Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、 東京在住。 武蔵野美術大学卒業後、 女性誌編集者を経てその後編集長を務める。 現在は気になる建築やアート、 展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。
上野にマティスの作品がこれだけ揃うのは、 2004年の 「国立西洋美術館」 での展覧会以来約20年ぶりだそうだ。
パリの 「ポンピドゥー・センター」 からの約150点の作品によるアンリ・マティスの大回顧展が、 4月27日から上野の 「東京都美術館」 で開かれている。
![マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_4979.jpeg)
![マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/95aafa646150413c31036a335b868c42.jpg)
19世紀末に描かれた写実的な 「読書する女性」 から新印象派風の点描画 「豪奢、 静寂、 逸楽」 などの初期作品からはじまり、 やがてフォーヴィスム (野獣派) と称される色鮮やかで大胆な筆致と構図の作品へと変貌を遂げる過程がわかる展示だ。
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/7dd2bac7aac391a749d49a7209aff42f.jpg)
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/3dab1d38653591156fb6d4e0d4d62f68.jpg)
そして一転、 「白とバラ色の頭部」 のようなキュビスムの幾何学的な試みも見せる。
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/3bf6d80dded3f6b2eccea7222626c0fb.jpg)
「補足の習作として、 自分の考えを整理するために」 制作していたという彫刻では、 同じテーマで1909年から1930年まで制作した4点の 「背中」 のレリーフにその追求の姿勢を見ることができる。
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/c50cb7c5cee3aed8f381f395496aa980.jpg)
「金魚鉢のある室内」、 「コリウールのフランス窓」 と 「夢」 は、 時代は違うがマティスの選ぶ独特の青が印象的だ。
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/6f997d9dc08795ae61e64fa008e5e307.jpg)
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/3a43313a1f43ed2a0b7ba9e5ac26e915.jpg)
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/6a57490a6bb4af5991638dc61438756a.jpg)
こちらは強烈な赤 「マグノリアのある静物」 と 「赤の大きな室内」 が視界を覆う。
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/c66bbf8933ac9608a32d6dfcadc29640.jpg)
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/0b2ac828293db39d07c68e0338796922.jpg)
そして、 第7章 「切り紙絵と最晩年の作品」 の入り口では巨大な写真が出迎える。
車椅子に座るマティス、 床に散らばる切り抜かれた紙、 足元で指示を待つ助手。
ここからが圧巻だ。
71歳で結腸がんの手術を受けたマティスはその後、 車椅子生活を余儀なくされることになった。
生涯の最後の13年間はヴァンスの別荘ル・レーヴにある彼の寝室をスタジオにし、 絵筆の代わりに刃の長い鋏を持ち、 鮮やかな色で塗った紙を相手に創作をした。
アシスタントが彼の手足になり、 マティスの指示に従って壁に切り抜きフォームを設置し作品をつくり出していったのだ。
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_5122.png)
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/724f03fb120fde45311d6024b7b4df4c.jpg)
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_5131.jpeg)
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_5161.jpeg)
切り紙絵で構成された図版をリネンに転写プリントした限定30部の作品。 写真:筆者提供
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/IMG_5166.jpeg)
色に到達する道、 展覧会英語表記の The Path to Color とはこういうことだったのか。
ルノワールはリウマチで絵筆が握れなくなると、 手に絵筆を固定させて描いた。
ドガは晩年視力を失うとモデルの動きを音で感知して描いたという。
マティスは、 絵の具と絵筆の代わりに紙と鋏で制作した。
『遠く、 近く、 掛井五郎のこと』 (佐伯誠著 リトルギフトブックス刊) という本が最近上梓された。
文筆家・佐伯誠と一昨年91歳で世を去った彫刻家・掛井五郎が共有した時間や交わされた会話から、 二人の間の稀有な関係と知られざる掛井五郎像が浮かび上がる。
その中に、 米寿を過ぎてアトリエに降りるのが困難になった彫刻家がトイレット・ペーパーの芯を用いて夥しい数のオブジェをこしらえているのを知った筆者が 「まるでゴヤだ!」 と感嘆する記述がある。 ブロンズや巨大な石の塊が手元になくても彫刻家の手は止まらなかった。 真のアーティストは、 身体の機能を失ってもその制作意欲が消えることはない。 ここでも晩年の芸術家の姿を垣間見た思いになった。
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/180b540b520bfb587d5757047744152d.jpg)
そして最後の章が 「ヴァンス・ロザリオ礼拝堂」 だ。
この礼拝堂は建築、 ステンドグラス、 陶板壁画、 祭壇、 家具、 十字架、 上祭服 (司祭の服) まで全てマティスの仕事だ。
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/1e8844c8165e19dc8c1ff191560884f0.jpg)
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/fe5c35c4424069703c476da256affa1f.jpg)
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/364c097ae86bd8701fa1c50ca28513ee.jpg)
アンリ・マティス 《上祭服[マケット]》 1950-52年 綿布で裏打ちした切り紙絵 ポンピドゥー・センター / 国立近代美術館 カトー゠カンブレジ・マティス美術館寄託 Photo musée départemental Matisse, Philip Bernard ©NHK
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/5733d2250821a9d6849095441992829a.jpg)
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/151c5ffab93ff8e7451d83f92a84cbf3.jpg)
大病をして不自由になった身体で、 長い棒を駆使して壁面にデッサンするマティスの仕事ぶりを撮影した写真も展示されていた。
「私はこの礼拝堂を、 ひたすら自分を徹底的に表現しようという気持ちでつくりました。」 とインタビューに答えたという。
晩年に命の全てを注ぎ込んだ集大成がこの礼拝堂なのか。
巨大スクリーンに映し出される光のうつろいと共に表情を変え、 さまざまな色に満たされていくロザリオ礼拝堂の映像を見て感無量になった。
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/15726d9cc4710b882e8cfa6ac2727171.jpg)
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/16db4b1afe7e52960d3aec727e9ca2bc.jpg)
>>découverte de la chapelle Matisse à Vence
https://www.dailymotion.com/video/x62rdwh
https://www.musee-matisse-nice.org/en/the-artist/matisse-and-the-rosary-chapel/
マティスの終の住処となったニース市に、 マティスと相続人は彼の作品群約1500点を寄贈。 それを基に 「ニース市マティス美術館」 が 1963年に発足した。
来年の2月14日から六本木にある 「国立新美術館」 では 「ニース市マティス美術館」 の作品を核に 「マティス 自由なフォルム」 展が開催されるという。 これも必見な展覧会になりそうで楽しみだ。
<関連情報>
□「マティス展」
https://matisse2023.exhibit.jp/special/
会期:2023年4月27日 (木) ~ 8月20日 (日)
会場:東京都美術館
休室日:月曜日、 7月18日 (火) ただし7月17日 (月・祝)、 8月14日 (月) は開室
営業時間:09:30~17:30、 金曜日は20:00まで。 ※入室は閉室の30分前まで
入室方法の最新情報は展覧会公式サイトをご確認ください。
□関連企画 特集上映 「マティスと映画」
http://www.athenee.net/culturalcenter/program/ma/matisse.html
会期:2023年6月26日(月) ~ 7月1日(土)
会場:アテネ・フランセ文化センター
□「マティス 自由なフォルム」
https://matisse2024.jp
会期:2024年2月14日(水) ~ 5月27日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室2E
![アンリ・マティス](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/2.png)
□『遠く、近く、掛井五郎のこと』(佐伯誠 著 リトルギフトブックス刊)
https://littlegiftbooks.com
https://postalco.com/products/遠く-近く-掛井五郎のこと
![掛井五郎](https://oil-magazine.claska.com/wp-content/uploads/2019/10/bc8ac543e2d9bc0afb75.jpg)