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21のバガテル モノを巡るちょっとしたお話

21のバガテル Ⅱ
第6番:やっぱりフレンチが好き!
Pierre Guariche(ピエール・ガリッシュ)のラウンジチェア「SK660」

文:大熊健郎(CLASKA Gallery & Shop "DO" ディレクター) 写真:馬場わかな 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

Profile
大熊健郎 Takeo Okuma
1969年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、イデー、全日空機内誌『翼の王国』の編集者勤務を経て、2007年 CLASKA のリニューアルを手掛ける。同時に CLASKA Gallery & Shop "DO" をプロデュース。ディレクターとしてバイイングから企画運営全般に関わっている。


 チャールズ&レイ・イームズを筆頭にした、アメリカ経由のいわゆるミッドセンチュリーブームが日本ではじまったのは1990年代半ば頃だったと思う。当時、東京のミッドセンチュリーブームの発信源とも言われた店のひとつ、中目黒にあった「オーガニックデザイン」(のちに「オーガニックカフェ」としてリニューアル)に会社の同僚に連れていってもらったのを思い出す。

 イームズというデザイナーの作品は創造性と実験性に富んだユニークなものばかりで、家具などのプロダクトももちろん魅力的だが、自ら設計した自邸「イームズハウス」(当時アメリカに流通していた既製品の資材だけで建てられたことで知られる)や「パワーズ・オブ・テン」などのショートフィルム作品を知ってさらに驚かされた。一流のデザイナーというのはこうも想像力に富み、知性もユーモアも兼ね備えているのかと感動したものである。

 その一方で、世界観としてはアメリカのミッドセンチュリーデザインよりもヨーロッパ、とりわけフランスのミッドセンチュリー時代のデザインに個人的には惹かれていた。それは当時勤めていたイデーでリプロデュースしていたセルジュ・ムーユの照明器具をきっかけに知った、50年代前後のフランスの家具が持つ独特の雰囲気に骨抜きにされていたから。「かっこよさ」というより、もう「色気」としか言いようのない何かを放っているように感じていた。

 フランス人がつくるものに、例えば車のデザインしかり、あるいは60,70年代のフレンチポップスの世界しかり、ダサさすれすれというか、絶妙にアンバランスとでも言いたくなるフォルムやスタイルの中に何か人を引きつけてやまないものを封じ込めてしまうセンスを感じてしまうのだ。フランス人の代名詞とも言われる合理主義者という側面だけでは生み出せるはずがない不思議なエレガンス。やっぱりDNAなんだろうか。

 写真の椅子はフランスのデザイナーであり建築家でもあったピエール・ガリッシュ(1925‐1995)がデザインした「SK660」というラウンジチェア。ガリッシュはまさにフレンチミッドセンチュリーに活躍したデザイナーのひとりで、当時世界各地で量産されるようになった成形合板の椅子をフランスでいち早くデザインしたことでも知られている。近年、ジャン・プルーヴェやシャルロット・ぺリアンが大きな注目を浴びるようになったことで、同時代のデザイナーとしてガリッシュも名前を目にする機会が増えてきた。

 このラウンジチェア、写真ではわかりにくいかもしれないが、座面が「く」の字を横にしたような角度になっていて座ると少しふんぞり返ったようになる。この椅子がオフィス、それも役員室みたいな部屋で使われている発売当時と思われる写真を本で見たが、細見のスーツを身にまとったフランス人エグゼクティブが長い脚を組み、煙草をくわえてル・フィガロやル・モンドをふんぞり返って読んでいたのかもしれない、なんて想像するとなんともニクい、いや、くやしいではありませんか。

ラウンジチェア
ピエール・ガリッシュが1953年にデザインした「SK660」というラウンジチェア。同じ品番でアーム付タイプもある。日本におけるフレンチヴィンテージファニチャーの雄、「GALLERY SIGN」がまだ小さな店を恵比寿に構えていた頃に購入したもの。

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2021/10/12

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