを思い出しました(笑)。

私にとって東京は 「ギターの演奏家になる」 という夢が叶った場所でもあります。
2010年にデビューをして、 この街で音楽家としての第一歩を踏み出すことができました。
日本はこれまでの人生で一番長く暮らした国であり、 東京という街は自分のキャリアの中で最も大切な場所だと思っています。


朴葵姫 Kyuhee Park

韓国生まれ。 日本と韓国で育つ。 3歳でギターをはじめ、 荘村清志、 福田進一、 A.ピエッリ各氏に師事。 2014年ウィーン国立音楽大学満場一致の首席で卒業。 2016年アリカンテ・ギターマスターを首席で卒業。 ドイツ、ベルギー、スペイン、韓国他多くの主要国際ギターコンクールで優勝・受賞。 N響、 都響、 読響、 東京シティ・フィル、 名フィル、 京響、 広響、 PAC等と共演。 録音も多数。 2020年デビュー10周年を記念した初のセルフプロデュースアルバム「Le Depart」を制作。 欧米、アジアのギターフェスティバルへ招かれている。会 場中を惹きつける音楽性は各地で絶賛されている。

https://www.columbiaclassics.jp/artist/kyuhee-park

朴葵姫

東京と私

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2022/11/30

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