Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。
コンサートホールや劇場、美術館があることは都市の文化度のバロメーターだ。
上野には「東京文化会館」に加えて数々の美術館群があって、文句なく東京を代表するカルチュラル・ディストリクトと言える。
六本木も「サントリーホール」や特徴のある美術館があるし、日本橋から京橋、丸の内にかけても「東京国際フォーラム」や様々な劇場、「東京国立近代美術館フィルムセンター」、「アーティゾン美術館」、「三井記念美術館」、「出光美術館」、「三菱一号館美術館」などいい美術館が目白押しだ。
意外に知られていないのが初台で、ここにはオペラ、バレエ、ダンス、ミュージカル、演劇を上演する「新国立劇場」と、コンサートホールや奏楽堂に加え、メディア・アートを発信するNTT の「ICC(インターコミュニケーション・センター)」、アートミュージアムを備えた「東京オペラシティ」という優れた文化施設が隣合わせに建っている。
私にとっては、自宅から歩いて行ける範囲にある最も身近な文化的エリアだ。
このところ劇場へ足を運ぶ機会が減ったが、新国立劇場ならではのラインナップは魅力的だ。
2018年に見たサシャ・ヴァルツのコレオグラフィック・オペラ「松風」は世界で活躍するアーティスト塩田千春のインスタレーションが融合した画期的な“能”だったし、バレエ「不思議の国のアリス」もワクワクする舞台だった。
今、新国立劇場ではオペラやバレエの衣裳の展示をロビーで公開中だ。
このロビーのギャラリースペースは公園と同じ「公開空地」という扱いで誰でも自由に入れる場所だとはじめて知った。
これは「初台アート・ロフト」という活動だという。新国立劇場開場から20年あまりを経た2019年からはじまったプロジェクトで、数々の舞台を彩った衣裳を倉庫から選び出して展示することで再び“光”を当て、もう一度その価値を再認識するという試みだ。
2020年の第1回は「ファンタジー」展、2021年春の第2回は「パラード」展、2021年秋の第3回は「生命の木」展、そして今展示されているのは第4回で「神話への旅」展。
今回はモーツアルトのオペラ「魔笛」の衣裳、ワーグナーの「ローエングリン」も1997年版と2012年版のロザリエによるデザインの衣裳が対比されて展示されていて興味深い。
舞台装置や演出そして衣裳によってガラリと印象が変わるのが舞台だ。
新国立劇場は1997年10月、團伊玖磨作曲のオペラ「建・TAKERU」で開幕。
続いて同年11月はR.ワーグナー作曲の「ローエングリン」が作曲家の孫ヴォルフガング・ワーグナーの演出で上演された。
1998年1月はオペラ「アイーダ」をフランコ・ゼッフィレッリの美術・衣裳・演出で公演。開場以来5年ごとの周年記念公演として上演されている演目で、来年の開館25周年にはまた再演されるという。
https://artsandculture.google.com/story/yQXBz66hhvvYtA
その舞台装置のホルスもロビーで間近に見ることができる。
この初台アート・ロフトのギャラリーの展示キュレーションは舞台衣裳作家の桜井久美氏が手がけている。パリの「オペラ座」で修行しロンドンや海外での仕事の経験も多い彼女は、舞台衣裳を文化的価値のあるものとしてアーカイブ化する動きが世界各地の国立劇場ではじまっていると語った。フランスでは2006年世界に先駆けてムーランに開設した「Centre National du Costume de Scène de Moulins(国立舞台衣装と舞台美術センター:
通称CNCS)」が素晴らしく、オペラ、バレエ、演劇などの1万着もの衣裳や舞台装置などを所蔵し、研究、修復、保存と同時に魅力的な展示が行われており、多くの人が訪れるスポットになっているという。
https://www.cncs.fr
初台アート・ロフトも規模こそ違うがCNCSのように舞台美術や衣裳の価値をアートとして人々に広く認識させたいという情熱がヒシヒシと伝わる展示だ。
新国立劇場にはロビー以外にも舞台美術や舞台衣裳、演劇などのライブラリーもあって子どものためのワークショップも開催されていることも知った。この文化的贅沢を感受しない手はない。
私が衝撃を受けたバレエ「不思議の国のアリス」は、英国ロイヤルバレエ団で2011年に初演されたもの。世界有数のバレエカンパニーがレパートリー化した世界を熱狂させた人気作で、アジアでは唯一新国立バレエ団だけが上演を許可されているという。
演出も振り付けも音楽も素敵だが、ボブ・クロウリーによる舞台美術と衣裳に度肝を抜かれた。
CG慣れした鈍磨した感性に突き刺さる、人の手と肉体によってしか表現できない空想の世界だ。
https://www.youtube.com/watch?v=CXONhMCk4Wk
Alice's Adventures in Wonderland trailer (The Royal Ballet)
その「不思議の国のアリス」がまた今年の6月に新国立劇場で再演される。
もう一つ、アリス好きにはたまらない展覧会が7月に六本木の「森アーツセンター・ギャラリー」で開かれる予定だ。
これは昨年ロンドンのヴィクトリア&アルバート・ミュージアム(V&A)で開催された
「Alice: Curiouser and curiouser 」展の日本展だ。
ロンドンではボブ・クロウリーデザインのバレエの衣装が展示されたそうだが日本でも見てみたいものだ。
>V&A Alice: Curiouser and curiouser
https://www.vam.ac.uk/exhibitions/alice-curiouser-and-curiouser
>The V&A presents Alice: Curiouser and Curiouser | Official Trailer | Coming to Cinemas from Oct 1
https://www.youtube.com/watch?v=-x-cM0qsDb4
>ALICE CURIOUSER AND CURIOUSER EXHIBITION 2021
https://www.youtube.com/watch?v=qt1jdK-L5HI
<関連情報>
□新国立劇場
住所:東京都渋谷区本町1-1-1(京王新線 「初台駅」中央口直結) Tel:03-5351-3011(代表)
https://www.nntt.jac.go.jp
●情報センター 閲覧室
開室時間:10:00~18:00(最終受付17:30) ※現在の開室時間は、原則11:00〜17:00となっております。
休室日:原則月曜日・火曜日 特別休室日、年末年始(祝休日及び主催公演日は原則として開室)
Tel:03-5352-5716(受付センター)
https://www.nntt.jac.go.jp/centre/
□初台アート・ロフト
https://www.nntt.jac.go.jp/centre/news/detail/210212_019506.html
□東京オペラシティ
http://www.tokyooperacity.co.jp/culture/
●東京オペラシティ アートギャラリー
「篠田桃紅展」 4月16日~6月22日まで
http://www.operacity.jp/ag/exh249/
●ICC(インターコミュニケーション・センター)
https://www.ntticc.or.jp/ja/about/
□特別展アリス ―へんてこりん、へんてこりんな世界―
https://alice.exhibit.jp
会期:2022年7月16日~10月10日 会場:森アーツセンターギャラリー[六本木ヒルズ森タワー52F] 主催:ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、朝日新聞社、フジテレビジョン 協賛:DNP大日本印刷、ディズニー★JCBカード 後援:ブリティッシュ・カウンシル