帆布と革を使った、カジュアルかつ上品な雰囲気を纏うバッグや小物類。
馬装品製作の経験を経て得た手仕事への尊敬の念を胸に、
自分たちの声に真摯に耳を傾けながらものづくりをする、或る夫婦の話。
写真:HAL KUZUYA 文・編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)
Profile
岡田学・恵子
1990年代から父親の元でものづくりを学び、手仕事の素晴らしさを実感した岡田学が独立し、パートナーの恵子とともに2008年に「SOUTHERN FIELD INDUSTRIES(サザン フィールド インダストリーズ)」を創業。充実した日々の暮らしに即した日用品のアイテムを少しづつコレクションしていきながら、新時代へのアップデート中。
HP:southernfieldindustries.com
Instagram:@southernfieldindustries
ものづくりをする父の背中を見て
今回は埼玉にあるご自宅兼工房にお邪魔しています。東京から1時間半ちょっと、のんびりとした気持ちのいい環境ですね。もともと埼玉のご出身だとお伺いしました。
- 岡田学さん(以下、敬称略):
- はい。2007年に鳩山町に居を移して、その翌年に「SOUTHERN FIELD INDUSTRIES」(※以下、サザンフィールド)を立ち上げました。今年で14年目になります。住まいとして使っている建物と工房が並んで建っていまして、一応仕事場と生活の場を分けているのですが、なんだかんだ自宅の2部屋くらいは仕事に使ってしまっています。
学さんはもともと、お父さまがやられていた馬装品制作のお仕事に携われていたそうですね。馬装品という言葉を聞いてもあまりピンとこないのですが、具体的にはどのようなものをつくっていたのでしょうか。
- 学:
- 主に競馬の競走馬のためもの、たとえばジョッキーが被るヘルメット用の帽子やレース用のゼッケン、それから馬の調教に使う装具などです。大学在学中から父の仕事を手伝いはじめたのですが、自分から“やりたい”と志願したのではなく、手伝いをさせられた、という感じだったんです(笑)。当時、父がとても忙しくしていて。
どんなことをお手伝いしていたんですか?
- 学:
- 革や帆布の裁断をしたり会社のホームページをつくったり、ミシンで縫う以外の色々な仕事を担当していました。そうこうするうちに卒業後の進路を考えるタイミングになって……。一応就職活動はしましたが、本当に“一応”という感じでした。
どういう職種を受けたんですか?
- 学:
- もう何でも、色々です。当時は「仕事なんて何でもいい」と思っていたところもありました。就職活動をしながら時々父の仕事を手伝う生活をしていたのですが、段々と「ここでこのまま働くのもいいなぁ」という気持ちになって……今に至ります。
この場所に越してきた2007年当時、学さんはおいくつでしたか?
- 学:
- 39歳、恵子と結婚をした翌年でした。ゆくゆくは父の仕事を継ごうと思って自宅の他に将来的にオフィスに使える別棟をつくったという経緯があるのですが、越してきて1年もしないうちに父が会社畳むことになったんです。
まさかの展開ですね。
- 学:
- とにかく目の前にあるものを使ってやれることからはじめようと。ブランド名は父の仕事場があった場所に由来しているんです。埼玉県富士見市の「南畑(なんばた)」という場所に工場があったので、"SOUTHERN FIELD INDUSTRIES(=南の畑の工業)" という名前に。
やはり馬に関係するものづくりを引き続きやっていこうと考えたのでしょうか。
- 学:
- そうですね。ただ、これからは同じ馬関係のものでも乗馬用の馬や馬主を相手に仕事をしようと考えました。というのも、自宅の近隣に乗馬クラブが10軒近くあることを知って。少しずつ営業活動をしながら、簡単な修理などを請け負うことからはじめました。
具体的にどのようなものをつくろうと考えていましたか?
- 学:
- たとえば馬着(馬の身体の保護や防寒のために厩舎で着せるもの)などを個人オーナー向けにオーダーメイドでつくることができるんじゃないかと思って営業をしたのですが、なかなか厳しかったですね。でも諦めず色々な提案をしているうちに「こういうものはつくれる?」と、少しずつ注文いただけるようになってきました。父の元で働いていた時と違って自分で思ったようにやれる楽しさはありましたけど、最初の2~3年は鳴かず飛ばずでしたね。
お父さまから何かアドバイスなどはありましたか?
- 学:
- もちろん応援してくれましたけど、同時に心配もしていました。当時は、まだ看護師の仕事をしていた妻の恵子に食べさせてもらっているような状態でしたから。でも段々と乗馬関連の協会団体の方々と仲良くなって「競技会に物販のテントを出して欲しい」といったお声かけいただくようになって……。
その時はどんなものを販売していたのでしょうか。
- 学:
- オーダーメイドの馬着とか、ブーツを入れるバッグや日常で使えるトートバッグなどを中心に。蓋を開けてみたら乗馬用品以外のものも結構反応が良かったこともあって、「お客さんを馬主や乗馬をやっている人に限定しなくてもいいんじゃないかな?」と考えるようになりました。
お客さんの層を広げたということですね。それはつまり、商品のラインナップもより日常に近いものになっていったということでしょうか。
- 学:
- そうですね。それからしばらくして、つくったものをオンラインで販売するようになりました。
量産事業と個人事業の間にあるもの
今でこそ、個人でものづくりをしている人がオンラインショップを持つ仕組みが充実していますけど、10年以上前の当時は今とはかなり状況が違ったのではないでしょうか?
- 学:
- そうですね。一応自分たちのホームページは持っていたんですけど、知名度もないしホームページ経由で商品を販売するのは得策ではないだろうと思いました。色々考えて、当時自分自身もよく見ていたアメリカのハンドメイドサイト「Etsy(エッツィ)」に半ば遊び半分で出品してみることにしたんです。
反応はどうでしたか?
- 学:
- 嬉しいことに、結構反応が良かったんです。うちの商品は価格設定も高めなのですが……売れましたね。
いきなり世界のマーケットが舞台になったわけですね。
- 学:
- 個人でお店を持っている人やバイヤーもチェックしていたようで、たまたまそういう方の目に留まったことをきっかけに海外のセレクトショップと取引がはじまったこともありました。当時のSNSはブログが主流だったのですが、人気ブロガーが取り上げてくれたことをきっかけにお客さんが増えたり……。パリやニューヨークで開催されているトレードショー「MAN / WOMAN SHOW」に、まだ出展者が20にも満たなかった頃に出展させてもらっていた時期もありました。
海外での評価が先だったんですね。
- 学:
- そういうことになるのでしょうか。馬関連の商品を完全にやめてバッグだけにしようと決めたのが2011年くらいで、その後2013年にはじめての展示会をNYで行いました。海外の目利きと繋がったことで、ものづくりに関するノウハウを色々と学ばせて頂いた気がします。
2014年に東京でトレードショー「MAN / WOMAN SHOW」が開催されたことをきっかけに、逆輸入のようなかたちで日本国内でもお二人のものづくりが知られるようになりました。CLASKA Gallery & Shop "DO" ディレクター 大熊健郎がお二人のバッグに出会ったのも、ちょうどその頃でしたね。語弊を恐れずに言えば、サザンフィールドのバッグは「こんなデザインはじめて見た!」というタイプのものではないと思うんです。帆布と革という素材も私たちの生活の中でとても馴染みのあるものですよね。海外で評価されたのは、どのような理由だったと思いますか?
- 学:
- 海外、特に北米では「Handmade(ハンドメイド)」というものに対する理解の土壌があるからだと思います。「ハンドメイドの品」という言葉を聞いて、どんなものを想像しますか?
洋裁や料理が得意な人が個人の趣味でつくったもの……でしょうか。もちろん粗悪なものではないけれど、高級品というよりはカジュアルな印象が強いです。
- 学:
- きっと多くの日本人がそういう印象を持っているのではないかと思います。あまり“プロフェッショナル”という言葉と結びつかない感じがありますよね?
そうですね。
- 学:
- 僕たちが出品していた当時のEtsyはアメリカ国内だけではなくさまざまな国からの出品者がいて、プロ顔負けのクオリティのものも既に多くありました。売り手はもちろん買い手もハンドメイドに対する理解があるからこそ、ひとつのマーケットとして成立していた気がします。Etsyという舞台だったからこそ僕たちの商品が評価された部分もあるのかもしれません。
“ハンドメイド”である、というのはサザンフィールドの商品の大きな特徴であり個性だと思うのですが、ブランド立ち上げ当初はどのようなものづくりを目標としていましたか?
- 学:
- 量産事業と個人事業の間にあるもの。ハンドメイドの空気を纏いつつきちんと量産できていて、仕事として成立するものをつくりたい。それをずっと目標にしてやっています。
それは結構ハードルが高そうですね。
- 学:
- はい、とても難しいことだと思います。見栄えやクオリティーを大事にしつつ商品として成立しなくちゃいけないし、値段や商品管理、お客さんとのやり取りについても考えなきゃいけない。ものづくりに関わるすべての工程をひっくるめて“ハンドメイド”と呼びたい感じはありますね。
バランス、大事ですね。
- 学:
- ですね。お金と時間をかければいいものができるのかというと、必ずしもそういうわけでもない。値付けもとても大事な作業で、出来上がるまでの過程で発生した労力と結果に見合った値段設定がきちんと出来ているかどうか……今でも頭を悩ませます。
以前この連載でインタビューをさせていただいた編集者の安藤夏樹さんがおっしゃっていたのですが、新品つまり新しい物の値段は材料費や人件費などを“足していく”形式で決まっていくけれど、一回でも誰かに使われた瞬間、それ以降は本来持つポテンシャルで価値が決まっていくんだ、と。
- 学:
- なるほど。
中古になったことで価値がゼロになってしまうものもあれば、誰かが使って味が出ることで価値が上がることもある。“新品である”という一番の強みがなくなった後にも評価されるものをつくりたい、というお話をされていました。
- 学:
- 僕たちがつくっているようなもののジャンルで誰かの手に渡った後に価値が上がるというのは相当ハードルが高いことだと思いますが、「できるだけ長く使ってもらえるものを」という思いはありますね。
機能性よりも佇まいを大切に
ここからは、奥さまの恵子さんにもお話に加わって頂きます。改めてサザンフィールドの製品ラインアップなどについてお伺いしたいのですが、馬関連の商品の制作をやめたあと、はじめてつくった商品は何でしたか?
- 学:
- 今はもうつくっていないかたちなのですが、トートバッグですね。
- 岡田恵子さん(※以下、敬称略):
- あとは、カードケースと財布かな?
- 学:
- そうだね。
帆布ってカジュアルな印象が強い素材で、いわゆる「Heavy duty」的な世界観が色濃くなっても不思議ではないと思うのですが、サザンフィールドのバッグはどこかエレガントですよね。気負わず毎日使える親しみやすさがありつつも、背筋が伸びるような上品さも備えている印象があります。お二人の人柄が反映されているのかな? と思ったりするのですがいかがでしょう。
- 恵子:
- どうなんでしょう(笑)。
- 学:
- うち以外にもバッグをつくっているブランドは色々ありますし、俯瞰して日本の色んなプロダクトを見てみると共通してどこか“清潔感”のようなものを感じるんですよね。エレガントと清潔感はイコールじゃないかもしれないけど、もしかしたら日本人に共通するテイストなのかもしれないなと思ったりします。
なるほど。そんな中で、自分たちのブランドにしかない個性とか特徴ってどういう部分だと思われますか?
- 学:
- うーん。なんかある?
- 恵子:
- そうですね……。どうだろう(笑)。
- 学:
- そこはですね、僕たちもいまいち分析できていないんですよ。
エレガントさもそうですけど、サザンフィールドのものって、MADE IN JAPANでありながら、なんとなく外国の香りもしますよね。
- 学:
- そうですか? 僕自身が外国カルチャーに触れて育ってきているからかな?
学さんが10代の頃、どんなものが好きでしたか? アメリカをはじめたとした「外国のもの」に憧れた世代なのかなと思うのですが。
- 学:
- まさにそうですね。デニムが大好きで、19、20歳ぐらいの頃は毎週原宿や渋谷の古着屋さんに出かけていました。あとは……少し話は逸れますけど、こういう仕事しているからっていうのもあるんですけど、日々国内外問わずたくさんのプロダクトをよく見ます。
そうなんですね。さまざまなブランドの商品に反映されているであろう、“今の気分”とか“トレンド”といったものは意識されますか?
- 学:
- トレンドは知らないよりも知っている方が良いと思うので一応チェックしているつもりではありますけど、色やかたちよりもサイズ感やバランスが参考になるかな。縦横のサイズだけじゃなくて、奥行きや持ち手がついている位置や長さ、太さ……。ちょっとした差で武骨に見えたり繊細に見えたり。面白いですよね。
デザインを考える時、持つ人が着る洋服やキャラクターについては考えますか? バッグって、基本的に洋服とセットになるものじゃないですか。
- 学:
- 本当はそこも考えなきゃいけないと思うんですけど、僕たちの場合はあんまり考えないです。一つひとつの商品を独立して考えることもありますし、自分たちの製品を見ながら「こういうものがあるから、今度はこういうものをつくろう」という具合に全体のバランスを見ながら考えることもあります。コレクションが並んだ時に全体的にこういう色目でこういう印象にできたらいいなって想像したり。
長くつくっている定番品も多いですが、新しいデザインが生まれる時は、通常どのような流れで進んでいくのでしょうか。
- 学:
- 「こういうものがあったらいいんじゃないか」という思いつきからはじまって、二人でアイデアを出し合って……。咄嗟の思いつきでどんどん進む場合もあれば、何年かけてもうまくいかないものもあったりします。先ほども少し触れましたが、バッグってちょっとしたことで佇まいが変わってくるんですね。持ち手に関していえば手に下げるものか、肩にかけるのか、斜め掛けにするのか? 機能面なども含めて少しずつ詰めながらデザインを固めていきます。
機能面ということでいうと、2wayとか3wayといった高機能なバッグが世の中ではごく一般的になっていますが、お二人がつくるものにはそういった類のものはあまりないですよね。それはなぜでしょう?
- 学:
- なるべく多くの人に届けたい、という思いから2wayとか3wayという考え方が出てくると思うのですが、やっぱり僕としてはバッグには“それぞれの役割”があると思いたいですね。ショルダーバッグはあくまでショルダーバッグであって、手持ちのバッグは手持ちのバッグとして存在して欲しい。
役割を全うして欲しい?
- 学:
- そう思いますね。といいつつ、うちの商品にも複数の持ち方を提案しているものはあるのですが(笑)。便利であるのも大事ですし、そこにプラスしてバッグの佇まいを大切にできたらと考えています。
そういう考え方は、サザンフィールらしさ、と言えるのかもしれませんね。
- 学:
- たとえばうちの財布って、紙幣・コイン・カードがすべて収納できるオールインワインのものが無いんですよ。それぞれに役割を与えています。
財布も、世の中のキャッシュレス化を受けていつか存在そのものが必要なくなるんじゃないかなんていう声もあったりしますよね。時代が変わるにつれて社会で必要とされる“もの”は変わって行くんだろうなと思うのですが、ものづくりをする上で社会との接点というか「ものと社会の関係性」について意識することはありますか?
- 学:
- “もの”を世の中に生み出すという行為は社会との繋がりが避けられないし、売り手も買い手も“もの”に対する責任は正しく果たさないといけない世の中になりましたよね。社会性というほど大げさなことではないかもしれませんが、つくるからには無駄にならないようなものにはしなきゃという思いはありますね。お客さんの手に渡った後の面倒見の良さも大事にしたいです。
帆布で、何がどこまでできる?
もう少しデザインについての話をお伺い出来たらと思うのですが、2年程前の或るインタビューで「新作をつくるよりも、既にある商品を見つめ直すことにエネルギーを注いでいる」ということをおっしゃっていました。その思いは今でも変わりませんか?
- 学:
- 見つめ直す作業はとても大事にしていて、出来上がったものをその時で終わりにするのではなくて、良くしていくための作業は止めちゃいけないと感じています。こうしてみたいとかああしてみたいっていう僕たち二人の思いを素直に反映させて、それぞれの商品にある程度伸びしろがあっても良いのかな、と。普遍的なものが完成すれば、それはそれで素晴らしいことですが。
デザインを改良する頻度は結構高いのでしょうか。
- 学:
- 高いかもしれませんね。見た目や使い勝手が理由で改良することもありますし、使っていた材料が無くなったことがきっかけになることもあるし、作業効率を考えて改良することもありますし。……デザイン繋がりでいうと、先ほど言った「ものとしての役割はシンプルにしたい」ということと少し矛盾するようですが、うちの商品って帆布素材のバッグにしてはコテコテしたデザインのものもあると感じるんです。
というと?
- 学:
- たとえば、ナイロン素材のバッグで機能性を前面に出したものだと、ポケットの中にポケットがあってさらにジッパーがついていて……というものもあるじゃないですか。でも帆布の場合はナイロンに比べると小回りが利かない素材なので、そういうデザインは技術的に難しい。それもあって、世の中に出回っている帆布のバッグって結構シンプルなものが多いんですね。
たしかにそうかもしれませんね。たとえば、LL.beanのトートバッグとか。
- 学:
- そういうものに比べると、うちの商品は機能的な要素が多いなって思います。でもまぁ、基本はシンプルにつくっているつもりです。バッグって、丈夫でありたいじゃないですか。やはりシンプルにつくられているものって丈夫ですからね。
シンプルな方が壊れにくい、トラブルを起こしにくいというのは、バッグに限らずいろんなジャンルのものに共通している気がしますね。
- 学:
- ですよね。色々と機能がついているものや利便性の高さを意識してデザインされたものは、それはそれで面白かったりしますけど、一方ですぐ壊れちゃったというのもよくある話で。でも、ものをつくる時はある程度チャレンジャーでありたいし、無難なものづくりは避けたいと思っています。「これであれば間違いない」というセイフティーなデザインは面白みに欠ける気もしますし。かといって突飛なものが出来上がってもいけないんですが……。
そこの匙加減、難しいですね。改めて、バッグって奥深いなぁと思います。今お話しされたようなこともそうですが、ものづくりをされる中で、悩んだり迷ったりすることって他にありますか?
- 学:
- そりゃありますよ。僕たちがつくるものは一点ものの作品ではないし、趣味でつくっているものでもないし、きちんと量産してプロダクトとして成立するものなのか……? 頭を悩ませますよ。せっかくいいものをつくっても、量産ができなかったり、コスト面で断念せざるを得ないこととかは結構ありますね。
なるほど。
- 学:
- 妥協するのではなく、決して扱いやすいものではない帆布という生地と革を使って、何かできて何ができないのか……。そこを日々テストしている感覚です。僕らが使っている素材でできることってそう多くはないので、限られた条件の中で多くのことを探す作業でもあります。
そのテストはこれからも続いていきそうですか?
- 学:
- これからも同じ課題にぶつかると思うんですけど、それはそれで楽しみでもあり悩ましくもあり、という感じです。チャレンジ精神がないと前に進めないですからね。定番品だって少しずつその時代に合ったものに変えていかなきゃいけないから、或る意味完成しないですよね。ずっとアップデートし続けています。
家族でものづくりをするということ
ブランドを立ち上げて今年で14年目。これまでを振り返って、ターニングポイントだったなと思うことは何かありますか?
- 学:
- 乗馬関係のものをつくることをやめようと決めたこともそうだし、恵子が看護師の仕事を辞めてこっちに専念してくれるようになったこともそうだし。まだ他にもある気がしますけど……。
恵子さんは、いつから本格的に合流されたのでしょうか。
- 恵子:
- 7年前ですね。
- 学:
- やっぱり恵子がこっちに専念してくれたことが一番の転機というか、色々なことがいい方向に進みはじめた瞬間だった気がしますね。でもまぁ……もしかしたらまだ折り返し地点にもたどり着いていないというか、この先まだまだ色んなことありそうな気もしますが(笑)。
恵子さんは、看護師という全く違うジャンルの仕事から転職をされたわけですが、7年間やってきていかがですか?
- 恵子:
- そうですね……。最初は手伝いのようなかたちではじめましたが、やはり時間を重ねるうちに、「こういうものがいいんじゃないか、こうした方がいいんじゃないか」という自分自身のはっきりとした意見も出てくるわけです。自分の声やアイデアを商品に取り入れてもらいたいという気持ちが強くなってきて、私はそれを一生懸命彼にアピールするわけですけど、彼の中には彼の考えがあるじゃないですか。だから……。
- 学:
- それがまた喧嘩の種になるんです。「いつもあなたが決めるじゃない」ってね(笑)。まぁ、いつかは誰かが決めなきゃいけないからね。
- 恵子:
- いや、そうですけどねえ(苦笑)。
お二人は仕事のパートナーでもありご夫婦でもあるわけですから、24時間一緒なわけですよね。こうやってお話を伺っているととても穏やかな雰囲気が漂っているのですが、やはり意見がぶつかり合うこともあるんですね。
- 学:
- それはもちろん。意見が合わないときは衝突しますが、大体はお互い似たようなところで折り合いを付けて、それをお互い気に入るということが多いんですね。でも時にはどうしてもどちらかが納得できないこともあって、その時は酷いぶつかり合いですよ。
想像ができないのですが……。
- 恵子:
- やっぱり夫婦だから、っていうのはあると思いますよ。お互い譲れないからどんどんヒートアップしちゃって。一緒に仕事するようになって、夫婦喧嘩は増えましたよね(笑)。
- 学:
- 夫婦だとか兄弟とか家族でものづくりをするのって、いいと思うんですよね。他人同士のチームで、遠慮したり妙なところで妥協しながらものづくりをする、というのはまた別の苦労がある気がします。僕らは常に本音で話し合っているから、比較的スピーディーに物事を決めて実行できている方なんじゃないかなと思いますね。
日常的に仕事の話はしますか?
- 学:
- ほとんど仕事の話をしている気がするね(笑)。考えてない時ももしかしたらあるかもしれないけど、気付いたら考えている感じ。
では、ブランドとしての転機になった商品はありますか? あるいは、サザンフィールドの代表作といえるものだったり。
- 学:
- 「SHOPPER 380」かな。10年以上少しずつかたちを変えながらつくっていて、今でも一番よく売れるんですよ。
- 恵子:
- 私的には「SHOULDER BAG SMALL」でしょうか。うちの商品は基本的にユニセックスなんですけど、はじめて女性用としてつくったバッグです。ずっと「小さいバッグがつくりたい」と思っていてようやく実現したこともあり、思い入れがある商品ですね。
- 学:
- 「SHOULDER BAG SMALL」は、サザンフィールド初のオールレザーバッグでもあります。恵子の発案で今ではすっかり定番品として定着しましたが、完成するまでは結構大変でしたね。小さくコロンとしたかたちに仕上げるのに、結構試行錯誤して時間がかかりました。
このバッグの素晴らしいところは、使い込んでも底のかっちり具合がキープされるところだと思います。これは何か芯を入れているんですか?
- 学:
- いえ、入れてないんですよ。革の加工の手順を増やしてはいますが。
そうなんですね。革のバッグって使ううちに馴染んでくるのはいいんだけど、久しぶりに客観的に眺めると「あれ、これって馴染んでいるというか、ヨレヨレしてる?」ということがあるじゃないですか。
- 学:
- ありますよね。「これは“味”なのか否か」問題(笑)。そもそも僕らが使っているヌメ革って最初は硬くコシがあって、人の手に触れて使われることで柔らかくなっていくのが特徴のひとつなので、使い方によって“ヨレる感じ”になる程度も変わります。このバッグは、最初の頃につくったものと今のものとでは完成度とクオリティが違って、ヨレがおきづらくなっています。コツコツと少しずつ改良をしていった結果ですね。
インターネット時代のものづくり
ものをつくる立場として「これだけは守ろう」と決めていることはありますか?
- 学:
- まずお客さん第一、ということですね。買ってくださるお客さんをがっかりさせないようなものづくりをすること、これを一番大事にしています。店舗で実際に手に取って買ってくださる方もいれば、オンラインで買ってくださる方もいます。お客さんの手元に届いた時、その方がどう思うかな? ということはよく想像しますね。その方が本当に求めていたものだったらいいなって。
オンラインショップという場を通じて学んだことも多そうですね。
- 学:
- 本当にインターネットさまさまですよ。はじめた頃は既にインターネットで物を買うことは一般的になっていましたが、現在のようにスマホで買い物をするようになるとは思いませんでした。Instagramなど自分の作品をPRできる場もいろいろあるし、ものをつくる人にとってすごくいい世の中だと思います。
オンラインで購入してくださるお客さんとのやり取りがきっかけで、商品の改良を検討されたりすることもあるんですか?
- 学:
- 時々ありますね。革の手触りが気になるとか、革の持ち手の長さが気になるとか……。僕らは全然気にしなくても、結構気になる人が多いんだなと思えば改良します。
- 恵子:
- 「もうちょっと短く持ちたいからベルトの穴を増やしてほしい」とか。なるほどね! って思います。
- 学:
- でも、基本的につくったものが100人中100人にヒットするということはありえないわけです。だからお客さんの意見に耳を傾けつつも、「僕らがつくりたいものはどういうものか?」という問いかけを大切にしてものづくりをしていきたいと思います。誰かに言われてつくるのではなく教科書に沿ってつくるのでもなく、自分たちの感覚を大切に。
オンラインショップの方が実店舗よりもお客さんの声がダイレクトに届きやすい側面があると思います。様々な声や意見をどのように取り入れて商品づくりに繋げていくかということも、これからの時代におけるものづくりのキーワードになっていきそうですね。
- 学:
- お客さんからの声もそうですし、より良い商品をつくるためにいつもクリエイティブでいなくてはならないと思っています。インターネットが発展したことで、本当に色々なもの・ことを知ることができるようになりました。ものづくりをしていて技術的な壁にぶつかったりすれば、乗り越えるためのモチベーションになりますし、世の中に存在する色々な“良いもの”を見て刺激を受けて、「僕らもいいものをつくろう」と奮い立たせられるところがあります。
- 恵子:
- よくオンラインのお客さんから「一目ぼれでした」というコメントを頂くんです。「こういう風に使っていますよ」と写真を送ってくれる人もいたりね。
素敵ですね。
- 学:
- 古くなったものの修理を依頼してくれたりね。どんな声もすごく嬉しいです。つくづく、買ってくれるっていうのは凄いことだと思いますよ。本当は「欲しい」って言ってくれる人にプレゼントしたいぐらいなんですけどね。でもそうわけにはいかないので一応値段付けてますけど(笑)。だから……これからも買ってくれたお客さんをがっかりさせないようなものづくりをしていきたいと思います。
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