Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。
「命」 と 「死」、 「夢」 と 「現実」、 「静止画」 と 「動画」、 「写真」 と 「物語」。
川内倫子の展覧会に行くと、 並んだ写真の画像から受け取る相反する意味や感触が脳内を駆け巡り、 やがてその感覚をどこかに着地させたい思いに囚われる。
最初に出会った写真集は 『AILA』 (2004年) で、 この本がリトルモアから出た時、 表紙はクロコダイルの型押しの白い無地だった。 だから、 どんな内容なのかはじめは想像ができなかった。
産まれた瞬間の嬰児と蛍、 鶏の鶏冠と羊歯の葉裏の胞子のブツブツ、 ヤモリと森の中の滝、 女性の腿と蛇、 汗とヤスデ 、働き蜂と泡……。
見開きは全く異質のようでいて奇妙な共振をしていた。 その共振が不思議な世界へと誘う。
FOILから再版された時は、 卵の殻を破って生まれ出ようとする雛が表紙になっていて、 命の写真集である事が明確になった感じがした。
東京オペラシティ アートギャラリーで開催されている 「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」 のMとEは母 (Mother) と地球 (Earth) の頭文字であり、 続けて読むと 「母なる大地 (Mother Earth)」 「私 (Me)」 でもあるという。 なるほど。
ある時から彼女は写真だけでなく映像も発表しはじめた。
「東京都写真美術館」 の 「川内倫子展 照度 あめつち 影を見る」(2012年) で見た阿蘇の野焼き、 国立新美術館 「古典×現代 2020 時空を超えるアート」(2020年) では 「Halo 」の 「打樹花」 に度肝を抜かれた。
今回、 その映像を部屋の隅に見つけた。 これは中国・河北省で春節に行われる1600度に溶かした鉄を壁に打ち付けて花火のように火花が飛び散らせる伝統儀式だそうだ。
壁に並ぶ写真、 壁面全体を使った映像の部屋、 床に映像が流れる部屋などいくつかの部屋に分かれているが、 特にゾワッとしたのが 「One Surface」 という部屋で、 そこには1枚のモノクロームの写真とその写真がプリントされた薄い布地が少しの空気の動きで揺らいでいるだけだ。 けれど、 どこかからひそひそとした声が聞こえてくる。
よく耳を澄ますと、 途切れ途切れに意味のある言葉が聞こえてくる。
「よるをいくつもこえて とおくにひかるほし てのなかでかがやく……」 「くらいトンネルはぬけられましたか みながみな うたっています むこうぎしからようこそ ここは どちらがわにもつながっています またつぎのはじまり」
え? これは命の終わる時、 向こうの世界へ行く時の話なのか。
これは彼女がはじめてつくった 『はじまりのひ』 (2018) という絵本に書かれた言葉だった。
自分の写真にタイトルをつけることもない彼女が、 はじめて写真に言葉を添えた。 儚く脆い命が輝く一瞬が、 決してそこで終わるのでなく次のはじまりへと繋がっていく……。
写真とひらがなで綴られたこの絵本は、 この地球 (ほし) に生きる命と死、 それを繋ぐ幼い人たちへ伝えたいことがしっかり詰まっている1冊だ。
川内倫子の写真は見て頭で理解するというより、 目の皮膚感覚が触って浸透してくる “何か” を待つ感じがする。 この展覧会も絵本もじわじわと染み込む “モノ” に満ちていた。
<関連情報>
□「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」
https://www.operacity.jp/ag/exh255/j/visitus.php
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー3F)
会期:2022年10月8日(土)~12月18日(日)
開館時間:11:00~19:00(入場は18:30まで)※11月3日(木)~6日(日)は「アートウィーク東京」の開催にあわせ10:00~19:00開館
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
□川内倫子 オフィシャル・ウェブサイト
http://rinkokawauchi.com
□写真集『AILA』
http://rinkokawauchi.com/publications/384/
□絵本『はじまりのひ』
http://rinkokawauchi.com/publications/805/