Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、 東京在住。 武蔵野美術大学卒業後、 女性誌編集者を経てその後編集長を務める。 現在は気になる建築やアート、 展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。
森鴎外が晩年まで過ごした千駄木の自邸 「
今開催されているのは、 鴎外の長女・森茉莉の生誕120年を記念した 「森茉莉~幸福な日々、 書くという幸福~」 展。
森茉莉という名に誘われて千駄木へ行った。
団子坂を登り、 薮下通りに折れると観潮楼の正門があった場所に記念館の入り口があり、 銀杏の大木が見える。
大木の根元に大きな丸い石。 庭園を巡るとエントランスに出る。
薮下通りの入り口には鴎外が正門から出かける写真が掲げられていて、 この敷石も門柱跡もそのまま残されていることを知ってまず感動した。
地下の 「展示室 1」 では鴎外の生涯をさまざまな資料で辿ることができる。
観潮楼の建築模型、 数々の写真。 気になっていた庭の丸い大きな石は鴎外や家族の写真に写っている。 この石の前で撮った鴎外と幸田露伴、 斎藤緑雨の写真もあり、 3人の合評の文芸批評連載のタイトル 「
記念館は陶器二三雄設計による美しい現代建築だが、 観潮楼の記憶をさまざまな着想と工夫で再構築していて見事だ。
そして 「展示室 2」 が森茉莉の展示だ。
森茉莉は観潮楼で生まれ、 16歳で嫁ぐまで鴎外の格別な愛に包まれてここで育った。
その頃の着飾った茉莉の写真が愛らしい。
19歳の時に渡欧した夫を追ってパリへ、 その数ヵ月後に父・鴎外の訃報が旅先のロンドンに届く。
24歳で二人の息子を残して離婚、 本格的に翻訳や執筆活動をはじめたのは2度目の離婚で実家に戻ってからだ。
森茉莉の美意識は観潮楼での少女時代に形成されたもので、 記憶に残る当時の出来事や父の思い出をエッセイや作品に多く書き残している。 父との関係を描いた長編小説 『甘い蜜の部屋』 は10年の歳月をかけた彼女の文学の集大成とも言える作品で、 泉鏡花文学賞を受賞している。
腐女子的傾向のある私は、 萩尾望都の漫画に熱中する同じ熱量で 『枯葉の寝床』 や 『戀人たちの森』 などの森茉莉の小説世界に夢中になった頃があった。
登場人物の名も
煉瓦色、 象牙色、 薔薇色、 菫色などの色名や、
ピジョン・ブラン (白い鳩) という最上級の ‟ルビイ” は 「純白の鳩の胸を剣で突き刺した時に迸る血のように真紅いのでその名がついた」 ということも 『記憶の繪』 という本で知った。
「私は何か買う時、 品物そのものを買うというよりも、 ‟夢” を買って来るような、 奇妙な場合が多い」 ( 夢を買う話 『私の美の世界』 )
彼女は安物のガラスの
彼女にとって自分の美意識が全ての価値を決めるので、 世間の常識や価格の高低なんかは埒外だ。
そして男性の好みもはっきりしている。
雑誌 『ミセス』 に連載していた 「私の美男子論」 は汎用だが、 生涯を通してはこの3人に絞られる。
父・鴎外、 最初の夫・山田環樹、 そして夫の友人で 「稀代の色男」 矢田部達郎。
矢田部達郎は彼女のパリ時代、 同じ時期にフランス留学していて夫と共によく行動していた。
「ラスプーチンを美男にしたような」 とも形容されて、 エッセイにも度々登場する危険な香りのする男だ。
一体どんな人物なのだろう。
記念館では過去の展示図録も充実していて数冊を購入、 ミュージアムの 「モリキネカフェ」 で一休みしながら目を通した。
2017年には特別展 「鴎外の『庭』に咲く草花」 という展示もあったらしく牧野富太郎と鴎外との交流を知った。
NHKの連続テレビ小説 「らんまん」 では、 日本の植物学の黎明期に牧野富太郎と関わった人々が多く登場する。 牧野と東大の関係を最も左右した要潤演じる東大教授・田邊彰久は矢田部良吉がモデルだ。 え? 矢田部? 同じ苗字?
検索してみたらなんと、 森茉莉が魅せられた色男・矢田部達郎は矢田部教授の4男だったのだ。
さて、 今年は 「鴎外の食」 という展示もされていたらしく、 その展覧会図録の巻末には鴎外や家族が利用した観潮楼近隣の料理店や食料品店22軒のあった場所が記された地図が掲載されていた。
現在も続いている店は6軒。
帰りがてら寄ってみることにした。
千駄木の菊見煎餅、 上野精養軒、
千駄木から谷中に抜ける途中に 「
これも牧野博士が台湾で採集した植物らしいことをドラマで知った。
森茉莉は色々読んでいるが、 さて鴎外はというと……。
父の遺した膨大な蔵書はほとんど処分してしまったけれど、 森鴎外全集は残しておいたはず。
記念館で上映されていたフィルムで、 作家の平野啓一郎や詩人の伊藤比呂美が鴎外の描く女性の凜とした姿勢について語っていたので興味が湧いた。
まず『安井夫人』からはじめてみようか。
<関連情報>
□文京区立森鴎外記念館
https://moriogai-kinenkan.jp
住所:東京都文京区千駄木1-23-4
□生誕120年|文京区立森鴎外記念館コレクション展 「森茉莉~幸福な日々、書くという幸福~」
https://moriogai-kinenkan.jp/modules/event/?smode=Daily&action=View&event_id=0000002233
会場:文京区立森鴎外記念館 展示室2
会期:2023年10月10日まで
開館時間:10:00~18:00 (最終入館は17:30)
会期中の休館日:9月25日(月)、26日(火)
□モリキネカフェ
https://moriogai-kinenkan.jp/modules/contents/index.php?content_id=20
営業時間:10:30~17:30 (ラストオーダー17:00)
□菊見煎餅総本店
https://www.kikumisenbei.tokyo
住所:東京都台東区上野公園4-58
営業時間:平日/11:00~17:00 (L.O.16:00) 土日祝/10:30~18:00(L.O.17:00)
定休日:月曜日 (9月18日は営業)
□韻松亭
https://www.innsyoutei.jp
住所:東京都台東区上野公園4-59
営業時間:11:00~15:00、(月~土)17:00~23:00(L.O.21:00)、(日・祝)17:00~22:00(L.O.20:30)
定休日:なし
□伊豆榮 本店
http://www.izuei.co.jp/shop#Honten
住所:東京都台東区上野2-12-22
営業時間:11:00~21:00 (L.O.20:30)
定休日:なし
□蓮玉庵
住所:東京都台東区上野2-8-7
営業時間:平日/11:30~19:30 (中休み:15:30~17:00) 日・祝/11:30~19:00
定休日:月曜日、第2第4火曜日
□上野凮月堂
https://corp.fugetsudo-ueno.co.jp/history/?_ga=2.10037175.388715818.1693834360-1702140260.1693444505
住所:東京都台東区上野1-20-10
営業時間:10:30~18:00
定休日:元日、月曜日
□愛玉子
住所:東京都台東区上野桜木2-11-8
定休日:不定休
□カヤバ珈琲
https://www.instagram.com/kayabacoffee
住所:東京都台東区谷中6-1-29
営業時間:平日/10:00~17:00 土日・祝/9:00~18:00
定休日:月曜日