デンマークでアーティストとして活動するダヴィデ・ロンコさん。
イタリアで生まれ、地元の大学でプロダクトデザインとグラフィックを学んだ後にデンマークへ。
素材と向き合い「つくる」ことをライフワークにする、27歳の若きアーティストの「今」に迫るQ&A。
写真・翻訳:Maya Matsuura 文・編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)
Davide Ronco(ダヴィデ・ロンコ)
1993年、イタリア、ウーディネ出身。ヴェネツィアのIUAV大学で工業デザインの学士号を取得。より感情的で彫刻的なアプローチをめざし、デンマーク王立芸術アカデミーでセラミックデザインの修士号を取得。知覚の研究と、自然と人工物に焦点を当てた彫刻的なオブジェを制作している。
www.davideronco.com
Instagram:@davideronco
失敗しても大丈夫。そんな街の空気に支えられて
現在の活動について教えてください。
- デンマークをベースに、アーティストとして活動しています。コペンハーゲン市内のギャラリーやインテリアショップなどで作品の展示を定期的に行っていて、昨年はKrabbesholm(クラベスホルム)ホイスコーレやコペンハーゲンのギャラリー「Tableau」で展示を行いました。
今は、市内にある小さな半地下のスタジオを3人の友人とシェアしています。アーティストインレジデンスで海外に滞在することもあって、実はもうすぐスウェーデンの田舎で2ヶ月ほど暮らす予定なんです。
昨年の冬には、研究も兼ねてデンマークの「Krabbesholm ホイスコーレ」(※「ホイスコーレ」については、第5回、第6回の記事を参照)で講師として陶芸を教えていました。自分もまだ学びの途中だけど、それでも人に伝えられることがたくさんあることに気がつきました。自分が持っている知識を人に伝えることは刺激的だし、学生たちがそれを理解して情熱的になってくれたときは本当に嬉しかったですね。
陶芸に興味を持ったきっかけは何ですか?
- 父は建築家で、母は陶芸をしていました。母の影響もあって、小さい頃からよく土で遊んでいたのを覚えています。最初に土に触れたのは、たぶん僕が生後3ヶ月の頃じゃないかな。母は毎年誕生日になると僕の足形をとってくれていました。
建築家を目指す、という選択肢もあったのでしょうか。
- 実は、小さな頃の将来の夢はパイロット、農家、建築家でした。でも父は、「もし建築家になったら、お尻を100回蹴り飛ばしてやる」って言ったんです。それくらい苦しい道なんだ、ということを言いたかったらしいですが、蹴り飛ばされるのは勘弁だから、デザインの道に進みました(笑)。結果、空や畑にいなくても、とってもアドベンチャラスな道を歩いている気がします。
出身はイタリアだそうですね。
- 故郷はアルプスに面した北イタリアなのですが、デンマークはとにかく平らな国だから山々が恋しい。自然に近い感覚は、ここではあまりないんですよね。
イタリアの大学ではプロダクトデザインとグラフィックデザインを専攻していました。でも毎日パソコンに向かって作業をしているうちに、“もっと手を使いたい”と思うようになったんです。もっと手を汚しながらものづくりをしたいな、って。それで、子どもの頃に身近だった陶芸に改めて興味を持ちはじめたんです。デザインをしていた時よりも、すべてのプロセスに関わることができるので、「素材」というものにより興味を抱くようになりました。
陶芸のどんなところが面白いと思いますか?
- 何が起こるかわからないところ。素材やかたち、機能など、さまざまなアプローチを試していく中で、自分で想像もしなかった結果になることばかりで。焼きあがるまで、どうなるか本当にわからないんです。
イタリアでの大学生活を経て、デンマークの学校(デンマーク王立芸術アカデミー)への進学を決めた理由はなんですか?
- デンマークは学生に対してのサポートが充実しているところが何より魅力で、それは卒業後も変わりません。もしイタリアで今と同じようにアーティストとして活動していたら、きっといくつもバイトを掛け持ちしないといけなかったんじゃないかな。デンマークは、駆け出しのアーティストのための助成金も充実しているんです。
それはありがたいですね。
- でも、サポートはお金の面だけではありません。「失敗しても大丈夫だよ」という空気が街全体にあるところも大きな支えになっている気がします。卒業後すぐにアーティストとして生活できる人なんてほんの一握りですから、焦りや不安はつきものです。でもこの街は、若いアーティストがじっくり時間をかけて自分の作品と向き合うことに対してとても寛容なんです。
ひとつの街として見た時のデンマークのいいところはどんなところですか?
- ちょうどよい街のサイズ、ですね。人と会うにも、どこかへ行くにも、自転車に乗ればあっという間です。都市というよりも、“ちょっと大きな村”という感じかな。環境問題などの社会問題に対する視点が、日常の中にあたりまえに存在しているところもいいなと思います。これからの時代のものづくりに欠かせない視点だし、“素材”を主軸に置いている自分のものづくりにおいても、とても大切な要素です。
制作のテーマは、「素材のリサーチ」と「自然と人工物の間」だそうですね。
- はい。素材への興味は尽きることがありません。昨年デンマーク北部に滞在している時に、島にある天然の土を集めて土の種類、焼く温度などを変えてさまざまなサンプルを作成したんです。そのうちのひとつが、焼成時にかたちや質感を制御できず、自然でランダムなかたちをつくり出すことを発見しました。とてもわくわくしましたね。
ものづくりをする上で、一番大切にしていることは何ですか?
- 自分の気持ちにしっかり向き合って、正直でいること。自分の作品が誰かに影響を与えることを考えた時、それが本当に自分の信じているものでないといけないと思うから。
では、その「つくる」気持ちを支えているものは?
- 自分の作品を見てくれている人の存在ですね。はじめは、“誰か”になろうと必死だったし、人と比べてしまうことも多かった。今でも、たまにありますけどね(笑)。でも、展示で出会う人たちが自分の作品を評価してくれているということに気が付いてから、「このままでいいんだ」って、自分を少しずつ信じられるようになりました。自分の作品が、誰かの人生の新たな扉を開くきっかけになっていたら良いなと思います。
今、挑戦したいことは何ですか?
- 遠く離れた場所でのアーティストインレジデンスや、クレイジーな環境での調査旅行など、やりたいことはたくさんあります。でも今は自分にとって毎日が新鮮なことばかりで、この状況に身を任せているのがちょうどいい。強いていうなら……もっとソーシャルなプロジェクトに関わってみたいかな。コンセプトだけでなく、もっと人に近いもの。そういうものが自分の活動に社会的で政治的な新しい側面をもたらす気がしています。
「変化」を求めている?
- 求めているというよりも、実際にこの半年くらいで周りとの関わり方がぐっと変化した気がします。仕事はもちろんだし、プライベートも変化の時期だなって感じます。自分の暮らしや仕事のベースがとても流動的で、それに合わせて自分の周りの人も変わっていく。自分自身の考え方が、人や場所、習慣によって大きく変わっていくのを感じているし、それがとても興味深いです。
10年後はどこで暮らし、どのように生きていたいですか?
- ものづくりは今と変わらず続けていたい。教えることも少しでいいから出来ているといいですね。でも、今よりもっと静かな場所でやっていると思う。自分はとっても外向的な性格だから、街にいたら友達とディナーしたり、展示やイベントに行ったり、予定を詰め込んでしまいがち。今はいろんなものを幅広く見ることが大事な気がするから、忙しくなってしまうことも駄目だとは思わないんだけど。でもここ数年で少しずつなりたい自分が見えてきている気がするし、あらためて「自分が本当に必要なもの」を選んでいくことも、大切だなと感じているんです。