Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、 東京在住。 武蔵野美術大学卒業後、 女性誌編集者を経てその後編集長を務める。 現在は気になる建築やアート、 展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。
デヴィッド・ホックニーは7月9日で86歳になったそうだ。
60年以上もアートシーンを牽引する英国のレジェンドだが、 作風はいまだに瑞々しい。
ポップアートの旗手として若くして脚光を浴びた頃の彼は、 金髪に黒い丸縁眼鏡、 ボーダーのラガーシャツ姿がアイコンだった。
今はハンチングにチェックのスーツがトレードマークのようだ。
彼の作品は具象絵画がほとんどだが、 表現方法や画材や技法は常に update されている。
油絵、 水彩画、 版画、 ポスターなどの印刷物、 フォトコラージュ、 そして 2010 年以降は iPad を使用しているという。
けれど彼の絵画の根源的アプローチは一貫している。
「目の前の世界をどのように見るのか。 目の前の世界をどのように描くのか」
それを表しているのがこの展覧会の導入部の2点の花の作品だ。
1969年のエッチングと、 2020年の iPad 作品。
これは2020年3月にオンライン上で公開された新作で、 この言葉が添えられていたという。
‟Do Remember They Can’t Cancel the Spring”
彼の発信は、 コロナ禍の恐怖と不安で凍えた人の心を溶かし希望で世を照らした。
続くのはロサンゼルス移住していた1960~70年代頃に生まれた、 プールやスプリンクラーの作品、 そして肖像画の数々。
代表作 「クラーク夫妻とバーシー」 もある。
モデルとなった彼らは 60~70 年代スウィギングロンドンのファッション界の寵児オジー・クラークとセリア・バートウエル。
2017年に 「テート・ブリテン」 で行われたホックニーの回顧展では、 この絵の前で絵と同じドレスを着たセリアと並んだホックニーの2ショットが公開されて話題を呼んだ。
そしてフォトコラージュ。 京都の「龍安寺」の石庭を100枚以上の写真を貼り合わせて表現したもの。 この庭を矩形で表すために駆使した手法だ。
ロイヤルアカデミーの巨大な壁面を埋めるために描かれた 50 枚のタブローを繋げた大作。この制作過程のフィルムを見ていると、 数枚のカンヴァスを戸外に持ち出し自然光の下でペインティングする。 それをPCに取り込んで全体像を把握する。 これを幾度も幾度も繰り返していたことがわかる。 アナログとテクノロジーを駆使しての制作だということがよくわかる。
そして最終章が今回はじめて公開された全長90mの大作。 2019年からフランス北西部ノルマンディーに居を構えたホックニーは十数年ぶりにバイユーのタピスリーの展示を再び訪ねた。
彼はこの約 70m もの中世の刺繍画と対峙し、 コロナ禍の中、 身の周りの自然の移り変わりを描いた 「ノルマンディーの12ヶ月」 を制作したという。
今年に入ってホックニーの名が世界に大々的に配信されたのは、 ロンドンの 「コール・ドロップ・スヤード」 に2月にオープンした 「LIGHTROOM」 の柿落としのエキシビジョン 「Bigger & Closer」についてのニュースだった。
ここは広大なスペースに最新のテクノロジーによって投影されるビジュアルでアートを体感できる施設だ。
ホックニーの前進はまだまだ止まらないのだと実感させられたものだ。
コール・ドロップス・ヤードは今、 ロンドンで最も注目を集めるスポットだが、 以前このコラムにも書いたが、 ここで一番目を引くのは英国のデザイナー トム・ディクソンの本社オフィス、 レストラン、 ショップの集まる総合施設だ。
トム・ディクソンは先鋭的なデザインで革新を重ねてきたデザイナーだが、 彼の考え方 「ライフスタイルとは家具や照明などハードウエアのみで構成されるものでなく人間の視覚、 聴覚、 嗅覚、 味覚、 触覚といった五感を通じて感じること全てが含まれる」 の通り、 ここにはショップだけでなくレストランが併設されている。
そしてこの5月に東京・南青山にもトム・ディクソンのデザインの発信基地ともなる 「TOM DIXON TOKYO」 がオープンした。
ここも家具や照明の商品を選ぶことができるだけでなくカフェを併設しているので、 トムのつくった空間の中で彼のグラスでコーヒーを楽しめる。
「デヴィッド・ホックニー展」 の帰りに、 門前仲町に昨年4月にオープンした食と光の体験スペース 「LIGHT & DISHES」 に立ち寄った。
ここはライティングエディター谷田宏江さんが主宰する場所で 4.5m の天井高と最新の照明制御システムが導入され、 光によって食空間がいかに変化するか、 光のシュミレーションと共に特別なメニューの体験ができるラボだ。 8月中はトム・ディクソンの照明でコール・オフィス・レストランからインスパイアされた料理も提供され、 新商品も手に取ることができる。
英国のアートの巨匠と革新を続けるデザイナー、 二人の創作を満喫した1日だった。
※画像の無断転載を禁止いたします。
<関連情報>
□「デヴィッド・ホックニー展」
https://www.mot-art-museum.jp/hockney
会期:2023年7月15日(土)~11月5日(日)
会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F/3F
問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
休館日:月曜日(9/18、10/9は開館)、9/19、10/10
開館時間:10時~18時 (展示室入場は閉館の30分前まで)
※8/4、 8/11、 8/18、 8/25 (すべて金曜日) はサマーナイトミュージアムを開催。 21時まで開館
観覧料:一般2300円 大学生・65歳以上1600円 中高生1000円 小学生以下無料
□「デイヴィッド・ホックニー展」 ホックニーさんからのメッセージ
/ a message from David Hockney
https://www.youtube.com/watch?v=XjrXKN3iA0I
□TOM DIXON THE COAL OFFICE
https://www.tomdixon.net/en_gb/story/post/the-coal-office
ロンドン・キングスクロスのコール・ドロップス・ヤードに2018年にオープン。 本社オフィス機能と、 家具、 照明、 パフュームなど全ての TOM DIXON ブランドが揃う旗艦店。 シェフであるアサフ・グラニットの料理を TOM DIXON によるインテリア空間で楽しめる 「COAL OFFICE RESTAURANT」 が併設された総合的なスペース。
住所:4-10 Bagley Walk Arches, Coal Drops Yard, Kings Cross, London, N1C 4DH
□︎TOM DIXON TOKYO
https://www.tomdixon.tokyo/
アジアにおける TOM DIXON ブランドのデザイン・ハブ (発信基地) として2023年5月開業。 照明、 家具、 インテリア・アクセサリーなどのショップとしてだけなくカフェも併設されている。
住所:東京都港区南青山6-13-1 南青山IDÉALビル1F
営業時間:11:00~18:00
定休日:水曜日、日曜日、年末年始、夏季休暇あり
□︎︎LIGHT & DISHES
https://lightanddishes.com
住所:東京都江東区福住1-13-2
「TOM DIXON. 照明ディナー」
https://lightanddishes.com/news/article/694
8月のレストラン営業日時:8月25日までの水曜・木曜・金曜予定
営業時間:18:00~22:00
予約方法:希望の日程、 開始時間、 人数を記入の上 contact@lightanddishes.com へメールでお知らせください。