Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。
青山には、
今日、 一番に目指す先は 「青山タワービル」 。
青山通りに面した、 言わずと知れた吉村順三設計の16階建てのビルだ。
一階はピロティになっていて4本の柱が支えている。 アルミのスパンドレルを見上げると切妻のような傾斜になっている最上階が独特だ。
昔は1階に 「青山タワーホール」 というコンサートホールがあったはずだが、 今はどうなっているのだろう。
こちらは竣工当時から賃貸のオフィスビルなので、 入ったことがなかった。
ビルの9階に 「GALLERY CLASKA」 が目黒から移転し9月23日にオープンしたので、 はじめて上階に登ってみた。
「Hotel CLASKA」 閉館後に目黒駅前に移転した一昨年と同じく、 「
小屋 = HUT をテーマにした立体を二次元で表現した FLAT WORKS の新作が並ぶ。
気がついたらずっとそこにあるもの。
海沿いや畑、 街の風景の中に、 トタンでできた様々な小屋が建っています。
波型のトタン板を重ねて包むようにできたかたち、 太陽の光や潮風で褪せた色。
観察する中でみつけたことをひとつひとつ作品にしたいと考えています。
——古賀充
写真で見た時にはトタンの
それは展覧会場で見て驚愕してもらいたいのでここでは書かない。
青山タワービル近くに8月末にできたという 「新建築書店|POST Architecture Books」 は、 金・土・日のみオープンする店だ。
ここは建築専門出版社 「新建築社」 とアートブック専門書店 「POST」 の中島佑介がタッグを組んだ書店で、 選書と運営をまかされた中島がそれを進める上で建築家と本との関係を読み解く連載を 『新建築』 誌上で2022年の5月号からスタートした。
第1回は青木淳、 第2回は乾久美子、 第3回は長谷川豪、 そして第4回は内藤廣だ。
2階のギャラリーでは中島が取材したその連載の 「建築家のライブラリー|The Architect’s Library」 展を開催中で、 青木淳、 乾久美子、 長谷川豪、 内藤廣ら4名の建築家が選んだ書物が展示されていて購入も可能だという。
その上、 新建築社がアーカイブしている貴重な雑誌も閲覧することもできる贅沢さだ。
先の連載の冒頭で中島は 「特定のバイヤーがセレクトした本が並んでいるというよりも、 建築に携わる方々から伺ったお話などを積み重ねていくことで、 総合的に形成されていく架空の人格が選んだ本が並んでいるような書店を目指しています」 と語っていた。 1階の書店の本はそうやって選ばれたものなのだろう。
ここでは建築とアートを俯瞰し、 「構造」 「空間」 「モノグラフ」 「プロダクト」 などのカテゴライズで選ばれた書籍が並んでいる。 異なる価値が架橋され、隣り合わせの本は認識の新たなつながりを示唆しているように感じる。
そこから青山通り沿いを表参道方向に向かう。
以前紹介した 「SKWAT」 に立ち寄ったら、 その地階でスイスの家具メーカー 「Vitra」 と SKWAT によるパブリックスペース 「P」 という期間限定の空間ができていた。
「P」 はPublic (公共) 、 Place (場) 、 Practice (実践) ……Prouvé (ジャン・プルーヴェ) の頭文字で、 会場に配置されているVitraによって再生産されているジャン・プルーヴェの家具を誰でも自由に使用できるという。
次はコロナ禍の最中の2020年にオープンしたピカソのセラミック作品を集めた 「ヨックモックミュージアム」 へ。
ピカソは第二次大戦後南仏で暮らし、 その地にある中世からの窯が残されているアトリエで作陶に熱中した。
ヨックモック現会長である藤縄利康氏は、その作品に魅せられ30年にわたって約500点以上をヨックモック・コレクションとして精選し、美術館を設立して公開することにしたのだという。 今回が2回目の企画展だ。
地下の仄暗い展示室では様々な作品が展示されているが、 カンヌに近いヴァローリスの 「マドゥラ工房」 でセラミック作品を制作するピカソのフィルムも流されていて、 彼がどのようにしてこれらをつくったかがわかる。 ロクロで成形されたばかりの柔らかい花瓶のような筒はピカソの手でグニャリと曲げられ、 瞬く間に 「鳩」 へと変身を遂げる。
Youtube>>Pablo Picasso creating process
上階では工房の職人の話や、 地中海世界に魅せられたピカソの創作が語られるドキュメンタリーが流されていた。
外光の入る明るい2階の常設展示の54点の皿はマドゥラ工房の職人とピカソが協働することで創出されたエディションだ。 丸い皿に描かれた顔、 これを最初に見たのは箱根の 「彫刻の森美術館」 の 「ピカソ館」 が開館した時だった気がする。
ここは、 カフェもライブラリーも併設されていて、 落ち着いた豊かな時間が過ごせる空間だ。
デヴィッド・ダグラス・ダンカンの名著 『Goodbye Picasso』 や 『ピカソとジャクリーヌ』 も、 もちろんあった。
そこから骨董通りに出ると英国の老舗の名品を揃える 「ヴァルカナイズ・ロンドン」 の前に、 フィッシュ&チップスの 「MALINS」 のワゴン車が停まっているのが見えた。 金曜日だけの出店らしい。
英国の 「Nathional federation of fishi friers」 (フィッシュ & チップス連盟とでもいうのだろうか?) のメンバーシップ証明書が飾られていた。 そんなものがあるのか。 テイクアウトのみなので持ち帰ることにした。 食べやすい大きさになっていて英国で食べたイメージとはちょっと違う。
記憶に残るフィッシュ&チップスは、 プレートからはみ出しそうな大きさでポテトも山盛り、 デレク・ジャーマンが “Simply the finest fish and chips in all England” と絶賛したダンジェネスの 「The Pilot inn」 のものだ。
涼しくなったので帰り道は歩くことにした。
古賀充が表現して気づかせてくれたトタンの魅力。
錆びたり曲がったり凹んだりしたトタンで覆われた古い家屋が、 裏道には意外に残っているものだ。
金曜日の青山にはちょっと隠れたところに人を惹きつける出会いがたくさんある。
<関連情報>
□古賀充展 FLAT SCAPE
https://www.claska.com/gallery/mitsuru-koga-flat-scape/
会場:GALLERY CLASKA(東京都港区南青山2-24-15 青山タワービル9F)
会期:2022年9月23日(金・祝)~10月16日(日)
開館時間:水曜~日曜 12:00~17:00
休館日:月曜・火曜
□新建築書店|POST Architecture Books
https://post-architecture-books.com
住所:東京都港区南青山2-19-14 「新建築 青山ハウス」1F・2F
営業時間:金曜・土曜・日曜 11:00~19:00
□VITRA×SKWAT「P」
https://store.vitra.co.jp
住所:東京都港区南青山5-3-2 B1F
会期:2022年9月17日(土)~10月29日(土)
営業時間:12:00~19:00
定休日:日曜・月曜 ※10/20は臨時休業
□SKWAT
https://www.skwat.site/AOYAMA
□ヨックモックミュージアム
https://yokumokumuseum.com
住所:東京都港区南青山6-15-1
次回展示は「ピカソのセラミックーモダンに触れる」展
会期:2022年10月25日~2023年9月24日
開館時間:10:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日・年末年始 2021年12月27日(月)~2022年1月3日(月)・展示替期間
□MALINS
http://www.malins.jp
https://vulcanize.jp/media/the-playhouse/fishandchips-malins/
□The Pilot Inn
https://www.facebook.com/pilotdungeness/