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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第75回:ヘザウィック・スタジオ展

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、 東京在住。 武蔵野美術大学卒業後、 女性誌編集者を経てその後編集長を務める。 現在は気になる建築やアート、 展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


へザウィックと聞いてピンとくる人は日本では少ないかもしれない。

2012年に開催されたロンドン・オリンピック開会式の花開く聖火台を覚えている人は多いと思う。
開会式では204カ国・地域の各チームを代表する子どもたちが銅製の花びらを一つずつ腕に抱えて入場し、 その花びらが同心円状のガス管にとりつけられた。
7人の聖火ランナーが花びらに点火すると、 それは中央に向けて立ち上がり大きな一つの聖火台となった。 スポーツによって世界が一つになるという精神をかたちにしてみせた美しい聖火台だった。 これをデザインしたのが英国のデザイナー トーマス・へザウィックだ。

>>YouTube:Olympic cauldron 2012

https://www.youtube.com/watch?v=h4W7PSEUxfo
https://www.youtube.com/watch?v=Ei54TO1VBlM
https://www.youtube.com/watch?v=-fuH6mM-c8w

トーマス・へザウィック
ヘザウィック・スタジオ 《ロンドン・オリンピック聖火台》  2012年 Ⓒ Pawel Kopcznski/Reuters

六本木ヒルズ森タワー52階の 「東京シティビュー」 で、 彼のスタジオが手がけた仕事を一堂に会した展覧会が開催されている。
さまざまな試作を並べたイントロダクション、 そして28のプロジェクトが6つのセクションに分けて構成展示されている。

トーマス・へザウィック
展示風景:「ヘザウィック・スタジオ展:共感する建築」 東京シティビュー(東京)、2023年 撮影:古川裕也 画像提供:森美術館(東京) ※連載タイトル上に掲載した写真も同様

彼の名をはじめて聞いたのは2004年頃で、 ロンドン北部パディントンにできた円形に曲がって開く運河橋 「ROLLING BRIDGE」。 この無名の若いデザイナーの仕事に驚愕した覚えがある。
その後しばらく名を聞くことはなかったが、 上海万博のニュースで見たなんとも不思議な立体の画像に目が釘付けになった。

>>YouTube:The UK pavilion SHANGHAI 2010EXPO
https://www.youtube.com/watch?v=kq_GVcApKDQ

これは英国パビリオンで展示された6万本の7.5mのアクリルの枝が突き出た建築で、 ロッドの内部に世界の植物の種子の25%を保存する 「ミレニアム・シード・バンク」 から提供された種子25万個が内臓されているという。
この建築は万博に出展した250のパビリオンを抑えて最高賞を受賞し、 この 「Seed Cathedoral (種の大聖堂) 」 でへザウィックの名が世界に知れ渡ることになった。

トーマス・へザウィック
この英国館は英国の資産を色々と紹介するのが目的ではなく、 英国が先駆してきた都市公園と庭園の伝統及び植物研究の遺産に焦点を当てたものだ。 国立植物園 「キュー・ガーデン」 の世界最大規模の植物保護プログラム=ミレニアム・シード・バンク・プロジェクトから協力を得て実現化した。 このプロジェクトは参加250パビリオンの上位5位以上にランクされることという要件があったという。
ヘザウィック・スタジオ 《上海万博英国館》 2010年 撮影:イワン・バーン
トーマス・へザウィック
セクション 1 展示風景。 中央の写真は、 アクリル棒の先端に内包された種子。 写真:筆者提供

その後注目を集めたのは先に述べたロンドン五輪の聖火台、 そしてロンドンのアイコンともいうべき2階建てバス=ダブルデッカーをニュータイプのルートマスターとしてデザインした時だろうか?

トーマス・へザウィック
ヘザウィック・スタジオ 《新ルートマスター(市バス)》  2012年 ロンドン 撮影:イワン・バーン
トーマス・へザウィック
実物大のロンドンバス=ルートマスター。 写真:筆者提供
トーマス・へザウィック
ヘザウィック・スタジオ 《ツァイツ・アフリカ現代美術館》 2017年  ケープタウン 撮影:イワン・バーン
トーマス・へザウィック
南アフリカ各地から集められたとうもろこしを保管していた巨大サイロ。 役目を終えた巨大公共施設をアフリカ初の現代アフリカン・アートに特化した美術館へと転換させたもの。 写真:筆者提供

展覧会場にはシンガポール、 上海、 ケープタウン、 これからできる麻布台などの大掛かりなプロジェクトも並ぶが、 一番興味を引いたのは2019年に訪れたことのあるロンドンのキングス・クロスにできた商業施設 「コール・ドロップス・ヤード」 だ。

19世紀中頃、 鉄道で石炭を運び込むためにつくられた煉瓦造りの倉庫を改修したもので、 うねるような屋根が2棟の石炭倉庫をつなげ独特のファサードを生み出している。

この会場で流されている2018年制作のフィルムを見てヘザウイック・スタジオがキング・スクロスを拠点にしてもう20年以上になることがわかった。
スタジオ・スタッフは依頼を受けて 「何が足りないのか? どんなものがここを特別にするのか? 何か身近なもの=心地よい居場所をつくりたいと住人として考えました。」 と語っていた。 ここのデザインの根幹は地元の住民という意識だとはじめて知った。

「有名無名のブランド、 地元のブランドも入って欲しいです。」 とも。
なるほど、 どの国のどの都市でもよく見られるラグジュアリー・ブランドがひしめく感じのショッピング・モールではなかった。
トム・ディクソンのスタジオとショップ レストラン、 ポール・スミス、 マーガレット・ハウエル、 COSなど “英国が産んだ” ブランドもあるが、 聞いたことがないユニークな店も多い。 レストランも多種多様だ。
運河に臨んだこの地域には、 アートの大学セントラル・セント・マーチンも移転してきている。
スタッフが 「ただ訪れるではなくロンドンの一部として満喫して欲しいです。」 と語るように観光地にありがちな空気が無く、 ロンドンらしい落ち着いたエリアだった。

トーマス・へザウィック
写真:筆者提供
トーマス・へザウィック
写真:筆者提供
トーマス・へザウィック
写真:筆者提供
トーマス・へザウィック
写真:筆者提供
トーマス・へザウィック
写真:筆者提供

最後のセクションでは家具などの展示があった。 まるで駒のように回転する椅子 「スパン」 ができるまでの詳細がわかる。
エピローグのスペースには彼が話したTEDでの講義のフィルムが流されている。 スパンがいくつも並べられていて、 椅子に座りながら観ることができる。 この椅子に座るのはコール・ドロップス・ヤードのテラス以来2度目だ。

トーマス・へザウィック
《スパン》2007年- Courtesy: Magis 写真:筆者提供

中国のプロジェクトが膨大な予算で進行しているのと対極にあるように、 英国のプロジェクトは規模が小さいように思える。
けれど魅力があるかどうかは別の話。

「ロンドンの歴史には感銘を受けます。 歴代の建造物と施された補修や改修がロンドンの歴史を語りこの都市を豊かにしているからです。
私自身過去をただ打ち砕くのは良くないと思います。 過去を消して再スタートするのは簡単です。
でも問題は過去を消しても何も生まれないことです。 歴史を活かしながら新しい息吹を吹き込めば現代的で生き生きとした場に蘇らせられると思います。」

そう語るヘザウイックの言葉が、 それを証明しているように感じた。

The Chocolate Cosmos
トーマス・ヘザウィック ロンドン 《コール・ドロップス・ヤード》 (2018年) にて 撮影:マーカス・ホーク

<関連情報>

□へザウィック・スタジオ展:共感する建築
https://www.mori.art.museum

会場:東京シティビュー
主催:森美術館 会期:2023年3月17日(金)~2023年6月4日(日) ※会期中無休
開館時間:10:00~22:00 ※最終入館21:00

□Heatherwick Studio
https://www.heatherwick.com


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2023/04/06

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