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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第46回:コウノトリの巣のある家

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


コウノトリの巣がどのくらいの大きさのものか考えたこともなかった。
代々木上原の静かな住宅街の庭木の桜の大木に、コウノトリの巣が出現した。

コウノトリの巣
などや代々木上原の庭につくられたコウノトリの巣。 写真:筆者提供

ここ「などや代々木上原」は緑豊かな庭のある築60年の住宅をリノベーションしたオルタナティブ・スペースで、ギャラリーとカフェが週末の金土日だけ開かれている。
今年8月に、辰野しずかによる梅の木で染めた飴によるインスタレーション「a moment in time -ume-」を見に一度訪れたことがある。

やはり築60年の家屋をリノベーションした「などや恵比寿」の庭の梅の木を使った“草木染め”の飴をガラスのようなオブジェにしたもので美しかった。

インスタレーション「a moment in time -ume-」
2021年8月7日から9月30日まで行われた辰野しずかによるインスタレーション「Amoment in time -ume-」。 Photo : Yukikazu Ito
インスタレーション「a moment in time -ume-」
写真:筆者提供
インスタレーション「a moment in time -ume-」
写真:筆者提供

「などや」はコロナ禍の最中の昨年、建築ディレクターの岡村俊輔と、テクニカルディレクターの遠藤豊によって設立され、2箇所のスペースを運営している。
芸術、文化、食、生活など様々なことがどのように融合し作用し合う試みの「場」であり、「創造的な交流ハブとして機能することを目指す」とあった。

岡村によるリノベーションで古い家屋の居間はガラス張りのギャラリーになり、石洗い出しのコンクリートが庭に張り出したコーヒー・スタンド「nadoya no kaTte」も併設された。 庭の所々に置かれた椅子を自分で選び、思い思いの場所でコーヒーを楽しむことができる。

nadoya no kaTte
Photo : Yukikazu Ito
nadoya no kaTte
元浴室をリノベーションしたカフェ、壁は解体時に剥がしたタイルを金継ぎで修復して新たな壁面にしたもの。 写真:筆者提供

今、開催されているのは「Fuji Stool」という椅子の展覧会だ。

2011年、オーストリア・ライディング村に建築家・藤森照信設計の小さな家「鸛庵(こうのとりあん)|Storkhouse」が建設された。ライディングは作曲家フランツ・リストが生誕したのどかな村で、2006年にモダンなコンサートホールが建設されリスト・フェスティヴァルが開催されるが、人口800人の小さな村には音楽家たちを受け入れる宿舎がなかった。オーストリア出身の作家で写真家であるローランド・ハーゲンバーグは、ライディングにアーティスト・イン・レジデンスを建築するライディング・プロジェクトの立案とこのプロジェクトにふさわしい日本人建築家の選定を行った。
選ばれた10組の建築家は、この村のために小型で多目的な建築を考えた。彼らへの課題は敷地25平米、2階建以下の低層住宅。その狭い面積の中に、バスルーム、寝室、オフィス、キッチンの機能が備わった居住空間を収めること。

ライディングの森から切り出したオークの木と藤森照信
ライディングの森から切り出したオークの木と藤森照信。 Photo by Roland Hagenberg
ライディングの村
ライディングの村 Photo by Roland Hagenberg
コウノトリを待つ藤森氏とローランド・ハーゲンバーグ氏
コウノトリを待つ藤森氏とローランド・ハーゲンバーグ氏。 Photo by Roland Hagenberg
Storkhous
藤森氏による、コウノトリがアフリカから渡る経路と東京、ウイーンからライディングまでの地図とStorkhouseの詳細。藤森氏は準備段階の2010年から建設中、竣工後の2014年までの間に10回ライディングに滞在している。滞在先は地図にもあるストークハウスの近くにあるローランド氏所有のファームハウスだったそうだ。(画像は、藤森照信氏のスケッチにとローランド・ハーゲンバーグが色をのせたもの)
Storkhous
Photo by Roland Hagenberg
Storkhous
Photo by Tomas Soucek
Storkhous
Photo by Roland Hagenberg
Storkhous
Photo by Tomas Soucek

ライディング村は毎年春になると越冬地アフリカからコウノトリが飛来し、煙突のてっぺんに巣をかけるところだそうだ。
「コウノトリの鳥の巣のようなものをライディングの中にポッとつくれたら嬉しいなと」 建築家・藤森照信は遥々海を渡ってくるコウノトリの巣を考えの中心に置いてこの家を設計した。
彼は、村民と共にオーク材を探しに森へ行き木を切り倒し、運び、板にし、焼いて焼き杉板に加工する。
藤森は「建築は、専門家がつくるものだと思われているが、実は普通の人達、子どもでも参加できることがたくさんある」現代の物づくりの中でも例外的なものだと語り、まさに村民との共同作業はその実践だった。

Storkhouse 藤森照信建築と鸛庵
YouTube > Storkhouse Movie-Trailer 15min

鸛庵の12mも高くそびえるオークの柱の上につくられた巣にコウノトリが飛来する様子は感動的だ。
この家が見事にライディング村に同化したことをコウノトリが証明したかのようにも見える。

「Fuji Stool」は「鸛庵(こうのとりあん)|Storkhouse」のためにライディングの地元の木工職人によってつくられたスツールで、オーストリアン・オークが使用されている。
今、展示されているのは日本国内向けに限定で99点生産されたもので、国産のクリとケヤキを使っている。三重県多気郡大台町の家具職人・谷藤重美の手によるものだ。

Fuji Stool
日本国内むけの「Fuji Stool」のファーストエディションは99脚限定で制作される。 Photo : Yukikazu Ito
Fuji Stool
この椅子はそれぞれの土地の木材を使い、ナイフや斧、ノコギリ、ノミなどの手で使う道具を用いる職人の技と知識、デザインへの深い理解と共感によって生まれたもの。エディション・ナンバーが一つひとつにつけられている。 Photo : Yukikazu Ito

このスツールに座ってコーヒーを楽しむこともできる。

fuji stool
「などや代々木上原」に置かれたfuji stool。壁面は焼き杉、床には水苔を敷き詰めて。 写真:筆者提供
木の壁
写真:筆者提供
fuji stool
写真:筆者提供
コウノトリの巣
小枝でつくられた「などや代々木上原」のコウノトリの巣も、このライティングも国内でFuji Stoolを制作した木工職人谷藤重美によるもの。 写真:筆者提供
Storkhous
Storkhouseに営巣するコウノトリたち。 Photo by Roland Hagenberg

庭にあるコウノトリの巣は、ライディングの鸛庵の巣と同じ大きさのものだという。
コウノトリは大昔は大樹の尖頭に巣をかけたそうだが、人里近くに営巣するようになり欧州では春から夏にかけて煙突の上に巣づくりをするようだ。
ライディングでは冬が終わる頃、消防士たちがクレーン車に乗ってコウノトリの巣を掃除し、次の飛来のために備えている。

ライディングにある小枝でつくられた大きな巣や、コウノトリを迎える家、その家のためにつくられた木のスツールにまつわる物語。
もう一つの「コウノトリの巣のある家」=「などや代々木上原」は、そんな話を聞くのに最もふさわしい場所だった。

などや代々木上原
「などや代々木上原」のエントランスに置かれたStorkhouseの模型。 写真:筆者提供

<関連情報>

□などや代々木上原
https://www.nadoya.jp
問い合わせ:ciao@nadoya.jp

□nadoya no kaTte
https://www.instagram.com/nadoya.katte/

□︎Sotorkhouse
https://www.storkhouse.club

□︎︎Roland Hagenberg
https://www.storkhouse.club/roland-hagenberg

□︎︎︎Fuji Stool の販売に関するお問い合わせ先 Three Travelers
https://ja.3trvlrs.com

Fuji Stool designed by Terunobu Fujimori for the Storkhouse
会場:などや代々木上原
会期:2021年10月8日(金)~11月14日(日)の金・土・日・祝/11:00~18:00
ファーストエディションは、期間中「などや代々木上原」にて先行販売されます。

□︎ローランド・ハーゲンバーグが記録した鸛庵
https://www.storkhouse.club/news
会期:2021年12月12日(日)~2021年12月25日(土)
開館時間:9:00~17:00(最終日は16:00まで)
会場:歴彩館1階(京都市左京区下鴨半木町1-29)
入場無料

>トークイベント/建築家 藤森照信×作家・写真家 ローランド・ハーゲンバーグ
https://www.storkhouse.club/news
日時:2021年12月12日(日) 開場:13:30 開演:14:30 定員:先着240名
会場:歴彩館1階 大ホール(京都市左京区下鴨半木町1-29)
チケット:前売り1200円 当日1800円  ※定員になり次第締め切らせて頂きます。
問い合わせ先:ideakei@mifty.com


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2021/10/23

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