Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、 東京在住。 武蔵野美術大学卒業後、 女性誌編集者を経てその後編集長を務める。 現在は気になる建築やアート、 展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。
サグラダ・ファミリア聖堂は1882年に着工してから今年で約140年以上にわたって工事が続いている建築だ。
アントニ・ガウディのアルバイト先の建築専門学校の教授・ビリャールが設計した聖堂の着工からわずか1年7ヶ月で、 2代目の建築家にガウディは就任した。
その1883年から交通事故での不慮の死を迎える1926年までの43年間、 彼はこの聖堂建設に携わったという。
そして彼の死後も、 ガウディの構想を受け継ぎながらこの工事は継続中だ。
今、 竹橋の 「東京国立近代美術館」 で開かれている展覧会 「ガウディとサグラダ・ファミリア展」 は、 彼の生い立ちからはじまりガウディの創造の源泉を 「歴史」 「自然」 「幾何学」 という3つの観点から紐解いていく構成。
![サグラダ・ファミリア聖堂](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_7603.jpeg)
![サグラダ・ファミリア聖堂](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/5221b3f134a142d32c3105ba6318b4bc.jpg)
![サグラダ・ファミリア聖堂](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/acfac6f7fe74117fd804bdcc9b8819bd.jpg)
![サグラダ・ファミリア聖堂](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_7730.png)
そして本展の中核、 サグラダ・ファミリア聖堂の経てきた軌跡を辿る第3章が圧巻。
![サグラダ・ファミリア聖堂](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_7739.png)
![サグラダ・ファミリア聖堂](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_7747-1.png)
![サグラダ・ファミリア聖堂](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/4aee5860f835874e64d5c952a55ef601.png)
その上展覧会のためにつくられた図録が、 展示を補ってあまりある力作。
多くのガウディ研究の著書のあるこの展覧会の学術監修を務めた鳥居徳敏氏 (神奈川大学名誉教授) によると、 展覧会ではカバーしきれない膨大な資料がここには網羅されているという。
隅々まで読めば、 この一冊でサグラダ・ファミリア聖堂の謎を全て解き明かしてくれるような仕上がりになっている。
この聖堂建立の発案者は、 聖職者ではなく宗教関連の出版と書店を経営するジュゼップ・マリア・ブカベーリャで、 彼の起こした 「聖ヨセフ信心会」 という民間団体が母体となって信者の献金を集めて着工されたことをはじめて知った。
彼は産業革命によって増大した貧困層が信仰心を失うことを危惧した人物だ。
サグラダ・ファミリア聖堂は、 貧しい人々から集めた小額献金によって建てられる彼らのための教会なのだ。
着工までに苦難の8年を費やし、 ガウディ就任時にはこの後10年で完成させると公表されたという。 資金難は借金や巨額の献金で乗り切ってきたそうだ。
「サグラダ・ファミリア聖堂アルバム」 という完成予想図や図面、 模型写真などが掲載された出版物が1915年から刊行されてきたこともはじめて知った。
献金を募るいい説得材料となったに違いない。 その中に他の大聖堂との比較図もあったという。
![サグラダ・ファミリア聖堂](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_7758.png)
ドイツの 「ケルン大聖堂」 は、 4世紀ローマ時代から何度か焼失と再建が繰り返され1880年に完成するまで約632年の歳月がかかった。
4年前に尖塔が焼失したフランス・パリの 「ノートルダム大聖堂」 は、 1163年に着工し1345年に180年以上かかって完成を見た。
ルーベンスの 「キリスト降架」 で有名なベルギーの 「アントワープ聖母大聖堂」 は、 1352年の着工後170年余りの歳月をかけて建造された。
ミラノにある 「ドゥモ大聖堂」 は1386年に着工し、 幾度も工事中断の後、 約500年後にナポレオンの命によりフランスの資金で完成した。
それらと対比すれば、 サグラダ・ファミリア聖堂が140年で未完というのはまだまだ序の口かもしれないと思えてくる。
![サグラダ・ファミリア聖堂](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_7809.png)
![サグラダ・ファミリア聖堂](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/211f596378763e96f4bb78b7e54c7a83.jpg)
1985年に両親がバルセロナで撮影したサグラダ・ファミリア聖堂の写真が出てきた。 「降誕の正面」 の4つの塔に足場はないが 「受難の正面」 は工事中の足場が写っていて身廊部はまだ着工前だ。 40年足らずでの工事の進展ぶりに驚愕した。
![サグラダファミリア](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_8782-1.png)
140年にわたる建設中の聖堂を、 市井の人はどのように眺めていたのだろうか?
聖堂の完成への苦難の道のりこそが彼らの信仰心を育てる糧になっていたのではなかったか。 展示を見た後はそんな思いが湧き上がってきた。
![サグラダファミリア](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/f162cc299b05fa9028542556c92d05c6.jpg)
東京国立近代美術館を出て神保町方向に歩くと、 高橋貞太郎設計の名建築 「学士会館」 (1928年) が見えてくる。 関東大震災後の震災復興建築で、 ここは登録有形文化財だそうだ。
神田の老舗和洋古書の店 「一誠堂書店」 (1931年) も、 震災後の教訓を生かしたコンクリート建築。
1933年創業の 「茶房きゃんどる」 は斉藤茂吉、 草野新平など作家や文化人が愛した店。 昔は植栽で覆われるような古い一戸建ての建物だったが、 そっくりそのまま移築したような風情で新しいビルの一角に収まっている。
![東京の名建築](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_7577.jpeg)
![東京の名建築](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_7602.png)
![東京の名建築](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_7828-e1689217140506.jpeg)
![東京の名建築](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_7644.png)
![東京の名建築](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_7640-2.png)
日本では名建築もそうでないものも築100年も満たない建物が老朽化という名目で取り壊されていく。
「帝国ホテル」 さえ、 フランク・ロイド・ライト設計の名建築は跡形もない。
今は高橋貞太郎設計の建築で、 それも来年から建て替え予定、 2036年に完成だそうだ。
建造物の完成までの道のりと完成した後の維持と寿命。
竹橋から神保町までの道すがら、 さまざまな思いが交錯した日だった。
<関連情報>
□「ガウディとサグラダ・ファミリア 展」
https://gaudi2023-24.jp/
会期:開催中~2023年9月10日(日)
会場:東京国立近代美術館
休館日:月曜日
開館時間:10:00~17:00 (金・土曜日は20:00まで) 入館は閉館の30分前まで
巡回展:2023年9月30日(土)~12月3日(日) 佐川美術館、 2023年12月19日(火)~2024年3月10日(日)名古屋市美術館
□学士会館
https://www.gakushikaikan.co.jp
□一誠堂書店
https://www.isseido-books.co.jp
□茶房きゃんどる
住所:千代田区神田神保町1-103 東京パークタワー1F
営業時間:10:00~19:00
定休日:土曜日・日曜祝日