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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第82回:空想の建築と初台の不思議なカフェ

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、 東京在住。 武蔵野美術大学卒業後、 女性誌編集者を経てその後編集長を務める。 現在は気になる建築やアート、 展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


球形のアクアリウムの中には巨大な水草と魚の群れが漂っていて、 その真上には熱帯植物が生い茂る四角錐の温室が鎮座している。
これは 「来たるべき場所」 というタイトルの絵だ。

野又穣
Forthcoming Place-5 来たるべき場所 5
野又穣
Forthcoming Place-5 来たるべき場所 5 (1996) の部分 写真:筆者提供

巨大な球形のグラスハウスは、 地球でいえば南半球にあたる部分は水で満たされていて、 ここでも魚が泳いでいる。 北半球部分は島のような土地に根をはる樹木が枝を広げる。
どちらの絵も何を意味しているのかを想像するのが楽しくなる。

野又穣
Alternative Sights-2 2010 アクリル絵具、キャンバス 120.3 × 162.1 cm 作家蔵 Photo:小暮徹
野又穣
Alternative Sights-2  の部分 水と空気の境界、水面下の世界に魅了されてしまう。 写真:筆者提供

風を孕む帆や気球、 巨大な風車が組み込まれた不思議な塔、 時代も文明も地域も定かではない構造物の数々。

野又穣
展示風景 写真:筆者提供
野又穣
内なる眺め 21 2001 アクリル絵具、キャンバス 194.2 × 112.1 cm 東京オペラシティ アートギャラリー蔵 Photo:髙橋健治
野又穣
展示風景 写真:筆者提供
野又穣
視線の変遷 22 (2004) 写真:筆者提供
野又穣
展示風景 写真:筆者提供

このような空想の建築を描く画家が野又穫だ。

野又穣
Voyage-1(2005) 写真:筆者提供

彼の作品を目にしたのは1980年代の終わり頃で、 最初に買った彼の画集 『NOMATA STANDING STILL』 は1991年刊だから、 もう30年以上前のものだ。
百貨店の画廊や 「東京オペラシティアートギャラリー」 での展覧会で度々見てきたが、 絵の中の空間はいつも静謐な謎で満たされていて、 常に見る者を果てしない想像の世界に誘う。

野又の描いた非現実の構造物が数十年後に現実のものとなって出現したのかと思うような、 不思議な感覚に囚われたことが2度ある。
1度目は、 2009年に日比谷でオランダのキネティック・アーティスト・テオ・ヤンセンの風力で自立歩行するストランドビーストを目の当たりにした時。

>>Theo Jansen strandbeest
https://www.youtube.com/watch?v=R4gPy2yfwMk

2度目は、 2011年に建築家・ペーター・ズントーと芸術家・ルイーズ・ブルジョワによって計画されノルウエーの最果ての地ヴァードーの海岸に建設された 「 Steilneset Memorial(1621年の魔女裁判で処刑された91名の犠牲者を記憶するための建築)」 の紹介記事の写真を見た時。

野又の空想がついに現実を侵食しはじめたのかと思った。

東京オペラシティアートギャラリーで今、 開催されている 「野又穫 Continuum 想像の語彙」 展は寺田小太郎氏がギャラリーに寄贈した野又作品40点あまりのコレクションを核としている。
寺田氏は80年代から野又作品の収集をはじめ、 最後のコレクションは2005年作の 「バベル」 だったという。

野又穣
Babel 2005 都市の肖像 2005 アクリル絵具、キャンバス 226.5 × 162.0 cm 東京オペラシティ アートギャラリー蔵 Photo:髙橋健治

バベルは人類が天にも届くような高い塔を建設しようとしたが、 神の怒りによって崩壊を遂げたという旧約聖書の 「創世記」 に記された建造物だ。
ブリューゲルもこの建築を作品に残したが、 野又は文明への過信がもたらした地球環境を破壊する象徴のように描き、 21世紀のビルを思わせる外観にしている。

太古の昔だけでなく、 いまだに人類は超高層ビルを建てて、 愚かにもその高さを競っている。
「バベル」 は野又作品にはめずらしく人間の虚栄と傲慢が招く未来を思わせる絵だ。

野又穣
写真:筆者提供

渋谷やオペラシティを取り巻く新宿の近代ビル群を思わせる作品もあった。

さて、 現実の街はどうだろう。

オペラシティに隣接する初台駅近くの商店街は、 モダンな超高層ビルとはほど遠い小さな建物ばかりが目立つ。
ねじり飴のような床屋のサインポールのある古いビルの2階に独特なカフェを見つけた。 「本の読める店 fuzkue」 フヅクエ=文机という意味らしい。
まず、 このカフェ内での取り決めなどが記されている小冊子を渡される。
ここは図書館のように会話は厳禁、 アンビエントな音が流れているだけで店内はとても静かだ。
置かれている本を読むも良し、 持参の本を開いてもいい。
席料のようなシステムで何時間過ごすかを自分で決めるようだ。
‟今話題の” とか ‟最先端の” とかとは縁遠い感じの場所だ。

暑さで外出をひかえてていたが、 近所への散策のようなアートギャラリーとカフェ巡りで、 いつもは無意識にしている行動=想像すること、 本を読むことを意識的に考えるきっかけに出会えた気がした。

東京のカフェ写真:筆者提供
デヴィッド・ホックニー
写真:筆者提供

<関連情報>

□「野又穫 Continuum 想像の語彙」展
https://www.operacity.jp/ag/exh264/j/introduction.php

会期:2023年7月6日(木)~9月24日(日)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
開館時間:11:00~19:00(入場は18:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合翌火曜日)

□fuzkue 本の読める店
https://fuzkue.com/shops/hatsudai

住所:東京都渋谷区初台1-38-19 二名ビル2F
営業時間:12:00~23:30(基本無休)
案内書き:https://fuzkue.com/guide


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2023/08/21

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