Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、 東京在住。 武蔵野美術大学卒業後、 女性誌編集者を経てその後編集長を務める。 現在は気になる建築やアート、 展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。
優れたアーティストはどんな少女時代を過ごしていたのかとても気になるところだ。
石岡瑛子展や最近ではマリー・クワント展、 ヤマザキマリ展でそれは垣間見ることができたが、 先日はじまった松任谷由実のデビュー50周年を記念する展覧会 「YUMING MUSEUM」 でも辿ることができる。
会場は眼下に東京を見下ろす六本木ヒルズ森タワー52階の 「東京シティビュー」。
グランドピアノから天井高く舞い上がる無数のユーミン手書きの楽譜や詞や覚書き……そこが入り口。
続く幼少期からのプライベートな写真、 今まで発表された全てのアルバム、 華やかな舞台の映像と衣装……。 1970年代から現時点まで、 さまざまな時代のいろいろな世代の記憶に刻印されてきた曲が蘇る展示だ。
この街六本木には彼女のデビューのきっかけになった伝説の店 「キャンティ」 がある。
後藤象二郎の孫・川添浩史と梶子夫妻が飯倉片町に1960年にオープンさせたイタリアン・レストランで、 作家、 画家、 俳優、 映画や音楽関係者、 ファッション・モデル、 カー・レーサーなどあらゆる才能が集まってくるサロンだった。 そこにふさわしいカッコいい大人になりたくて背伸びする若い子たちも吸い寄せられた。
中学生の頃から 「キャンティ」 に通っていたというユーミン神話は果たして本当なのだろうか。
深夜八王子の家を抜け出し中央線の上りの終電に飛び乗り四ツ谷へ、 そこから歩いて六本木の 「キャンティ」 へ。 そして原宿から始発で帰宅するというはなれ技をやってのけたという武勇伝は真実なのか?
八王子の実家に残されていた10代の荒井由美の部屋にあった絵画やデッサン文庫本などが並べられた部屋があり、 そこに “証拠物件” があった。
あたかもベッドに寝ているかのように見せかけるためのヘアウイッグと、 “12:00前にはおこさないで” という貼り紙! これだったのか!!
「キャンティ」 の常連の中にはアルファミュージックを設立したばかりの村井邦彦がいた。
ユーミンのデビュー・シングル 「返事はいらない」 (1972)、 ファースト・アルバム 「ひこうき雲」 (1973) はこのレーベルからリリースされた。 「ひこうき雲」 のレコーディングで演奏を担当したのは細野晴臣率いるキャラメルママで、 鈴木茂、 林立夫、 松任谷正隆の4人編成だった。
その3年後、 松任谷正隆と結婚した荒井由美は松任谷由美となって羽化したのだ。
そこからはじまったユーミンのサクセスストーリーは、 今発売中の 「ユーミン万歳!~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~」 まで続く。
今、 東京・丸の内周辺がユーミン50周年記念の飾り付けになっていると聞き出かけた。
丸ビルにあるクリスマスツリーは 「POP CLASSICO」(2013) の未来と過去を縦横に行き来するイメージのデコレーションだった。
70年代の洋装店風な 「ブティック・ルージュ」、 80年代の純喫茶をイメージした 「喫茶シュガータウン」 もある。
ツリーといえば、 開館の2013年から毎年恒例となっている 「KITTE」 のアトリウムに出現する十数メートルをゆうに超える巨大もみの木。 この美しいインスタレーション “WHITE KITTE” はいつも優雅だ。
今年の東京駅前には草間彌生とルイ・ヴィトンがコラボレーションしたスケートリンクが設置されていた。
銀座のティファニーにはアンディ・ウォーホルのネオンの鳥が飛び交う。
アーティストのクリスマスデコレーションといえばロンドン・メイフェアの老舗ホテル 「The Connaught」 の前に設置される恒例のツリーは一度見てみたいものの一つだ。
2015年のダミアン・ハーストの薬品や医療器具のオーナメントはいかにもハーストらしい。 そして2016年はアントニー・ゴームリー、 2017年はトレーシー・エミンという英国現代アートの精鋭を並べたラインナップはなかなかなセンスだ。
>>Damien Hirst(2015)
https://www.maybourne.com/siteassets/media-centre/press-releases/connaught/press-release-connaught-christmas-tree-2015.pdf
>>Antony Gormley(2016)
https://www.antonygormley.com/news/connaught-christmas-tree
>>Tracy Amin(2017)
http://jenikya.com/blog/2017/11/tracey-emin-designs-the-connau.html
https://www.maybourne.com/siteassets/media-centre/press-releases/connaught/jan-2018/the-connaught-christmas-tree-2017-designed-by-tracey-emin-cbe-press-release.pdf
銀座・松屋の中央ホールの7フロアを貫く吹き抜け空間は天井までの高さが約25m。 今年は青森ねぶたのクリスマスデコレーションが楽しげに浮かんでいる。
今まで見たデパートのクリスマスで印象に残るのは2010年 「新宿伊勢丹」 のクラウス・ハーパニエミによる 「Wonder Christmas」 で独特の物語と主人公の動植物が幻想的で魅力があった。
YouTube>>Ring Ring Wonder Christmas (All)
YouTube>>How To Make Wonder Christmas
YouTube>>Finding Wonder Christmas
物語のあるインスタレーションでは、 来年の2月まで 立川にある「GREEN SPRINGS」 に設置されているロンドンをベースに活躍するアーティストユニット Tsai & Yoshikawa のアート作品 「Daydream」 が素敵だ。
「GREEN SPRINGS」は水と緑豊かな中央広場を中心に多機能ホール、 ミュージアム、 ホテル、 ショップ、 レストラン、 オフィスなどが配置されている複合施設だ。 その中央広場に今、 不思議な植物のような大胆なオブジェがそこここに並び、 まるで桃源郷に遊ぶような気分になる。
このオブジェは電飾を多用せず、 作品を照らすことによって昼も夜も鮮やかな姿を見せる。 日中の太陽を浴びたビビッドカラーのオブジェは生き生きと躍動するようだ。それが 夜の闇に浮かび上がると幻想へと誘うミステリアスな佇まいへと変化する。 その両極のコントラストが今まで見たことのない斬新さだ。
これをプロデュースしたのは馬場雅人で、 2013年に「アークヒルズ」のアーク・カラヤン広場に全長約60メートル、 200人掛けのダイニングテーブルを出現させた人だ。 これもある意味アートのようだった。
コンサート・ホールのある広場にこのテーブルがあるだけで人が集ってきた。 そして夜になると明かりが灯り、 知らない同士にも暖かな会話が生まれる。 クリスマス商戦の為の商業的なデコレーションに終わらない、 人の心に明かりを灯すようなウインター・インスタレーションは街に新しい命を吹き込んでくれる。
<関連情報>
□YUMING MUSEUM(ユーミン・ミュージアム)
https://yumingmuseum.jp/
会場:東京シティビュー (東京都港区六本木 6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52 階)
会期:2022年12月8日(木)~2023年2月26日(日) ※会期中無休
開催時間:10:00~22:00(最終入館 21:00)
□GREEN SPRINGS
https://greensprings.jp/
2020 年 4 月にオープンした、ウェルビーイングをテーマとした複合施設。水と緑豊かな約 1 万㎡の中央広場を中心に、最上階にインフィニティプールを有するホテル、多摩地区最大規模約 2,500 席の多機能ホール、ショップ・レストラン、オフィスなどが配置されている。
□GREEN SPRINGS 2022 WINTER INSTALLATION「Daydream」
https://greensprings.jp/event/5267/
会場:GREEN SPRINGS 2階(東京都立川市緑町3-1)
会期:2022年11月26日(土)~2023年2月14日(火)