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つくる人 私たちの暮らしを豊かにする「もの」を生み出す「つくる人」とのトークセッション。

Vol.17 岡嶌要(デザイナー)
家具のような、彫刻のような/後編

CLASKA発の家具ブランドとして展開してきた「interior & furniture CLASKA」が2022年4月1日に「HOIM(ホイム)」として新たなスタートを切った。
インタビュー後編では、リブランディングの背景や
「つくる人」として考えるこれからのことについて話を伺った。

写真:川村恵理 文・編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

Profile
岡嶌要(おかじま・かなめ)

デザイナー。京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)美術科彫刻卒業。「IDÉE」において企画開発およびプロダクトデザイナーとして活躍後、2006年に独立。2008年より「CLASKA」のデザインディレクションに参加。「Hotel CLASKA」の客室デザイン・制作を手掛けたほか、CLASKAオリジナルのプロダクトやインテリアのシリーズも精力的に発表。彫刻で培った造形技術を生かし、インテリア、プロダクト、建築、アートの領域を横断する表現活動を展開中。CLASKAのプロジェクトとして展開していた「interior & furniture CLASKA」を「HOIM(ホイム)」としてリブランディング。新作家具18点がラインナップに加わり、2022年4月1日新たなスタートを切った。
https://claskahoim.com/


前編はこちら


確かなものを少しだけ

インタビューの後半では、4月1日にリブランディングというかたちでスタートした家具ブランド「HOIM(ホイム)」についての話を中心に伺っていきたいと思います。今回、新たに18点の家具が商品ラインナップに加わりましたが、今回のリブランディングにはどのような背景がありますか?

岡嶌要さん(※以下敬称略):
「Hotel CLASKA」が閉館したことで、CLASKAのブランドカラーを伝えるツールがひとつ減るかたちになりました。じゃあ、HOIMが今後その役割を担います! ということではないんですけど、ホテルの閉館がひとつのきっかけになって、改めて家具と向かい合い直してみようという気持ちになりました。きちんと名前を付けて、家具ブランドとしてより世界観を確立していけたらと。

今回のタイミングで発表した新作に関して、デザインする際に「CLASKAらしさ」は意識しましたか?

岡嶌:
特にCLASKAらしさは意識していなくて、“自分そのもの”という感じですね。今自分が思っていることや考えていることを素直に反映してつくった家具が世の中にどう浸透していくのか、まずは見届けたいなと。
岡嶌さん後編

ひとつの家具が出来上がるまでの時間軸はどんな感じなのでしょう。

岡嶌:
早い時はすごく早いです。「こういう家具があったらいいな」という、モノ先行ではじまる場合もあれば、職人さんと素材や加工技術について会話をする中で、「この職人さんとだったら、こういうものができるかも」と、人ありきでスタートする場合もあります。僕の場合比較的後者が多くて、その場合は図面を書いた後の進みが早いですね。

これまで関わってきた職人さんたちとは、結構長い付き合いになるんですか?

岡嶌:
長いですね。例えば鉄製家具の「His Iron works series」は、制作を担当してくださっている職人さんだからこそ実現したものですし、その他の皆さんもそれぞれ素晴らしい技術を持っていて尊敬する方ばかりです。今の関係性を引き続き大切にしていきたいと思う一方で、新規開拓も必要だと感じているんですけどね。

信頼する職人さんたちとの関わりもそうですが、鉄をはじめとした「素材」も岡嶌さんの仕事における大切なキーワードであるように感じます。

岡嶌:
そうですね。先ほど「人ありきのものづくりが多い」ということを言いましたが、同時に素材ありきでもあると思います。例えば、「こういう素材があるから、これでテーブルをつくりたい」という流れは結構ありますね。
岡嶌さん後編

HOIMの商品は革、木、鉄など素材別に5つのシリーズに分かれています。先ほど話に出た鉄製家具の「His Iron works series」の他にもホワイトオークの無垢材を使った「Wood Brace series」、通常仕上げ材としては使われない赤マツ材の表情を生かした「Naked series」など、家具の造形はもちろんですが素材から家具を選ぶ楽しみもありますね。今後、照明と椅子のシリーズが予定されているということでしたが、それで一旦全ラインナップが揃う感じでしょうか。

岡嶌:
そうですね。その後は、一度つくったものをさらに研ぎ澄ませていくというか、アップデートしていくイメージでいます。

ちなみに、リブランディングするにあたって改めて「こういうことを大事にしよう」と意識したことはありますか? 先ほど、もう一度家具と向き合い直すという話をされていましたが。

岡嶌:
昔から思っていることなんですけど、やっぱり普遍的な家具をつくりたいですね。家具に限らず普遍的なものは消費されないし、飽きられないから。

なるほど。普遍的ということで今ふと思い出したのが、岡嶌さんが「コンバース」のスニーカーのとあるモデルを何個もストックしているという話。

岡嶌:
あのスニーカーは普遍的ですね、間違いなく。今日は、斜に構えていた若かりし頃から愛用している「ドクターマーチン」のローファーを履いていますが(笑)。これも、僕の中では普遍的な存在かな。
岡嶌さん後編
岡嶌さん後編

普段自分が持つものや身に着けるもの、生活用品を選ぶ際も、普遍的であることは重要なキーワードになりますか?

岡嶌:
そうですね。若い頃からずっとそうかもしれないです。数は少なくていいから、自分にとって普遍的なものを持っていたい。商売の観点でいったら時代の流れを汲んだ新作をどんどんつくっていく方が利益が上がるということも理解できますし、HOIMの商品もとにかく沢山売れて欲しいからそういう考え方にも積極的でありつつ……。でも理想を言えば、時代や流行に関係なくずっと売れ続ける“確かなもの”を少しだけつくる方が断然いいんじゃないかと思っています。

悩んで悩んで、地固まる

他に大切にしていることはありますか?

岡嶌:
素材と機能とかたちのバランスがとれているかどうか、でしょうか。もちろん金額のバランスも。

リーズナブルな家具も沢山出てきていますし、金額を決めるってとても難しいですよね。バランスをとる作業において、「これでオッケー」みたいな基準はありますか?

岡嶌:
色々迷って回り道をしたとしても、最終的には最初に「こうだな」と思ったことが正解であることが多いのは、これまでの経験でなんとなくわかっています。でも、吐きそうになるくらい悩んで、色々なことを考えて他の可能性を試して、結局一周して戻ってきて「やっぱりこれで良かったよね」という段階を踏まないと、僕の場合は決められないんです。
岡嶌さん後編

それはどの段階で一番悩むんですか? 素材? それともかたちでしょうか。

岡嶌:
全部(笑)。「これはいける」と思ってはじめても、何かの拍子で全然違うコンセプトでできた素晴らしいものを見た時に、「自分が目指しているものが、果たして同じようなレベルにあるんだろうか?」と迷いが出てきてしまうんです。本当にこれでいいのか、これで自分は恥ずかしくないのか? って。

なるほど。

岡嶌:
そういう状況の中で、自分自身と折り合いをつけるための作業として細かい部分を色々と調整したり変えたりしていくわけです。そうすると、段々と細部の理由が語れるようになってきます。つまり「この家具、いいんですよ」という漠然とした感じではなく、「ここがこうだからいいんです」と、具体的に語れるようになる。

理論立てられるようになる、ということでしょうか。

岡嶌:
ですね。そうすることで自分自身も安心するから、吐きそうになるまで悩むのも大切なプロセスなんじゃないかと思うようにしています。その商品を見た人の笑顔(反応)が浮かんでくるというのも大きいかな。

岡嶌さんがデザインする家具は、どれも静けさや柔らかさを纏っている印象なので、まさか水面下でそんなことが起こっているなんて想像していませんでした。

岡嶌:
表に出てないでしょ?(笑)。
岡嶌さん後編
岡嶌さん後編

岡嶌さんのものづくりの原点には「彫刻」があるじゃないですか。ひとつのものを完成させる過程で色々と迷ったり悩んだりすることもあるとはいえ、彫刻が原点にあるからこその素材との向き合い方や生かし方、という武器をお持ちなんじゃないかと思います。そのあたりはいかがですか?

岡嶌:
それはありますね。例えば、自分そのものといえる「HOIM」の家具とクライアントの要望をデザインするオーダー家具。それぞれデザインする工程は異なりますが、自分のスタンスを崩さず向き合えている気がします。それは、彫刻という「軸」があるからなのかもしれませんね。
岡嶌さん後編

それでもつくり続ける理由

先ほど「普遍的な家具をつくりたい」という話がありましたけど、改めて、「いい家具」ってどういうものだと思いますか。

岡嶌:
何かしら「オリジナル」と呼べる要素があったり「挑戦」を感じるもの、だと思います。

それはご自身でも意識していますか?

岡嶌:
もちろん。「挑戦」に関しては少しだけ足す、という感覚ですね。挑戦するということは、時にそれが“余計なこと”になってしまう可能性もあるかもしれない。そのリスクを考えつつバランスをとる感覚が大切だと思っています。やっぱり、挑戦し続けることがひとつのモチベーションになるというか、それがないと継続できないんじゃないですかね。ものづくりにおいて何よりも大切なのは、日々の継続だと思うので。……これを言っちゃうと今までの話をひっくり返しちゃうようであれですけど、正直言うと今、「新しいものをつくりたい」という欲求があまりないんです。

なぜそう思うのですか?

岡嶌:
もちろん、自分の根底には「ものをつくるのが好き」という気持ちがあるし、つくり続けていくんですけど、無駄なものを新たにつくることはなるべくしたくないと思っていて。

なるほど。

岡嶌:
言葉にすると強いですけどこれは決してネガティブな意味ではなくて、例えば極端な話「HOIMというブランドには、7つのシリーズがあって、各シリーズにつき一種類ずつしか商品がありません」ということになったとしても、それが全部オリジナリティ溢れる名作だったらもの凄いことじゃないですか。かなり難しいことだと思うんですけど、それが出来たら究極だし、やるからにはそこを目指したいなと思いますよね。
岡嶌さん後編

最後の質問になります。岡嶌さんが“つくり続ける理由”は何ですか?

岡嶌:
自分だけにしかつくることができないものの追求、でしょうか。「つくる」という行為は、物々交換的というか、人とのコミュニケーションのための手段である側面が大いにあると思うので、家具に限らず色々なものをつくって、色々な人と関わっていけたらと思いますね。  

オリジナリティの追求、とも言い換えられるでしょうか。

岡嶌:
そうですね。素材や技術の追求をしていった先にあるであろうオリジナリティをモチベーションに、これからもつくり続けていくんだと思います。僕はデザイナーという立場だから、制作は腕のいい職人さんにお任せするのが一番だしそれが現状ですけど、本当は自分の手で、粘土でつくったりするのが一番オリジナリティが出るのかも。話が彫刻に戻っちゃいますけど。

それは是非、老後の楽しみに。

岡嶌:
いいですね。

仙人的な生活にシフトしていくとか?

岡嶌:
山奥で、一人で? それは嫌だな(笑)。
岡嶌さん後編

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2022/04/20

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