Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。
エリック・カールが亡くなった。
『はらぺこあおむし』は息子たちが小さかった頃、よく読んで聞かせた絵本だ。
YouTube > Eric Carle reads The Very Hungry Caterpillar
この絵本は、もう出版から50年を超えているという。
そういえば去年、立川の「PLAY!」でエリック・カールの展覧会がオープニング企画で開催されたのを思い出した。
「PLAY!」は立川にできた「GREEN SPRINGS」という複合施設の一画にあるミュージアムと、子どものための屋内広場プレイパークが併設された文化施設で、「PLAY! MUSEUM(プレイミュージアム)」では、絵本やマンガ、アートの本格的な展覧会が行われている。
「絵とことば」をテーマに有名な絵本作家の世界を紹介する「年間展示」と、五感を使って体感的に楽しめる「企画展示」で、ふたつの展覧会を同時に見ることができるとあった。
立川駅北口からは、モノレールが上を走る真っ直ぐな道が伸びている。
「IKEA」目当てで通った道だが、随分と長い間その片側が工事のための大規模なフェンスで覆われていた。
そのフェンスが取り払われ、GREEN SPRINGSという公園、緑地、ホールやホテルなどを内包する9棟からなる小さな街が出来上がっていた。
ここは1977年に返還されるまで米軍立川基地のあった場所で、その後昭和記念公園へと変わったがその東の端に位置している。
緑の多い中庭、立川飛行場の滑走路をモチーフとした長さ約120mのなだらかな階段とそれに沿って流れる滝が、街路と多目的ホールの屋上を繋いでいる。


「PLAY!」は? と探すと、2階にある中庭の向こうに木の彫刻のような文字を発見。
ここが入り口だ。

そこからは日本の絵本作家亀山達夫と中川敦子によるユニット「tupera tupera」の体験型展示が空間を縦横無尽に繰り広げられていた。


その先にお目当てのエリック・カール展が。
入り口の小さな窓から、はらぺこあおむしがひょこっと顔を覗かせている。色やかたちが視界を覆い、まるで絵本の中に紛れ込んだかのような展示だ。


エリック・カールのアトリエでの創作を追ったフィルムも上映されていた。
薄い紙に筆跡が残るように色を塗り、様々な「色紙」をつくっていく様やそのストックの多さ!。
下絵をトレーシングペーパーに描き、「色紙」の上に重ね下絵ごと切り取る。その紙に刷毛で糊を塗ってコラージュしていく独特な手法が明かされる。
YouTube > Eric Carle in seinem Atelier
こちらは『はらぺこあおむし』50周年記念のフィルム
YouTube > Eric Carle Discusses 50 Years of The Very Hungry Caterpillar
ミュージアムとその上階のプレイパークは、手塚貴晴と手塚由比のユニット「手塚建築研究所」の内装設計。
カフェではチョコレートケーキから顔を出す、はらぺこあおむしのケーキが出されていた。



エリック・カール展の次の年間展示は、現在開催中の「ぐりとぐら しあわせの本」展(来年3月まで開催予定)。
企画展示は先に触れた「tupera tuperaのかおてん.」に引き続きアーノルド・ローベル展、現在は「みみをすますように 酒井駒子」展が開催されている。
YouTube > PLAY! MUSEUM「みみをすますように 酒井駒子」展 ムービー
7月10日からはミッフィー展も開催予定だ。

「がまくんとかえるくん」誕生50周年記念 アーノルド・ローベル展は2022年春に伊丹市立美術館などへ巡回予定。


絵本の展覧会といえば、去年逝去された安野光雅さんの絵本の個展「Anno’s Journy 安野光雅の世界」を1昨年ロンドンのジャパン・ハウスで見た。

あまり見たことのない切り絵の作品がこんな展示になっていた。


『旅の絵本』は原画も展示され、言葉のない絵本なので会場の床に置かれたクッションに腰掛けて食い入るようにして異国の人たちが「読んで」いたのが印象的だった。

写真:筆者提供

去年大きな本棚4つ分の本を古書店に引き取ってもらったが、子どもの本だけはとってあったはずだ。
あった、あった。
“はらぺこあおむし”は食べても食べても“おなかはぺっこぺこ”。
この言葉の繰り返しと、あおむしの食べた後に空いた丸い穴によってお話の中にどんどん引き込まれていく。

他にもバージニア・リーバートンの何冊かとピーター・ラビット、これは石井桃子さんの訳が素晴らしい。
『ぐりとぐら』も、『ふたりはともだち』のがまくんとかえるくんたちも、いたいた。

「ぼくらのなまえはぐりとぐら
このよでいちばんすきなのは
おりょうりすること たべること
ぐり ぐら ぐり ぐら」
この言葉の繰り返しも本当に楽しい。
巨大な“きいろいかすてら”を森の皆と一緒に食べたくなる。
—— 子どもたちよ
子ども時代を しっかりとたのしんでください。
おとなになってから、老人になってから
あなたを支えてくれるのは
子ども時代の「あなた」です。——(石井桃子 2001年7月18日)
「いい本は年をとらず、いつも新しい」
「本は一生のともだち」
これらも石井桃子さんの言葉だ。
子どもにもおとなにも、いい絵本との出会いがあって欲しいと思う。
5月に、英国にいる長男のところに女の子が生まれた。
彼女に送ったHer First Picture Bookはジョン・ケージの『MUD BOOK』。
Utrecht > MUD BOOK
どろんこを捏ねて、太陽の熱がオーブンになって焼き上がる泥のパイのつくり方が描かれた楽しい絵本だ。
最後にこう書かれている。
“MUD PIES ARE TO MAKE AND TO LOOK AT (AND ENJOY)
NOT TO EAT“

<関連情報>
□PLAY!
「ぐりとぐら しあわせの本」展
2022年3月末まで開催予定
https://play2020.jp/article/guri-gura/
「誕生65周年記念 ミッフィー展」
2021年7月10日(土)~9月12日(日)まで開催予定
https://play2020.jp/article/miffy65/
□GREEN SPRINGS
https://greensprings.jp/about/
□SORANO HOTEL
https://soranohotel.com
□『はらぺこあおむし』(1969年) エリック・カール作 もりひさし訳 偕成社
https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784033280103
□『ふたりは ともだち』 (1970年)アーノルド・ローベル作 三木卓訳 文化出版局 ミセスのこどもの本
http://books.bunka.ac.jp/np/isbn/9784579402472/
□『ふたりは いっしょ』(1971年)アーノルド・ローベル作 三木卓訳 文化出版局 ミセスのこどもの本
http://books.bunka.ac.jp/np/isbn/9784579402489/
□『ふたりは いつも』(1976年)アーノルド・ローベル作 三木卓訳 文化出版局 ミセスのこどもの本
http://books.bunka.ac.jp/np/isbn/9784579400805/
□『ふたりは きょうも』(1979年)アーノルド・ローベル作 三木卓訳 文化出版局 ミセスのこどもの本
http://books.bunka.ac.jp/np/isbn/9784579400942/
□『ぐりとぐら』(1967年)なかがわ りえこ 作 / おおむら ゆりこ 絵 福音館書店
hhttps://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=62
□『MUD BOOK』(1950’s)John Cage & Lois Long Harry N. Abrams
https://utrecht.jp/products/mud-book-john-cage-lois-long
□絵本についての本 お薦め3冊
『ページをめくる指』金井美恵子著 平凡社ライブラリー
https://www.heibonsha.co.jp/book/b160952.html
『クシュラの奇跡 140冊の絵本との日々』ドロシー・バトラー著 百々佑利子訳 のら書店
https://norashoten.co.jp/book_detail/クシュラの奇跡ー140冊の絵本との日々/
『石井桃子の言葉』とんぼの本 新潮社
https://www.shinchosha.co.jp/book/602251/






