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ホンマタカシ 東京と私 TOKYO AND ME (intimate)

Vol.36 平井かずみ (フラワースタイリスト)
PLACE/恵比寿 (渋谷区)

写真:ホンマタカシ 文:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA) 

ホンマタカシ恵比寿
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平井かずみ
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平井かずみ
ホンマタカシ恵比寿

Sounds of Tokyo 36. (EBISU station)


エンターテイメントに関わる仕事がしたくて、 映画配給や音楽、 映像ソフト開発をしている会社に新卒で入社しました。

入社当時は目黒に通勤していたのですが、 半年ほどでオフィスが恵比寿に移転したんです。 「アメリカ橋」 を渡って、 交差点を右に曲がったところ。 ちょうど 「恵比寿ガーデンプレイス」 ができた年だったと思います。

入社したての私にとって、 恵比寿は 「かろうじて地名を知っている」 というくらいの場所で、 まさに “大人の街” という印象。
恵比寿へは埼玉の実家から通っていたのですが、 その頃はまだ 「湘南新宿ライン」 も運行していなかったので、 いつもギュウギュウの満員電車だし乗り換えもあって……毎日苦労しながら通勤していたことを思い出します。

最初は仕事で通う街ならではの独特の距離感があったのですが、 少しずつ好きなレストランや雑貨屋さんを見つけたりして、 次第に自分の暮らしと街とが繋がっていきました。
今でも健在の 「チェリーラディッシュ」 というお花屋さんに花を買いに行ったり、 「シェ・リュイ」 でケーキを買ったり。 インテリアショップの 「Pacific furniture service」 も、 ちょうどその頃オープンしたと記憶しています。

会社ですか? すごく楽しかったですよ。
でも、 エンタメの仕事に憧れて選んだ会社だったにも関わらず、 入社後配属されたのは総務部だったんです。
実は入社試験で配属希望を書く時に “おべっか” で第3希望に 「総務部」 と書いてしまって。 そうしたら、 希望する人が珍しかったのか、 見事に総務部・庶務課に配属されました (笑)。

本来希望していた部署ではなかったものの、 “縁の下の力持ち” 的な仕事にやりがいを感じていたので、 会社を辞めたいとは思ったことはありませんでした。 総務部の先輩は皆さんとてもいい人ばかりでしたし。
でも私、 計算や事務仕事が本当に苦手で。 そしたら、 当時受付をしていた総務部の先輩が辞めるタイミングで受付の仕事を任されるようになりました。

受付に座るようになってしばらくして、 「ここに花がないのは寂しい」 と感じて 「受付に花を飾ってお客さまをお迎えしたい」 と課長に提案しました。 今思えばそれが、 誰かのために花を生けるという悦びを最初に知るきっかけだったと思います。
当時の私は将来の願望のようなものもあやふやで、 「就職して、 結婚してお母さんになるんだ」 というくらいの感じでしたから、 まさか将来フリーランスで花の仕事をするなんて想像もしていなかったんです。

将来はお嫁さんになることを願っていたのが、 受付の仕事をしながらクリエティブな仕事を目の当たりにするようになって、 そのことに本当に感動しちゃって。
次第に、 自分自身も “生み出す側” の人間になりたいと思うようになっていきました。

結局、 会社には4年半勤めました。
当時から雑貨が好きで、 スタイリストの岩立道子さんや岡尾美代子さんの仕事に憧れていたこともあり、 OL最後の半年間は恵比寿にあった社会人向けのバンタンキャリアスクールに通って雑貨のスタイリングの勉強をしたんです。

退職後は、 ベランダ園芸にハマったのをきっかけに造園業の仕事をして、 その後にインテリアショップ 「Time & Style」 に入社しました。 家具の仕事だけではなく初代植物担当としてインテリアまわりのグリーンの提案に携わらせていただき、 少しずつ今の仕事に繋がっていきました。

実は、 ご縁があって昨年から恵比寿にアトリエ 「皓 (SIROI)」 を構えることになり、 約30年ぶりに再び恵比寿に通うようになりました。

「アンティークス タミゼ」 の吉田昌太郎さんから引き継がせて頂いた場所なのですが、 丁寧に掃除をされ整えられたこの場所にはじめて立った時、 とても清々しい気持ちになり、 「ここは白く光り輝く箱だ」 と感じました。

何気なく “白く光り輝く” とインターネットで検索をしたら、 「白くかがやく」 「ひかる」という意味を持つ 「皓 (しろい)」 という漢字に出会ったんです。
右側の 「告」 という字には 「広く伝える」 「多くの人々に知らせる」 という意味があるということを知り、 これだ、 と思いました。
私が花の教室のためだけに使用するというよりは、 ここを訪れてくれる様々な人たちが一緒に光を放ち、 関わり合い、 発信していく場所になれば。 そんな希望を胸につけた名前です。

それにしても、 将来恵比寿に自分のアトリエを持ってフリーランスで花の仕事をするなんて。
新社会人として受付に座っていた二十歳そこそこの私が知ったら、 とても驚くでしょうね(笑)。

「戻ってきた」 のか、 或いは 「はじまった」 のか……。 いえ、 やっぱり新しくはじまった感覚なのかな。

どちらにせよ、 恵比寿駅からの動く歩道 (恵比寿スカイウォーク) を速足で歩くたびに、 この不思議な時間軸が感慨深くて。 今も昔も変わらず私はここを歩いているんだと、 しみじみ思うことがあります。

よく考えているのは、 何をするにもひとりでは限界があるということ。
自然の中で過ごすのが好きですし、 地方を拠点に活動をしてみたいという気持ちもゼロではないけれど、 今の私の働き方を考えると 「東京」 は必要な場所だし、 東京だから発信できることがあると思います。
アトリエを拠点に沢山の人に関わっていただきながら、 これからも花のある暮らしの楽しさを伝えていけたらと考えています。

住まいは、 恵比寿から少し離れた街にあります。
ここにアトリエを借りるにあたって近くに探しましたが条件に合うところがなく、 結局そのままに。 会社員時代もそうでしたが、 私にとって恵比寿は通う場所で、 住む場所ではないのかもしれません。
……とは言いながらもすべては縁なので、 いつか良いところが見つかって住んでいるかもしれませんね。
これからまた新たに、 この街を知っていきたいと思います。


平井かずみ Kazumi Hirai

フラワースタイリスト。 草花がもっと身近に感じられるような 「日常花」 の提案をしている。 東京を拠点に花の教室 「木曜会」 や、 全国でworkshopを開催。 雑誌や CM でのスタイリング、 TV やラジオにも出演。 「すぐそばにある自然の営みに気づくことで、 私たちの感性の森を育む」 をテーマに活動する “seed” の第1弾として、 写真・文を自ら手がけた花のタブロイド 『seed of life』 を発行。 『季節を束ねるブーケとリース』(主婦の友社) 等、 著書多数。

Instagram: @hiraikazumi

HP:https://www.hiraikazumi.com/

平井かずみ

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2023/02/28

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